②正直に言うと、ダンジョンにいるのが好きなので何処にも行きません

記念すべき日

「無理。絶対に！無理。行くなら１人で行って！」
あまりの大きい声に、小鳥たちがピチュピチュ鳴きながら飛んでいった。
私達は行動１日目だというのに、森のダンジョン前で一悶着している。
もう、王子とか不敬とか関係ない。
今さら、今までの関係を変えられないよ。
「いやいや、それじゃ意味ないだろう。魔素が取れない。ほら、守ってやるから。防御魔法もかけるし。」
ルジェが、背中をグイグイ押してくる
そういう問題じゃない。
だって、私はダンジョンに入る前の森の植物やら低級魔物の専門なんだから。
初級を通り越して上級ダンジョンなんて絶対に無理だ。
きっと火を吐くドラゴンとかいるんだ。涙目になる。
「じゃあ、私のまわり、３重に結界を張っておいて。破られても大丈夫なようにだよ。」
諦める様子もないので妥協案を言う。ルジェが、しょうがないなあ、と指先でササッと色々やってくれたようだ。
「カウンターもかけておいた。」
「ありがとう！」
おお。いまいち不安なので鑑定してみるが、すごい強力だな。これなら大丈夫そう。
「言い忘れたけど、今から行くのは、上級ダンジョンの途中にある隠しダンジョンだ。ちなみに、超上級だから入るために許可がいるが、俺は王子なんで問題ない。さ、行こう。」
えぇ。お父様お母様、みんな、私はもうダメかもしれません。

しっかりとルジェの後ろに隠れて、離れないように歩く。
どうやら、まだ、お目当ての魔物は洞窟の奥の方らしく、サクサクと倒しては進んでいく。
大きな背中の後ろにいるので前は見えないが、魔物の音がとにかく恐ろしい。
「そろそろだな、ミュウ、魔素を集める準備を！」
おそるおそる目を開くと、目の前に火を吐く巨大なドラゴンがいた。
ほら、やっぱり、思った通りだよ。みんな、さようなら。
「おい、しっかりしろ。行くぞ」
バシュッ！
「頼む！今だ。」
え。もう？一撃で？って、そんな驚いている場合じゃない！
横たわっているドラゴンに手の平を向け、魔素を集めていく。
いつもより50倍くらいの魔素量だな。魔ウサギとはわけが違う。
シュウウウ、となるべく圧縮させる。
いそいで瓶に入れ蓋をした。あ、ちゃんと瓶に名前も書いとこう。火吐きドラゴンっと。
私が忘れないように指先から魔法線を出し書いてると、
「ミュウ、あらためて見るとすごいな。ありがとう。」
ルジェが褒めてくれた。嬉しいな。
「じゃ、次はアンデッド系行ってみるか。」
Ｓランク冒険者が、数人集まって、やっと倒す魔物を一人で何体もですか。
でも、私は成功したことに安心して、気が大きくなり元気になってきた。
「そうだね！行ってみよう！」

そんなこんなで、30体ほどの魔素サンプルが出来た。
「はぁー。疲れてきたよ。まだ、取る？」
さすがに元気が取り柄の私も疲れてくるよ。
「そうだな。そろそろ、帰るか。」
ルジェが剣を振って魔物をけちらしながら、答える。
「そのサンプルは俺が持って帰る。危険だし。ミュウは家に帰ってゆっくり休んでくれ。明日の朝に迎えに行く。」
やっと、帰れるー。明日かぁ。
「明日もこのダンジョンにくるの？」
聞いてみた。もう、ここにいる上級の魔物は、あらかた倒したような。
「いや、ノルドに作ってもらったモバイルポータルがあるから、他の所のダンジョンへ行く予定だ。」
会話にまたもや高貴な名前が出てきた。
よく聞くけど、ノルド殿下ってどんな人なんだろうな。
「備え付けのポータルの他に、持ち運び出来るのがあるんだね。便利そう。」
どちらも見たこと無いけどさ。
「一方通行だけどな。行く先からは入れないようになってる。俺の持っているポータルだけが入口で、出口がたくさんあるって言えば分かるか？安心しろ。この森にも出られるようにノルドにしてもらったから、ちゃんと日帰り出来る。」
確かに。簡単に誰でも行き来出来るようになってしまったら、犯罪者とか逃げ放題だもんね。
「分かった。じゃ、ここで解散かな。ルジェ、また明日ね」
安全な森の入口まで帰って、十字路の分かれ道まで戻ってきた。
「お疲れ様。こわいのに頑張ってくれてありがとう。」
「もう、最後の方なんてこわくなかったよ。次は私が倒しちゃうから。」
あと、数年は待ってほしいが。
「そうか、頼りにするわ。じゃあな。」
そういって、ルジェは村の屋敷の方へ帰っていった。
よーし！私も低級魔物くらいは倒せるようになるぞ。
そうして１日目が終わったのであった。