誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多

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油断も隙もない Ⅹ

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「わあぁぁーー!! この鶏肉、美味しい!!」
「本当に、焼いただけなの? 焦げてないのに香ばしくて、ふっくらしてて、さっぱりしてる!!」

 食レポをしながら、2人は感想を言い合って感動してくれる。
 確かに、たくさん歩いた後の食事は美味しいが、さすがにおおげさではないだろうか。

「焼いただけですよ。でも、この石の板が特別なんです」

 前に、溶岩の魔物から取れたジャスキル石を加工し、試しに肉を焼いてみたら、ものすごく美味しくできたのだ。
 それを、ちゃんと調理ができるように、加工したのがこの石板である。
 この考えは、思いのほか成功したらしい。

 前に詳しく石を調べてみたら、無数の気泡が中にあった。
 この気泡が余分な脂を吸い取ってくれて、さっぱりと、それでいて、カリッとさせてくれるのだろう。

「へえぇぇ。じゃあ、私が働く予定の食堂にも使えるんじゃないかな。そしたら、喜ばれて仕事しやすくなるよ?」
「あー、それも、良いかもしれませんね」

 この石は、溶岩がある山の魔物であれば、さほどめずらしいものでもないので手に入りやすい。
 頭の中に地図を描き、近くまで寄ったときに行ってみよう。
 そう、地図に想像の線を書いた。

 すると危機感が全く無いようで、アダマゼインは大きくあくびをして葉っぱのベッドに横になる。
 敵に狙われたりすることは、こわくないのだろうか。
 危機感が薄い。

「少し、眠たくなっちゃったー」
「私も」

 ユーディアも、その眠そうな声につられて寝てしまった。
 自由な二人である。

 だが、チャンスと言えばチャンスである。

「やるなら今か?」

 そっと、アダマゼインの近くへ寄って、再度、鑑定を行う。
 寝ている今なら無防備で、鑑定が遮断されないかもしれない。

 その時、背後に黒い影を感じた。

 バッと、振り向き、消え去った黒い影を追う。
 なんて、完璧に存在を消せるのか。よっぽどの実力者だ。
 近くにくるまで気配を察知出来なかった。

 だが、心配ない。
 十中八九、彼は、アダマゼインの側近とやらだろう。

 グランが、気を抜いている時に、攻撃を仕掛けてこなかった。
 だが、今はアダマゼインに危害を加えるのではないかと、グランを警戒したのだろう。

 そういう時は、僕は悪意がないよ大作戦だ。

 そっと、二人を見ると起きる気配もなく、ぐっすりだ。
 都合がよい。

 急いで鶏肉をさばき、石板の上にのせて焼いた。
 魔法で出した火と風がちょうどよく肉を焼き始める。

 そして、ここからが肝心だ。

 その黒い影に向かって、香ばしい美味しい香りが行くように煙に風をおくる。
 狙いを外さない。
 きっと、この匂いに我慢できない。

 アダマゼインのあの食べっぷりを見たら相当、お腹が空いているはずだ。

 そしたら、つられないわけがない。
 自信を持って、本日2回目の肉を焼いた。



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