全方位、光る海面世界

伊東 丘多

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浅い底と、渦の中

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 会場の15分前。

 地元ではない、大きな駅の駅前にある公会堂の入口に風灯は立っている。

 チケットは昨日、完売した。
 最後に買ってくれたのは、近くの大学生らしい。

 駅前で、足早く歩く人の波を見る。

 結局、本人たちだけが気負ってるだけで、来てくれている人は、底の浅い子供用プールの渦で溺れそうになって、パチャパチャしているのを手助けしてやろう、みたいな感じなのかもしれない。
 きっと、だれも、期待なんかしていない。
 だとしても、緊張はする。

「もう、観客が集まってきてるから、中に入ってもらって良いですかーーー?」

 入場門で、人案内を任されている一年生の後輩が風灯に大声で聞く。
 腕につけている時計を見て時間を確認すると、まだ、5分前だ。

 舞台の設営は作業でバタバタしているが、なんとか終わって確認のチェック作業らしい。

 少し思案して、みんなが準備をしている舞台の方へ走った。

「………みんな!来てくれた人、もう、入ってもらって良いかな?」

 全員に聞こえるように、長年鍛えたお腹から声を出す。
 各自、返事がくるが、問題ないみたいだ。

 すぐさま、モギリにいこうと入口に走る。
 外の通行人に迷惑はかけられない。

 すると、一番最初に並んでいるのは蒼衣だった。

「……普通に関係者として入ってください。」
「一年生がね、驚かしてあげて下さいって言うから」

 喫茶灯台の管理している蒼衣は、たまにしか合わない風灯よりも後輩と仲が良い。

「…………来てくれて、嬉しいです」
「こちらも、来れて嬉しいよ」

 いつものように、心にふわっと染み込むような優しい返事をくれる。

「おい。俺も来たんだが?わざわざ買って」
 隣にいた星野が、恩着せがましくチケットを風灯の顔の前でパタパタと動かしている。

「はい。星野先輩もありがとうございます。売上に貢献して頂いて」
「分かれば、よろしい。じゃ、行こう?蒼衣。」
「そうだね、星野」

 あいかわらず、二人だけにしかない空気感を出していて、悔しくて後ろから星野だけを睨む。


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