全方位、光る海面世界

伊東 丘多

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エピソード②

収穫のある迷子(後編)

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 このまま距離感をとったままでいるには、今後、色々と問題がある。
 ここは、素直に謝ろう。

「失礼な態度を取って、申し訳ありませんでした!」
「えー?取られてないし。オッケーオッケー」

 見た目は個性的だが、中身は優しいらしい。
 話し始めると、穏やかな声質なのかいつまでもしゃべっていたくなる雰囲気がある。
 一人で不安だったこともあり、誘ってみた。

「授業の時間まで、話しませんか?」
「断るはず無いよね。館長さん、面白いし」
「面白いって?……まぁ、良い意味で受け取っておきます」

 そう返しながら、じっと顔を見る。
 八重歯が動物っぽくて可愛いから親しみやすいのだろうか。
 彼と、いつ、次にこんなに話せるかわからない。

 優しさに甘えて、風灯はここぞとばかりに質問をする。

「……すごく気になっている事、聞いていいですか?」
「もちろん」

「芸術とか、ほとんど分からない俺が館長やるって、嫌じゃないですか?」
「何、言ってるの?むしろ、嬉しいよ。実績もあるしね」

「え?」 
「教科書通りの、つまんないベテランより、面白い考えを持った若い人にやってもらいたいしさ」
「……でも。何も知らないですよ?」
「これからだよ。それに、そりゃ、風灯だけなら心配だけど、背後にガッチリ守ってるバケモノがいるから。2人もね」

 ……海灯と、蒼衣の事だろうか。
 それに対しては、なんの反論もできない。
「………はい」

「まだ、言葉が欲しい?」
「……いえ、ありがとうございます」

 薄暗い顔をしてお礼を言う風灯に対して、続ける。

「世の中さ、色んなボーダーラインが曖昧になってる。良くも悪くも」
「?」
「例えば、芸人やってる弁護士に、絵を描く歌手に、モデルやってるスポーツ選手」
「……確かに、今、普通ですね」
「まだまだ、いるよ。みんな、多才でやりたい事にどんどん挑戦してる。だから、風灯もこわがらないでやってこう」

「やる気はあるんですが、迷惑かけないか心配で」
「大丈夫だよ。人生はインシデントで作られている」

 何で自分のまわりに無理だと言う人が居ないのだろうか。
 期待に応える事は、出来るのだろうか。
 それでも、知識は大切だ。

「あの!マネジメント論の他に、オススメの講義ってあります?」
「それは、単位が取れやすいってこと?それとも、勉強になるってこと?」

「もちろん、勉強です」

 風灯の顔を覗き込み、光が戻った目を見てくる。

「うん。わかった。頼れる先輩が完璧な共通科目のスケジューリングを組んであげよう」

「取りやすいのも、混ぜてくださいね」

 卒業はちゃんとしたいので、ちゃんと、保険もかけた。







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