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一:何処
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とんだ災難つづきだ。
那賀奏採は、呆然と、最大級の命の危険をかけた選択肢を迫られている。
トラブルの発端は、交差点を歩いている時に起きた、軽自動車との接触未遂事故。
あと数ミリで当たるという所で、俺が横っ飛びをして避けた。だが、避けた先が悪い。
ちょうど工事をしていて、開いていたマンホールに落ちかけて、指を骨折した。
右手の指全てと、右足の指を全部。
自分でも、こんな小さな骨ばかり、とても器用だと思う。
これなら車にぶつかっていた方が良かったかも知れない。きちんと青信号で歩いてた時の事故だから、怪我をしても保険金がおりた。
車の方だってノロノロの徐行運転で、軽い打ち身くらいで済んだだろう。
それなのに、自己責任となってしまった。
それから連鎖して、災難は続く。
指が使えない事で、最終試験で答案用紙に書いた名前の文字が汚くて、先生が読めないという理由で、大学を卒業目前にして単位を落とし留年。
しかも、4年生でしか受けられない必修の一つの単位のみ。他は余裕で取っていたというのに。
それくらい、大目に見てくれても良いのに。なんとか先生に掛け合っても「規則だから」と駄目だった。
しまいには、内定が決まっていた商社からは、謎の理由で取り消しをされてしまった。
そもそも卒業が出来ないので、就職もできないから良いのだが。
いや、良くはない。
気分的に、とても良くない。
地方から関東の大学に進学して一人暮らし。
頼れる人もいないし、自分一人で頑張らなくてはならないのだが、こうなると弱音くらい吐きたい。
半泣きになりながら、何度も路地裏で歩いていた猫に、くだをまいた。
キジトラ猫によく似てると言われるから、仲間意識もあって、こういう時に頼ってしまう。
この一抹を親に言うべきなのは分かってはいたが、意気揚々と島を出てきた手前、言いづらい。
留年のせいで追加でかかる学費は自分でバイトを頑張れば、1年くらい誤魔化せるだろう。
だが、ここでも不運確定演出がきたのか、どうも、ブラックなバイト先ばかりを選んでしまう。
ことごとく、何か大きな力で邪魔をされているようだ。
厄年は何才だっけか。
こうなってくると、目に見えない、何かを疑い始める。
スマホで調べると、厄年には少し早かった。
でも、もっとこれから大きな厄災がくるかもしれない。
そうだ、お参りに行こう。
そんな単純な連想ゲームで、神社へ行ってなけなしのぐしゃぐしゃの1000円を賽銭箱に入れ、念入りに手を合わせた。
「これで、大丈夫だ」
根拠のない安心感に包まれて、久しぶりに眉間からシワが無くなった。
自分にとっては大金の1000円。
その分の節約は、しばらく、豆腐ともやしで凌ごう。
そして、いざ帰ろうとした時に、何故か違和感を感じて、横にあった森を見る。
すると、そこには、ひっそりと大きな『茅の輪』があった。
……懐かしい。最近、見ていなかった。
出身地の小さな神社にあった茅の輪は、島の子供たちが楽しそうに八の字に、くるくると回っていたのを思い出す。
ご利益があるならば……。
そう思って、そっと足を踏み入れた時に向こう側から、グイッと引っ張られた感じがした。
「わぁ!!!」
べっシャアー、と派手に転ぶ。
神頼みなど、大丈夫ではなかったし、安心感になど包まれてもいなかった。
早速、転ぶなら1000円返して欲しいと神社を振り返るが、そこには何も無い雲が多い空のみ。
慌てて立ち上がり、この世界に来てしまった原因であろう茅の輪を何度もくぐるが、元の世界に戻れない。
転んで、頭を打って脳震盪でもおこしたのか?それで、寝てしまって夢でも見てるのかもしれない。
こういう時は、自分の都合が良いように脳に思い込ませるのが、精神衛生上とても良い。
神主が常駐していない、さびれた神社の奥まった茅の輪であったから、助けに来てくれる可能性は皆無だが、次第に目が覚めるだろう。
「最近、寝不足だったしなぁ」
ふんふんと、うなずきながら目頭を押さえる。
それより、何で空? ……浮いてる訳ではない。スニーカーの底には土がある。
とりあえず端まで歩いてみると、あっという間に行き止まりで、そこから下を見ると永遠に続く空だった。
自分が立つ所から端に沿って歩いて行くと、数分のうちに元の場所に戻る。
足もとにしるしをつけておいたから、間違いはない。
「あ、これ、太い棒の上に立ってるわ。俺」
妙に冷静に、判断する。
某オカルト雑誌にも載ってなかった現象に、笑うしかない。
遠くの底から、長く伸びている棒の上には、向こうの世界から切り取られたような土と茅の輪だけが、存在しているようだった。
「さっそく災難だ。1000円返せ!」
それどころでは無いが、とりあえず何かしなくてはと大きな独り言を言った。
すると、ヒラヒラと1000円が落ちてきた。
さすが、夢。
思い通りになるのか?でも、かえってそれが気に食わない。
「何だよ。今さら、返すな!」
すると、シュンッ、と1000円札がまた消えた。
「素直、すぎるだろ……」
がっくりして、肩を落とす。
他に情報はないかと遠くに目を凝らすと、世界が上中下の3つに割れて存在していた。
なんか、壮大なスケールの夢に対応するのが面倒になってきた。
とりあえず、ここで寝てみるか。しょうがないから、夢の中で寝て待とう。
スゥッと横になると、それを許さないように突然脳裏に声が流れた。
『上の地を選ぶなら、お前は2度と……』
『下の地を選ぶなら、お前は2度と……』
『真ん中の地であれば、運命の相手に出会い、未来永劫、幸せに暮らせるだろう!』
無茶な選択肢に、カッと目を開いて、思わず立ち上がった。
うるさいなぁ。こんなんじゃ、のんびりと寝れやしない。
それに、バレバレな誘導尋問に答えなくてはならないのかと、大きなため息をついた。
「『2度と……』の後、教えろよ! どうせ、ろくなもんでもないだろうがな!」
思い切り、脳内の声の主に怒鳴り声をあげる。
もう、どうにでもなれ、という感覚しかない。ぶっちゃけ、どれも罠がありそうで選ぶのは怖い。
選択肢次第では、今後、命に関わるかも……。夢の中でも死にたくない。こわい。
災難続きのせいで、自分が選ぶものへの自信がなくなってる。
そもそも性格的に、そんなにチャレンジ精神もなく、石橋を叩いて渡るタイプの人間だ。
消去法で言ったら、この答えしかないだろう。
「お望み通り、希望に乗ってやるよ!「中央の地」に行けば良いんだろ?早く、俺を連れてけ!」
那賀奏採は、呆然と、最大級の命の危険をかけた選択肢を迫られている。
トラブルの発端は、交差点を歩いている時に起きた、軽自動車との接触未遂事故。
あと数ミリで当たるという所で、俺が横っ飛びをして避けた。だが、避けた先が悪い。
ちょうど工事をしていて、開いていたマンホールに落ちかけて、指を骨折した。
右手の指全てと、右足の指を全部。
自分でも、こんな小さな骨ばかり、とても器用だと思う。
これなら車にぶつかっていた方が良かったかも知れない。きちんと青信号で歩いてた時の事故だから、怪我をしても保険金がおりた。
車の方だってノロノロの徐行運転で、軽い打ち身くらいで済んだだろう。
それなのに、自己責任となってしまった。
それから連鎖して、災難は続く。
指が使えない事で、最終試験で答案用紙に書いた名前の文字が汚くて、先生が読めないという理由で、大学を卒業目前にして単位を落とし留年。
しかも、4年生でしか受けられない必修の一つの単位のみ。他は余裕で取っていたというのに。
それくらい、大目に見てくれても良いのに。なんとか先生に掛け合っても「規則だから」と駄目だった。
しまいには、内定が決まっていた商社からは、謎の理由で取り消しをされてしまった。
そもそも卒業が出来ないので、就職もできないから良いのだが。
いや、良くはない。
気分的に、とても良くない。
地方から関東の大学に進学して一人暮らし。
頼れる人もいないし、自分一人で頑張らなくてはならないのだが、こうなると弱音くらい吐きたい。
半泣きになりながら、何度も路地裏で歩いていた猫に、くだをまいた。
キジトラ猫によく似てると言われるから、仲間意識もあって、こういう時に頼ってしまう。
この一抹を親に言うべきなのは分かってはいたが、意気揚々と島を出てきた手前、言いづらい。
留年のせいで追加でかかる学費は自分でバイトを頑張れば、1年くらい誤魔化せるだろう。
だが、ここでも不運確定演出がきたのか、どうも、ブラックなバイト先ばかりを選んでしまう。
ことごとく、何か大きな力で邪魔をされているようだ。
厄年は何才だっけか。
こうなってくると、目に見えない、何かを疑い始める。
スマホで調べると、厄年には少し早かった。
でも、もっとこれから大きな厄災がくるかもしれない。
そうだ、お参りに行こう。
そんな単純な連想ゲームで、神社へ行ってなけなしのぐしゃぐしゃの1000円を賽銭箱に入れ、念入りに手を合わせた。
「これで、大丈夫だ」
根拠のない安心感に包まれて、久しぶりに眉間からシワが無くなった。
自分にとっては大金の1000円。
その分の節約は、しばらく、豆腐ともやしで凌ごう。
そして、いざ帰ろうとした時に、何故か違和感を感じて、横にあった森を見る。
すると、そこには、ひっそりと大きな『茅の輪』があった。
……懐かしい。最近、見ていなかった。
出身地の小さな神社にあった茅の輪は、島の子供たちが楽しそうに八の字に、くるくると回っていたのを思い出す。
ご利益があるならば……。
そう思って、そっと足を踏み入れた時に向こう側から、グイッと引っ張られた感じがした。
「わぁ!!!」
べっシャアー、と派手に転ぶ。
神頼みなど、大丈夫ではなかったし、安心感になど包まれてもいなかった。
早速、転ぶなら1000円返して欲しいと神社を振り返るが、そこには何も無い雲が多い空のみ。
慌てて立ち上がり、この世界に来てしまった原因であろう茅の輪を何度もくぐるが、元の世界に戻れない。
転んで、頭を打って脳震盪でもおこしたのか?それで、寝てしまって夢でも見てるのかもしれない。
こういう時は、自分の都合が良いように脳に思い込ませるのが、精神衛生上とても良い。
神主が常駐していない、さびれた神社の奥まった茅の輪であったから、助けに来てくれる可能性は皆無だが、次第に目が覚めるだろう。
「最近、寝不足だったしなぁ」
ふんふんと、うなずきながら目頭を押さえる。
それより、何で空? ……浮いてる訳ではない。スニーカーの底には土がある。
とりあえず端まで歩いてみると、あっという間に行き止まりで、そこから下を見ると永遠に続く空だった。
自分が立つ所から端に沿って歩いて行くと、数分のうちに元の場所に戻る。
足もとにしるしをつけておいたから、間違いはない。
「あ、これ、太い棒の上に立ってるわ。俺」
妙に冷静に、判断する。
某オカルト雑誌にも載ってなかった現象に、笑うしかない。
遠くの底から、長く伸びている棒の上には、向こうの世界から切り取られたような土と茅の輪だけが、存在しているようだった。
「さっそく災難だ。1000円返せ!」
それどころでは無いが、とりあえず何かしなくてはと大きな独り言を言った。
すると、ヒラヒラと1000円が落ちてきた。
さすが、夢。
思い通りになるのか?でも、かえってそれが気に食わない。
「何だよ。今さら、返すな!」
すると、シュンッ、と1000円札がまた消えた。
「素直、すぎるだろ……」
がっくりして、肩を落とす。
他に情報はないかと遠くに目を凝らすと、世界が上中下の3つに割れて存在していた。
なんか、壮大なスケールの夢に対応するのが面倒になってきた。
とりあえず、ここで寝てみるか。しょうがないから、夢の中で寝て待とう。
スゥッと横になると、それを許さないように突然脳裏に声が流れた。
『上の地を選ぶなら、お前は2度と……』
『下の地を選ぶなら、お前は2度と……』
『真ん中の地であれば、運命の相手に出会い、未来永劫、幸せに暮らせるだろう!』
無茶な選択肢に、カッと目を開いて、思わず立ち上がった。
うるさいなぁ。こんなんじゃ、のんびりと寝れやしない。
それに、バレバレな誘導尋問に答えなくてはならないのかと、大きなため息をついた。
「『2度と……』の後、教えろよ! どうせ、ろくなもんでもないだろうがな!」
思い切り、脳内の声の主に怒鳴り声をあげる。
もう、どうにでもなれ、という感覚しかない。ぶっちゃけ、どれも罠がありそうで選ぶのは怖い。
選択肢次第では、今後、命に関わるかも……。夢の中でも死にたくない。こわい。
災難続きのせいで、自分が選ぶものへの自信がなくなってる。
そもそも性格的に、そんなにチャレンジ精神もなく、石橋を叩いて渡るタイプの人間だ。
消去法で言ったら、この答えしかないだろう。
「お望み通り、希望に乗ってやるよ!「中央の地」に行けば良いんだろ?早く、俺を連れてけ!」
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