常夜行計画、実行せよ

伊東 丘多

文字の大きさ
上 下
8 / 35

八:視線

しおりを挟む
「最初に言ったでしょう?」
「えー…、と?」
「特別な縁で結ばれた、絶対に逃れられない宿命を持っている、って」

 ……聞いた気はするが、聞かなかったフリをした。
 それは、誰かの強い想いがこわかったから。
 人を想う気持ちが強ければ強いほど、どこかに歪みが生まれる。

 望むことも、そして、望まないことも。こっちが、なんと言おうとお構いなしで。
 信じられない無窮の想いをぶつけられたら、どうしてよいのか分からなくなる。

 物心がついた時から、誰かに特別に好かれることがこわかった。もちろん、それが傲慢な気持ちだというのは分かってる。自分なんて、たいしたことのない価値のない人間なのに。

 だけど、どこかに自分を求めている人がいて、その人から「逃げなきゃ」という気持ちと「捕まりたい」という気持ちがどこかにあって……。
 これは、この世に生まれてからの感情じゃない。

「転生、ってこと?」

 その質問に、陽尊は目をまたたいて笑う。

「もう。そのファンタジー設定の言葉、面白いね。あぁ、なんか、奏採と話してると、異文化交流してるって感じる」
「……なんだよ。同じ日本人だろ?」
「そうだけど……。でも、魂がそのまま、別の依代に入り、生き返るのが転生というなら、そういうことかも」

 たち?
 複数形ということは、陽尊と俺か。でも、本当に記憶がない。
 それに、陽尊から感じる、懐かしくて胸が苦しくなるような、この想いはなんだろう。
 何かを忘れている?

「陽尊と俺。昔、なんか、あった?」
「うん」
「でも、全く覚えてない。記憶力は良い方だ。なのに、分からないんだ。陽尊の事」

 大学に入るまで、小さなコミュニティの中から出たことはない。
 こんなに、美しく容姿が整っていて、何でも出来そうな人物を見たら、さすがに覚えているだろう。

「そうだね。それで合ってる。奏採は、僕を忘れた」
「どこで?」
「思い出したい?」
「まぁ……、」

 自分が気になるというのもあるが、陽尊のために思い出したい。
 きっと、自分がやらなくちゃならない事があるはずなんだ。それを、忘れてるなんて。

「この肉体は魂の依代。つまり、体に完全に憑依してるって事。生まれけど、変わりはしない。魂は永遠にこの世に留まって、生き続けていくものだから」
「……魂って、転がらないんだ」
「この世界ではね」

 また、変な言い回しに笑いをこらえているようだ。

「奏採は僕を知っているはず。ただ、奏採は自分が死んでると思ってるから、この世に生を受けても忘れて、思い出さないのかも」

 そして、たまに感じていた、あの熱い視線を一直線に向けてきた。
 避けることなんて、出来ない。全部、受け止める。

「聞かせて。何を聞いても、陽尊なら信じる覚悟は出来てる」
「ありがとう、奏採。……僕は、この世を創造している神に、交換条件を出したんだ」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役Ωは高嶺に咲く

菫城 珪
BL
溺愛α×悪役Ωの創作BL短編です。1話読切。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

【完結】雨降らしは、腕の中。

N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年 Special thanks illustration by meadow(@into_ml79) ※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

処理中です...