誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか？

末弟、コンティ Ⅵ

「グ、グ、グラン？？？」

　全員が目を丸くして、瞬間移動をしたパンを見ている。

　すると、末弟のコンティが手をヒョイッと出して、そのパンを食べてしまった。

「美味しいよー」
「ちょっと！！　大丈夫なの？　体に異変は？」
　エンジュが、コンティの体をポンポン軽く叩きながら変なところがないかを探す。

「エンジュは、心配性だなあ。……むしろ、元気になった気がする！！」

　そう言って、コンティはジャンプした。
　すると、いきなり天井近くまで飛び上がり、ふわりと降りてきた。
　コンティはまだ魔法が使えないし、こんなに飛び上がれる訳が無い。
　慌てて表情をみんなが見るが、キョトンとするだけで問題はないようだ。

「異変、あるわね。……で、グラン？」
　あの優しいユーディアが、ニコニコと不穏な空気をまとわせて近づいてくる。

「………なんてね？　ちょっと、魔力が強すぎたかなぁ。すぐ、もとに戻りますよ」

「もう。この石を使った能力は、むやみに使わないように！　それが一緒に来る条件よ？」

　グランの顔の前にある白くて綺麗な細い指先に見とれてしまう。
　怒っているというよりかは、ものすごく心配をしてくれているみたいで素直にうなずく。

「はい。すみません」
「分かれば、よろしい」
「でも向こうについたら、これ設置しても良いでしょう？」

　グランはユーディアとも離れたくないが、エンジュともコンティとも義両親とも、一緒にいたい。
　自分に出来る、めいいっぱいの悲しそうな顔をして、訴えかける。

　でも不安が残るのか、ユーディアは簡単にうなずいてはくれない。

「では、こうしよう。王都に着いたら、合図として、パンをここまで瞬間移動してくれ。そしたら、お父さんがはじめに試してやる」

　やたらと嬉しそうに、父が言ってきた。

　きっと、これは自分が王都に行きたいからだ。
　そう確信したが、実は人体に問題ないことは自分で何度も確認して分かっているので同意をする。

　あんまり、自分で試したというと人体実験のようで、心配性の姉妹に怒られるから内緒だが。

「…………分かったわ。仕方ないわね」

　内心は、すぐに家に帰れる事は嬉しいのだろう。
　苦笑いだけれど、グランの頭をなでなでしながら、許してくれた。


　こうして、とりあえずの２人旅が始まる。