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八:視線
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「最初に言ったでしょう?」
「えー…、と?」
「特別な縁で結ばれた、絶対に逃れられない宿命を持っている、って」
……聞いた気はするが、聞かなかったフリをした。
それは、誰かの強い想いがこわかったから。
人を想う気持ちが強ければ強いほど、どこかに歪みが生まれる。
望むことも、そして、望まないことも。こっちが、なんと言おうとお構いなしで。
信じられない無窮の想いをぶつけられたら、どうしてよいのか分からなくなる。
物心がついた時から、誰かに特別に好かれることがこわかった。もちろん、それが傲慢な気持ちだというのは分かってる。自分なんて、たいしたことのない価値のない人間なのに。
だけど、どこかに自分を求めている人がいて、その人から「逃げなきゃ」という気持ちと「捕まりたい」という気持ちがどこかにあって……。
これは、この世に生まれてからの感情じゃない。
「転生、ってこと?」
その質問に、陽尊は目をまたたいて笑う。
「もう。そのファンタジー設定の言葉、面白いね。あぁ、なんか、奏採と話してると、異文化交流してるって感じる」
「……なんだよ。同じ日本人だろ?」
「そうだけど……。でも、魂がそのまま、別の依代に入り、生き返るのが転生というなら、そういうことかも」
たち?
複数形ということは、陽尊と俺か。でも、本当に記憶がない。
それに、陽尊から感じる、懐かしくて胸が苦しくなるような、この想いはなんだろう。
何かを忘れている?
「陽尊と俺。昔、なんか、あった?」
「うん」
「でも、全く覚えてない。記憶力は良い方だ。なのに、分からないんだ。陽尊の事」
大学に入るまで、小さなコミュニティの中から出たことはない。
こんなに、美しく容姿が整っていて、何でも出来そうな人物を見たら、さすがに覚えているだろう。
「そうだね。それで合ってる。奏採は、僕を忘れた」
「どこで?」
「思い出したい?」
「まぁ……、」
自分が気になるというのもあるが、陽尊のために思い出したい。
きっと、自分がやらなくちゃならない事があるはずなんだ。それを、忘れてるなんて。
「この肉体は魂の依代。つまり、体に完全に憑依してるって事。生まれけど、変わりはしない。魂は永遠にこの世に留まって、生き続けていくものだから」
「……魂って、転がらないんだ」
「この世界ではね」
また、変な言い回しに笑いをこらえているようだ。
「奏採は僕を知っているはず。ただ、奏採は自分が死んでると思ってるから、この世に生を受けても忘れて、思い出さないのかも」
そして、たまに感じていた、あの熱い視線を一直線に向けてきた。
避けることなんて、出来ない。全部、受け止める。
「聞かせて。何を聞いても、陽尊なら信じる覚悟は出来てる」
「ありがとう、奏採。……僕は、この世を創造している神に、交換条件を出したんだ」
「えー…、と?」
「特別な縁で結ばれた、絶対に逃れられない宿命を持っている、って」
……聞いた気はするが、聞かなかったフリをした。
それは、誰かの強い想いがこわかったから。
人を想う気持ちが強ければ強いほど、どこかに歪みが生まれる。
望むことも、そして、望まないことも。こっちが、なんと言おうとお構いなしで。
信じられない無窮の想いをぶつけられたら、どうしてよいのか分からなくなる。
物心がついた時から、誰かに特別に好かれることがこわかった。もちろん、それが傲慢な気持ちだというのは分かってる。自分なんて、たいしたことのない価値のない人間なのに。
だけど、どこかに自分を求めている人がいて、その人から「逃げなきゃ」という気持ちと「捕まりたい」という気持ちがどこかにあって……。
これは、この世に生まれてからの感情じゃない。
「転生、ってこと?」
その質問に、陽尊は目をまたたいて笑う。
「もう。そのファンタジー設定の言葉、面白いね。あぁ、なんか、奏採と話してると、異文化交流してるって感じる」
「……なんだよ。同じ日本人だろ?」
「そうだけど……。でも、魂がそのまま、別の依代に入り、生き返るのが転生というなら、そういうことかも」
たち?
複数形ということは、陽尊と俺か。でも、本当に記憶がない。
それに、陽尊から感じる、懐かしくて胸が苦しくなるような、この想いはなんだろう。
何かを忘れている?
「陽尊と俺。昔、なんか、あった?」
「うん」
「でも、全く覚えてない。記憶力は良い方だ。なのに、分からないんだ。陽尊の事」
大学に入るまで、小さなコミュニティの中から出たことはない。
こんなに、美しく容姿が整っていて、何でも出来そうな人物を見たら、さすがに覚えているだろう。
「そうだね。それで合ってる。奏採は、僕を忘れた」
「どこで?」
「思い出したい?」
「まぁ……、」
自分が気になるというのもあるが、陽尊のために思い出したい。
きっと、自分がやらなくちゃならない事があるはずなんだ。それを、忘れてるなんて。
「この肉体は魂の依代。つまり、体に完全に憑依してるって事。生まれけど、変わりはしない。魂は永遠にこの世に留まって、生き続けていくものだから」
「……魂って、転がらないんだ」
「この世界ではね」
また、変な言い回しに笑いをこらえているようだ。
「奏採は僕を知っているはず。ただ、奏採は自分が死んでると思ってるから、この世に生を受けても忘れて、思い出さないのかも」
そして、たまに感じていた、あの熱い視線を一直線に向けてきた。
避けることなんて、出来ない。全部、受け止める。
「聞かせて。何を聞いても、陽尊なら信じる覚悟は出来てる」
「ありがとう、奏採。……僕は、この世を創造している神に、交換条件を出したんだ」
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