全方位、光る海面世界

伊東 丘多

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はじまり

情報分析

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夏休みが、終わった。

毎日が夢のような日々から、学校という現実も混ざり始め、少しずつ気持ちがバランスが取れて、落ち着いてきた。

喫茶灯台は相変わらず全く広告という人集めをしていないので、客の入りは多くはない。

文化祭が終わったら、人の流れがどうなるかを試すべく、むしろ客を増やしたくないそうだ。

経営コンサルタントという職業病だろうか。
いちいち統計とってデータ分析をする作業は、前へ前へ早く行きたい高校生にはまだるっこいが、先を見透えるには重要らしい。

そして、今日は待ちに待った、文化祭当日だ。

『即興芸術 喫茶灯台~潮風高校文化祭出張所~inラウンジ』が始まる。

蝶子先生も夏休みが終わり暇になったので、文化祭を手伝うべく参加してくれている。
「何かあったら声をかけて下さい」と言って、あたりをまわることにした。

蒼衣と星野には、客に発見されてしまう事を想定して、厨房に入ってもらっている。
出席日数も増えたので、生徒が出会う機会も多くなります、この学校にいるということが世間にも知られてしまっているのだ。

「僕も、フロアに出たいな……、」
と、ぽそりと言っては、蒼衣がちょこちょこ出てきてしまうので、星野も障壁としてつけた。

メニューは、夏葉に作ってもらった焼き菓子とペットボトルをコップに入れた飲み物の販売だけなので、仕事としては物を移し替えるだけの簡単な作業だ。
2人もいらないが、裏で一人で居させるのもさみしいだろう。
嫉妬心が、湧き上がってこないでもないが仕方ない。

「忙しい時、言ってね。僕、手伝うから」

何度も何度も名残惜しそうに言われたが、丁重にお断りした。
そんな簡単に登場させられる人ではないのだ。

文化祭出張所の内容は喫茶灯台と一緒だが、タッチパネルもないし機材もない。
そのため、入口で何かして欲しい芝居などの要望を聞いて、特になければ箱に入った役名が書いてある紙をひいてもらい、その役を演じる。

結果、特に問題なく終わった。
むしろ、何かあるくらいの方が良いのに、拍子抜けだ。

「何か、物足りないなぁ。無茶ぶりもないしね」
「うんうんうん。こう、ギリギリな精神状態になって、自分が覚醒していくような特殊なのが欲しいよ!」
「……そうだよなー。そうだ。注文タブレットの役名をさ、海灯さんに増やしてもらうか?」
「それ、良いんじゃない!」

言うだけならタダとばかりに、みんなが自分にプレッシャーをかけている。
向上心は、良いのだが……。

しばしの休憩の後、体育館で行っていた全体的な学校案内が終わると、部活動や委員会活動など生徒主体の説明会に移行する。
それを待とうとしたら、ちょうど全校アナウンスがながれた。

「これから、部活動説明会を始めます!各自担当者は準備してくださーい。」

どうやら、どの部活も新入生徒を集めたいらしい。
確かに、部活動に入らない生徒も多いから廃部にならないように必死なのだろう。
個別に相談のため、部員全員でラウンジで待ち構えた。
蒼衣もメンバーに入ったので、順番が当たった人は驚く人もいるかもしれない。

「どうぞーーー。一番最初でお待ち頂いた方、お入りください!」
風灯はドアを開けて、元気よく声を出す。
そして、一番乗りで並んでいた親子を中にいれる。

「失礼します。」
少し緊張をしてそうな中学生と、その母親らしい人が入ってきた。

「どうぞどうぞ。空いてる席にお座り下さい。あ、説明するのは、自分で良いですか?ここの高校に入るのでしたら、芸能部、おすすめですよ?自分は、音羽と言います。お名前は?」 
「あの、矢野律です………、」
「矢野さんですね!会えて嬉しいです!」

小声で返事が来たのを大声で返し、握手を差し出す。
ついつい、芝居の影響かテンションがおかしくなってしまった。
先程まで営業の社員の芝居をしていたのを引きずっている。

うまく切り替えが出来ないのは良くないな。
風灯は、握手をした手を気まずそうに離した。

変な対応に戸惑ったのか、中学生は何か言いたそうにしているのだが、言うのを迷っているようだ。
これは、緊張をとかなくてはならない。
隣りにいる保護者も見守るスタンスみたいで、にこやかに座っている。
大丈夫ですよ!とにっこり保護者の人にも会釈をする。
そして、自分に出来る最高の爽やかな声をだした。

「緊張しますよね。中学校では演劇部ですか?それとも、軽音部?」
「…………えっと、」
「あっ。すみません!中学校で、それっぽいこと何もしてなくても、楽しく参加出来ますよ。最初はみんな、初心者ですから!」
「……………………はい」

反応が薄い。
俺では、ダメなのだろうか………。
風灯は、にこにこと笑いながら、どんどん冷や汗が出てくる。

すると、横にいた蒼衣が何かに気付いたようにヒョイと体を向ける。

「あれ?喫茶灯台のプレオープンの時に君いたよね。なんか、声に聞き覚えがある」
「え。本当に?」
「うん。一番、大きい声をあげてくれてたから覚えてる」
ね?と、世の大勢の人を魅力している笑顔で問いかける。
緊張していたのもあるが、全く気が付かなかった。
さすが、耳が良い。

「は、はい!!音羽さんのギターを聞いて、感動して、ここの高校に入ろうと思ったんです。」

「………俺?」

まさか、である。
あの、下手すぎるギターに何の魅力があったのだろうか。


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