全方位、光る海面世界

伊東 丘多

文字の大きさ
上 下
26 / 58
はじまり

プリンアラモード

しおりを挟む
何を言っているんだろう?
一同は思った。

潮風高校は、文化祭などの行事は個人の自由参加だ。
出たくもない生徒だっている。

芸能部も春先に少しだけ参加するという話は出たが、さすがに仕事で忙しい蝶子先生に雑務をさせるわけにもいかないし、一年生だけでは大変だと早々に諦めたのだ。

だから、話をどんどん進めそうな海灯にストップをかける。

「ちょっと、待って?学校説明会はともかく、文化祭は事前申込制だし、参加予定ないけど」
「問題ない。すでに、文化祭には芸能部として申し込んである」
という事は、申込みの締切日を考えると、やはり店長代理を任される前から今の状態を想定していたという事で……。

「知ってた。海灯が、そういう人間だって」
風灯は、つぶやく。
だが、海灯は聞こえないふりをして、話を続ける。

「その日は月曜日で、もともと、ここも休みだし問題ない。それに蒼衣と星野は来年、卒業する。その後の事を考えて欲しい。何をするにも、生徒がいなくちゃ意味ないだろう」
あきれたように海灯は言う。

なんとなく、期間限定な気がしていたが、続けるつもりだったのか。
……それよりも。

「先輩たち、単位取れたんですか?」

通信制だと、あえて3年で卒業しない生徒も多い。
だから、もしかして、と思ったのだが。

「失礼だな!特別活動もテストも良かったし、単位も落とさなかった。卒業出来ないとでも思ってたのか?」
「いや、そういうつもりでは、なかったですけど!」
星野に肩に腕を回されて、風灯は威圧をかけられる。

蒼衣は、まぁまぁ、と言いつつ、またもや星野の腕を外してくれる。

「ごめんね。話の途中だけど、今、説明した方が良いですよね?海灯さん」
「名演出家である俺が、ドラマティックに発表しようとしていたのだが」
「大事なことは、ダメですよ。実は将来、俳優志望を集めた小劇場と、学生芸術家支援のアート館を建てる予定なんです。海灯さんと……僕とで」

「………本当ですか?」
ついつい、楽しそうな未来に部員全員が目を輝かせる。

「海灯!俺も、働く!」

思わず、瞬発的に大声で言うと、海灯は困ったように笑いながら手を横に振る。
「それは、まだ、だいぶ先だよ。人材の確保からかな。あと、アート館は未定だが、劇場の方は蒼衣を責任者にしようと思ってる。な、蒼衣?」
「はい。すぐそこの潮風総合芸術大学に、僕も星野も進学予定なので、学生をしながら勉強させてもらおうと思ってます」
「そうなんだよね。卒業してもここに居座るから、よろしく!」

先輩達が、そう言うと、みんなは嬉しい声を上げた。

「みんなーーー。プリンの用意できたよー!」
その時、厨房から、声が響いた。
「食べまーす!」
その返事に、夏葉が大きなトレイにたくさんのプリンをのせて、歩いてくる。

「手伝います!」
「わぁー!プリンアラモードにしてくれてる!」
「美味しそうー」

「なんか、みんな。……疲れてるかと思って、用意したのに元気そうだね」
夏葉が、安心したようにトレイを置き、腕を組む。

「はい!たった今、元気になりました!」
「同じく」
そう、口々にプリンを口に運びながらさわぐ。

ただ、風灯はすっかり忘れてしまっていた。

何となく流されてしまった文化祭と学校説明会の事を。
















しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

キスは氷を降りてから

インナケンチ
BL
アイスホッケー選手の先輩と後輩⋯⋯さらに甥っ子? ある理由で“本気の恋”を避けてきた男が、本気の男たちに翻弄されて⋯⋯ *****************************  特定のスポーツを題材にしていますが、あくまでフィクションです  実在しない組織、設定が多数あります *****************************  黒川 響(27)聖クラスナ高校教師・元HCレッドスター/ディフェンス  蒼井 壮平(28)大手住宅メーカー営業・HCレッドスター/ゴーリー  赤城 夏海(17)聖クラスナ高校2年生・アイスホッケー部/オフェンス *****************************

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが

なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です 酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります 攻 井之上 勇気 まだまだ若手のサラリーマン 元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい でも翌朝には完全に記憶がない 受 牧野・ハロルド・エリス 天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司 金髪ロング、勇気より背が高い 勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん ユウキにオヨメサンにしてもらいたい 同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

黄色い水仙を君に贈る

えんがわ
BL
────────── 「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」 「ああ、そうだな」 「っ……ばいばい……」 俺は……ただっ…… 「うわああああああああ!」 君に愛して欲しかっただけなのに……

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

陽キャのフリした陰キャ配信者がコラボきっかけで付き合う話

柴原 狂
BL
配信者×配信者のハチャメチャラブコメディです オル:本名は尾崎累(おざきるい) ▷元気いっぱいな配信で若者からの支持を得ているが、配信外では超がつくほどの人見知り。 ノーキ:本名は宇野光輝(うのこうき) ▷ゲームが上手いイケボ配信者。配信中にオルの名前を出し、コラボするよう企てた張本人。 普段は寡黙でほとんど喋らないが、オルの前だと──? (二章から登場)↓ キル︰本名は牧崎徹(まきざきとおる) ▷プロゲーマーとして活躍する男。オルに何やら、重い感情を抱いているらしい。 ナギ︰本名は乙坂柳(おとさかやなぎ) ▷キルと共にプロゲーマーとして活躍する男。 可愛い顔をしているが実は──?

悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました

結城芙由奈 
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】 20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ―― ※他サイトでも投稿中

処理中です...