30 / 35
三十:部屋
しおりを挟む
「場所は?」
「ここからすぐ近くだな。場所は、海沿いをそのまま端まで行けば、すぐに分かる」
「……はい」
緊張したおもむきで、陽尊は建速に詳しい情報を聞いている。
一緒に、とは言ったものの経験値がゼロで、レベルが低い自分には何も出来ない。
話し合いが終わるやいなや、建速たちは何処かの繁華街に繰り出すつもりなのか、陽尊から金を奪い取って玄関から出ていった。
挨拶もそこそこに軽く手を軽く振って、バイバイをする。
あいかわらず、自由気まま過ぎる。
「……おまたせ」
「なんか、部屋が急に静かになった。……で、話合いは、どうだった?」
「うん。流れは把握した。すぐ近くだし、明日にでも行こうと思う」
「確かに早いほうが良いよな」
「そんなに難しい依頼じゃないみたいだし。でも、奏採は無茶をしないで」
「分かってる。陽尊もだから」
そうと決まれば、一度、家に帰って準備してこないと。
気になっていた冷蔵庫の中身や元栓などを閉めて、大家さんに挨拶も忘れない。
建速が風で散らかした部屋を片付けながら、今夜の事を考える。
……そっか。泊まりか。
家族以外と同じ部屋で誰かと眠るなんて、学校行事でしかないからちょっと緊張する。
しかも、二人きりなんて。
「……考え事?」
「あっ、ごめん。片付けの手が止まってた。一度、荷物をまとめてこっちに持ってこようかなって思って」
「本当に、一緒に住んでくれるんだ」
「……だから、俺だって助かるって」
窓の外を見ると、駅前のショッピングモールに明かりがついている。
海が見えたところは、異空間のように真っ黒で光と闇の対比がきれいで、ふらふらと窓辺に近づく。
「夜景、見るために来てくれただけでも嬉しいよ」
「夜景だけじゃないし」
「そう?」
「そ。じゃ、行ってくる。連絡はスマホで……って、部屋のテーブルの上に置きっぱなしだった」
「一人で行くつもりだった? ついて行くよ。荷物入れるために車を出すから」
「…………車、もってんの?」
「もちろん、兄との共同だからね」
家族に甘やかされてるのを嫌がるように、訂正されたが、もう遅い気がする。
一応、高校卒業時に免許は取ったが車を運転していない俺にしたら、その車を自由に使える環境がうらやましい。
やたらと座りごごちが良い車の助手席に座り、快適なドライブを楽しみながら部屋に戻ると、当たり前のように今朝と何も変わっていなかった。
もともと、物を増やさないようにしていたので、まとめる荷物は少ない。
大家さんにもらった段ボールに服や本をしまって、車の中につめこんだ。
調理器具や消耗品は、隣の部屋の友達に押し付ける。
……住み慣れた所に離れてもさみしくないな、と、静かに発進をする車の振動を感じながら物思いにふけった。
それは、きっと、隣に陽尊がいてくれるからだろう。
海沿いは灯りもなく、暗くて吸い込まれそうになるけど、陽尊ならすくい上げてくれるだろう。
だから、安心して真っ暗な海をじっと見つめて、沈み込むような感覚を楽しんだ。
「ここからすぐ近くだな。場所は、海沿いをそのまま端まで行けば、すぐに分かる」
「……はい」
緊張したおもむきで、陽尊は建速に詳しい情報を聞いている。
一緒に、とは言ったものの経験値がゼロで、レベルが低い自分には何も出来ない。
話し合いが終わるやいなや、建速たちは何処かの繁華街に繰り出すつもりなのか、陽尊から金を奪い取って玄関から出ていった。
挨拶もそこそこに軽く手を軽く振って、バイバイをする。
あいかわらず、自由気まま過ぎる。
「……おまたせ」
「なんか、部屋が急に静かになった。……で、話合いは、どうだった?」
「うん。流れは把握した。すぐ近くだし、明日にでも行こうと思う」
「確かに早いほうが良いよな」
「そんなに難しい依頼じゃないみたいだし。でも、奏採は無茶をしないで」
「分かってる。陽尊もだから」
そうと決まれば、一度、家に帰って準備してこないと。
気になっていた冷蔵庫の中身や元栓などを閉めて、大家さんに挨拶も忘れない。
建速が風で散らかした部屋を片付けながら、今夜の事を考える。
……そっか。泊まりか。
家族以外と同じ部屋で誰かと眠るなんて、学校行事でしかないからちょっと緊張する。
しかも、二人きりなんて。
「……考え事?」
「あっ、ごめん。片付けの手が止まってた。一度、荷物をまとめてこっちに持ってこようかなって思って」
「本当に、一緒に住んでくれるんだ」
「……だから、俺だって助かるって」
窓の外を見ると、駅前のショッピングモールに明かりがついている。
海が見えたところは、異空間のように真っ黒で光と闇の対比がきれいで、ふらふらと窓辺に近づく。
「夜景、見るために来てくれただけでも嬉しいよ」
「夜景だけじゃないし」
「そう?」
「そ。じゃ、行ってくる。連絡はスマホで……って、部屋のテーブルの上に置きっぱなしだった」
「一人で行くつもりだった? ついて行くよ。荷物入れるために車を出すから」
「…………車、もってんの?」
「もちろん、兄との共同だからね」
家族に甘やかされてるのを嫌がるように、訂正されたが、もう遅い気がする。
一応、高校卒業時に免許は取ったが車を運転していない俺にしたら、その車を自由に使える環境がうらやましい。
やたらと座りごごちが良い車の助手席に座り、快適なドライブを楽しみながら部屋に戻ると、当たり前のように今朝と何も変わっていなかった。
もともと、物を増やさないようにしていたので、まとめる荷物は少ない。
大家さんにもらった段ボールに服や本をしまって、車の中につめこんだ。
調理器具や消耗品は、隣の部屋の友達に押し付ける。
……住み慣れた所に離れてもさみしくないな、と、静かに発進をする車の振動を感じながら物思いにふけった。
それは、きっと、隣に陽尊がいてくれるからだろう。
海沿いは灯りもなく、暗くて吸い込まれそうになるけど、陽尊ならすくい上げてくれるだろう。
だから、安心して真っ暗な海をじっと見つめて、沈み込むような感覚を楽しんだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
すきなひとの すきなひと と
迷空哀路
BL
僕は恐らく三上くんのことが好きなのだろう。
その三上くんには最近彼女ができた。
キラキラしている彼だけど、内に秘めているものは、そんなものばかりではないと思う。
僕はそんな彼の中身が見たくて、迷惑メールを送ってみた。
彼と彼と僕と彼女の間で絡まる三角()関係の物語


初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
【完結】元魔王、今世では想い人を愛で倒したい!
N2O
BL
元魔王×元勇者一行の魔法使い
拗らせてる人と、猫かぶってる人のはなし。
Special thanks
illustration by ろ(x(旧Twitter) @OwfSHqfs9P56560)
※独自設定です。
※視点が変わる場合には、タイトルに◎を付けます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる