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はじまり
プリンアラモード
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何を言っているんだろう?
一同は思った。
潮風高校は、文化祭などの行事は個人の自由参加だ。
出たくもない生徒だっている。
芸能部も春先に少しだけ参加するという話は出たが、さすがに仕事で忙しい蝶子先生に雑務をさせるわけにもいかないし、一年生だけでは大変だと早々に諦めたのだ。
だから、話をどんどん進めそうな海灯にストップをかける。
「ちょっと、待って?学校説明会はともかく、文化祭は事前申込制だし、参加予定ないけど」
「問題ない。すでに、文化祭には芸能部として申し込んである」
という事は、申込みの締切日を考えると、やはり店長代理を任される前から今の状態を想定していたという事で……。
「知ってた。海灯が、そういう人間だって」
風灯は、つぶやく。
だが、海灯は聞こえないふりをして、話を続ける。
「その日は月曜日で、もともと、ここも休みだし問題ない。それに蒼衣と星野は来年、卒業する。その後の事を考えて欲しい。何をするにも、生徒がいなくちゃ意味ないだろう」
あきれたように海灯は言う。
なんとなく、期間限定な気がしていたが、続けるつもりだったのか。
……それよりも。
「先輩たち、単位取れたんですか?」
通信制だと、あえて3年で卒業しない生徒も多い。
だから、もしかして、と思ったのだが。
「失礼だな!特別活動もテストも良かったし、単位も落とさなかった。卒業出来ないとでも思ってたのか?」
「いや、そういうつもりでは、なかったですけど!」
星野に肩に腕を回されて、風灯は威圧をかけられる。
蒼衣は、まぁまぁ、と言いつつ、またもや星野の腕を外してくれる。
「ごめんね。話の途中だけど、今、説明した方が良いですよね?海灯さん」
「名演出家である俺が、ドラマティックに発表しようとしていたのだが」
「大事なことは、ダメですよ。実は将来、俳優志望を集めた小劇場と、学生芸術家支援のアート館を建てる予定なんです。海灯さんと……僕とで」
「………本当ですか?」
ついつい、楽しそうな未来に部員全員が目を輝かせる。
「海灯!俺も、働く!」
思わず、瞬発的に大声で言うと、海灯は困ったように笑いながら手を横に振る。
「それは、まだ、だいぶ先だよ。人材の確保からかな。あと、アート館は未定だが、劇場の方は蒼衣を責任者にしようと思ってる。な、蒼衣?」
「はい。すぐそこの潮風総合芸術大学に、僕も星野も進学予定なので、学生をしながら勉強させてもらおうと思ってます」
「そうなんだよね。卒業してもここに居座るから、よろしく!」
先輩達が、そう言うと、みんなは嬉しい声を上げた。
「みんなーーー。プリンの用意できたよー!」
その時、厨房から、声が響いた。
「食べまーす!」
その返事に、夏葉が大きなトレイにたくさんのプリンをのせて、歩いてくる。
「手伝います!」
「わぁー!プリンアラモードにしてくれてる!」
「美味しそうー」
「なんか、みんな。……疲れてるかと思って、用意したのに元気そうだね」
夏葉が、安心したようにトレイを置き、腕を組む。
「はい!たった今、元気になりました!」
「同じく」
そう、口々にプリンを口に運びながらさわぐ。
ただ、風灯はすっかり忘れてしまっていた。
何となく流されてしまった文化祭と学校説明会の事を。
一同は思った。
潮風高校は、文化祭などの行事は個人の自由参加だ。
出たくもない生徒だっている。
芸能部も春先に少しだけ参加するという話は出たが、さすがに仕事で忙しい蝶子先生に雑務をさせるわけにもいかないし、一年生だけでは大変だと早々に諦めたのだ。
だから、話をどんどん進めそうな海灯にストップをかける。
「ちょっと、待って?学校説明会はともかく、文化祭は事前申込制だし、参加予定ないけど」
「問題ない。すでに、文化祭には芸能部として申し込んである」
という事は、申込みの締切日を考えると、やはり店長代理を任される前から今の状態を想定していたという事で……。
「知ってた。海灯が、そういう人間だって」
風灯は、つぶやく。
だが、海灯は聞こえないふりをして、話を続ける。
「その日は月曜日で、もともと、ここも休みだし問題ない。それに蒼衣と星野は来年、卒業する。その後の事を考えて欲しい。何をするにも、生徒がいなくちゃ意味ないだろう」
あきれたように海灯は言う。
なんとなく、期間限定な気がしていたが、続けるつもりだったのか。
……それよりも。
「先輩たち、単位取れたんですか?」
通信制だと、あえて3年で卒業しない生徒も多い。
だから、もしかして、と思ったのだが。
「失礼だな!特別活動もテストも良かったし、単位も落とさなかった。卒業出来ないとでも思ってたのか?」
「いや、そういうつもりでは、なかったですけど!」
星野に肩に腕を回されて、風灯は威圧をかけられる。
蒼衣は、まぁまぁ、と言いつつ、またもや星野の腕を外してくれる。
「ごめんね。話の途中だけど、今、説明した方が良いですよね?海灯さん」
「名演出家である俺が、ドラマティックに発表しようとしていたのだが」
「大事なことは、ダメですよ。実は将来、俳優志望を集めた小劇場と、学生芸術家支援のアート館を建てる予定なんです。海灯さんと……僕とで」
「………本当ですか?」
ついつい、楽しそうな未来に部員全員が目を輝かせる。
「海灯!俺も、働く!」
思わず、瞬発的に大声で言うと、海灯は困ったように笑いながら手を横に振る。
「それは、まだ、だいぶ先だよ。人材の確保からかな。あと、アート館は未定だが、劇場の方は蒼衣を責任者にしようと思ってる。な、蒼衣?」
「はい。すぐそこの潮風総合芸術大学に、僕も星野も進学予定なので、学生をしながら勉強させてもらおうと思ってます」
「そうなんだよね。卒業してもここに居座るから、よろしく!」
先輩達が、そう言うと、みんなは嬉しい声を上げた。
「みんなーーー。プリンの用意できたよー!」
その時、厨房から、声が響いた。
「食べまーす!」
その返事に、夏葉が大きなトレイにたくさんのプリンをのせて、歩いてくる。
「手伝います!」
「わぁー!プリンアラモードにしてくれてる!」
「美味しそうー」
「なんか、みんな。……疲れてるかと思って、用意したのに元気そうだね」
夏葉が、安心したようにトレイを置き、腕を組む。
「はい!たった今、元気になりました!」
「同じく」
そう、口々にプリンを口に運びながらさわぐ。
ただ、風灯はすっかり忘れてしまっていた。
何となく流されてしまった文化祭と学校説明会の事を。
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