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撃破
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高校を卒業してから、大学に入学するまでの変化の時。
貴重な時を無駄にしてはならないとは思うが、のんびりする時間も、今しかない。
そう思い込んで、風灯はステンドグラス越しに外を飛んでいるトンビを穏やかな心で、そっと眺める。
喫茶灯台の前店長と現店長は、現状維持の才能はあるものの、新しい事に飛び出す勇気はないようだ。
本日、店は定休日だが卒業生だけで打ち上げをしようと約束をした。
喫茶灯台でランチをするだけの簡単さだが、これが一番、気兼ねなく騒げて楽しく話せる。
食事は、近くに宅配をしてくれる飲食店もないので、蒼衣が簡単な料理を作ると準備だけ来てくれた。
海灯が計画を立てているアート館設立の会議が、午後からあるので準備をしたらすぐに帰るそうだ。
今、免許を取り立ての星野が車で駅に向かって行ったから、みんなが来るまでは、まだ少しある。
そんな中、蒼衣が湯気がたっている出来たばかりの料理を、調理場からテーブルに並べていく。
「蒼衣さん。とても、美味しそうです」
鳥の唐揚げやらサンドイッチやら、話しながら食べやすい料理を作ってくれた。
彩りも良くて、美的センスにも感動する。
その時、お皿を持っている綺麗な白い指を見ながら、卒業公演の後にあった事を思い出していた。
灯台での告白のくだりは「僕の誤解だった」と笑いながら、簡単に、冗談のように、流されていった。
その言葉に、何にも言えなくて、笑い返す。それだけ。
「つまみ食いする?」
「……はい」
「どうぞ?」
からりと揚げられた鶏のから揚げを、爪楊枝に刺し、ぼんやりしている俺の口にあてた。
美味しい。
突然、蒼衣が腕を組んで悩み出しはじめた。
「困ったなぁ。今日の新しい施設の会議なんだけど、明日の土曜日もあって……」
「…………、」
熱くて、喋られない。こくこく、うなずく。
「そろそろ、アート館を今年の夏明けにオープンしてみようと思ってるんだ」
……しっている。詳しい資料を海灯から貰ったが、難しい単語が多くてパラパラとしか読めていない。
口にはまだ唐揚げが入っているので、まだ、首を縦に動かす事しか出来ない。
「……でね、モデルの仕事が入ってて、僕の代わりに行ってくれると嬉しいのだけど、いい?」
……明日か。
喫茶灯台はの営業はあるが、スタッフも増え、店長のやることは少ない。
それに、何より蒼衣の力になれることが嬉しい。
あわてて、唐揚げを飲み込む。
「はい、良いですよ。シフトも問題ないですし」
「うん。ありがとう」
「蒼衣さんからの頼みじゃ、断れないです」
「そう?……じゃ、少し電話かけてくるね」
「……はい」
蒼衣が、唇に人差し指を当てて、シーッというポーズを取る。
さりげない動作なのに、かっこいい。
「あ、もしもし。海灯さん?あの件、風灯がやってくれるって。そう、後は説明お願いします」
……海灯?わざわざ、今、連絡する必要があるのか。
少しだけ、不安な気持ちになる。
「今度は、新設されたアート館の館長をよろしくね」
「……え?」
「僕の手を引っ張ってくれるんでしょう?」
察した。
きっと、これは海灯の最後の策略だ。
高校は卒業したが4月になっていないから、まだ高校生である。
「大学生になったら、こちらからは不必要な事は言わない。約束しよう」
反抗期を宣言した時に言われた言葉を思い出して、今さら海灯にしてはハッキリとした物言いじゃないことに気づく。
「やられた」
駆け込みで実行された過保護で過干渉だ。
しばらくすると、店の入口から、星野の車で送ってもらった友人が騒がしく入ってくる。
「久しぶりぃー。風灯」
「元気だった?わぁー、美味しそう!」
「すごいれ何ともオシャレ空間。」
「こ、これが、蒼衣さんの手料理!風灯、これはかなり特別だぞ!」
久しぶりの感覚だ。
「……みんな、」
高校生は終わるけど、みんな変わっていない。
その事に、少し安心をして席を案内する。
最後に、仕事が終わったのか、スーツ姿の海灯が入ってくる。
そして、ポンッと、目の前に置かれた資料が置かれた。
「風灯、明日までに読んでおいて」
それは、難しくて読むのを諦めたアート館の計画書を、簡単な言葉に変換させたものだった。
パラパラとめくり、中を確認する。
「……分かりやすいね」
「蒼衣と、協力して頑張れ」
……きっと、多分、知ってる。海灯は全部。
恥ずかしくて、この場から逃げ出したくなるけど、頑張って蒼衣の顔を見た。
すると、全てを、わかってくれているかのように、優しく微笑んでくれた。
貴重な時を無駄にしてはならないとは思うが、のんびりする時間も、今しかない。
そう思い込んで、風灯はステンドグラス越しに外を飛んでいるトンビを穏やかな心で、そっと眺める。
喫茶灯台の前店長と現店長は、現状維持の才能はあるものの、新しい事に飛び出す勇気はないようだ。
本日、店は定休日だが卒業生だけで打ち上げをしようと約束をした。
喫茶灯台でランチをするだけの簡単さだが、これが一番、気兼ねなく騒げて楽しく話せる。
食事は、近くに宅配をしてくれる飲食店もないので、蒼衣が簡単な料理を作ると準備だけ来てくれた。
海灯が計画を立てているアート館設立の会議が、午後からあるので準備をしたらすぐに帰るそうだ。
今、免許を取り立ての星野が車で駅に向かって行ったから、みんなが来るまでは、まだ少しある。
そんな中、蒼衣が湯気がたっている出来たばかりの料理を、調理場からテーブルに並べていく。
「蒼衣さん。とても、美味しそうです」
鳥の唐揚げやらサンドイッチやら、話しながら食べやすい料理を作ってくれた。
彩りも良くて、美的センスにも感動する。
その時、お皿を持っている綺麗な白い指を見ながら、卒業公演の後にあった事を思い出していた。
灯台での告白のくだりは「僕の誤解だった」と笑いながら、簡単に、冗談のように、流されていった。
その言葉に、何にも言えなくて、笑い返す。それだけ。
「つまみ食いする?」
「……はい」
「どうぞ?」
からりと揚げられた鶏のから揚げを、爪楊枝に刺し、ぼんやりしている俺の口にあてた。
美味しい。
突然、蒼衣が腕を組んで悩み出しはじめた。
「困ったなぁ。今日の新しい施設の会議なんだけど、明日の土曜日もあって……」
「…………、」
熱くて、喋られない。こくこく、うなずく。
「そろそろ、アート館を今年の夏明けにオープンしてみようと思ってるんだ」
……しっている。詳しい資料を海灯から貰ったが、難しい単語が多くてパラパラとしか読めていない。
口にはまだ唐揚げが入っているので、まだ、首を縦に動かす事しか出来ない。
「……でね、モデルの仕事が入ってて、僕の代わりに行ってくれると嬉しいのだけど、いい?」
……明日か。
喫茶灯台はの営業はあるが、スタッフも増え、店長のやることは少ない。
それに、何より蒼衣の力になれることが嬉しい。
あわてて、唐揚げを飲み込む。
「はい、良いですよ。シフトも問題ないですし」
「うん。ありがとう」
「蒼衣さんからの頼みじゃ、断れないです」
「そう?……じゃ、少し電話かけてくるね」
「……はい」
蒼衣が、唇に人差し指を当てて、シーッというポーズを取る。
さりげない動作なのに、かっこいい。
「あ、もしもし。海灯さん?あの件、風灯がやってくれるって。そう、後は説明お願いします」
……海灯?わざわざ、今、連絡する必要があるのか。
少しだけ、不安な気持ちになる。
「今度は、新設されたアート館の館長をよろしくね」
「……え?」
「僕の手を引っ張ってくれるんでしょう?」
察した。
きっと、これは海灯の最後の策略だ。
高校は卒業したが4月になっていないから、まだ高校生である。
「大学生になったら、こちらからは不必要な事は言わない。約束しよう」
反抗期を宣言した時に言われた言葉を思い出して、今さら海灯にしてはハッキリとした物言いじゃないことに気づく。
「やられた」
駆け込みで実行された過保護で過干渉だ。
しばらくすると、店の入口から、星野の車で送ってもらった友人が騒がしく入ってくる。
「久しぶりぃー。風灯」
「元気だった?わぁー、美味しそう!」
「すごいれ何ともオシャレ空間。」
「こ、これが、蒼衣さんの手料理!風灯、これはかなり特別だぞ!」
久しぶりの感覚だ。
「……みんな、」
高校生は終わるけど、みんな変わっていない。
その事に、少し安心をして席を案内する。
最後に、仕事が終わったのか、スーツ姿の海灯が入ってくる。
そして、ポンッと、目の前に置かれた資料が置かれた。
「風灯、明日までに読んでおいて」
それは、難しくて読むのを諦めたアート館の計画書を、簡単な言葉に変換させたものだった。
パラパラとめくり、中を確認する。
「……分かりやすいね」
「蒼衣と、協力して頑張れ」
……きっと、多分、知ってる。海灯は全部。
恥ずかしくて、この場から逃げ出したくなるけど、頑張って蒼衣の顔を見た。
すると、全てを、わかってくれているかのように、優しく微笑んでくれた。
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