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カレーか、マグロ

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今日の放課後は、全員清掃というイベントらしくて、各自バラバラに動いている。
部活動は清掃が終わってからになるので、実質30分程度しか活動が出来ない。
それなのに、海灯はみんなに直接伝えたい事があるとかで、今日も芸能部へ来ていた。

「風灯、大丈夫か?顔色が悪い。」
全く清掃する必要はないのだが、何もせずに立っている訳にはいかないと、腕まくりをして窓枠の雑巾がけをしている海灯が、心配そうに聞いてくる。

風灯はピカピカに磨いている窓に顔をうつし、顔色を確認するが反射して良くわからない。

「大丈夫だよ。店長代理として頑張らなきゃ。昨日さ、試作品ののクレープ食べすぎたから、お腹痛いだけだと思う。」

わざと明るく声を出してみたが、自分の演技力じゃ海灯をだませないだろう。
何か言われるのがこわくて、続けて言う。
「生クリームじゃなくて、惣菜クレープも販売するらしいよ。やっぱりおすすめは有名な灯台カレークレープか、潮風マグロクレープかな……、」
「一週間前の事だけど。蒼衣も、悪意があるわけじゃなくて、色々あるんだ。詳しくは勝手に言えないけど。」

この前の話を、しっかりと聞いていたようだ。
「友達には、なれない。そう、はっきり言われた事はショックだったけどさ。当たり前だよね。これからもファンのままでいるよ。」
「そういう、意味じゃない。」

気まずさで、ペラペラと言わなくても良いことを話してしまっていたら、海灯がそれを止めた。

「うん。でも、それで良い。」

その時、全体清掃終了のアナウンスがある。
その音に、焦ったように海灯が話す。
「難しいな。俺が出しゃばるのも良くないか。」
「そうだよ。ほらほら、時間だよ。手を洗って。オーナーでしょ?成功させるように頑張ろう。」

有名企業のコンサルもしている海灯にしたら、小さい町のさびれた喫茶店など収入にもならないだろうが、前に大きな口を叩いていたのを思い出して、海灯の尻を叩く。
そして、元気だと安心させるように笑った。
「絶対に、成功させよう。ビックプロジェクトなんだろ?俺は大丈夫。」
「……そうか。」

海灯はホッとした様子で、笑う。
兄はまだ小さい子供のままだと思っているかも知れないが、少しは成長しているはず。
それを、見ていて欲しいのだ。もう、簡単にはくじけない。


「蝶子先生、長めのネイルしてても、そんなに上手に雑巾絞れるんですね。」
「コツがあるのよ。」
「あ、海灯さん。こんにちは。」
「えっ。大変!これ、お願いできる?」
優美と英里紗ペアは相変わらず蝶子先生に興味津々でまとわりついている。
「海灯さん。短い時間なのに、今日はありがとうございます。生徒たちも喜んでいると思います。」
「1番、喜んでいるのは、蝶子先生……。」
後ろで、蓮二がつぶやくが気配でマズイと感じたのかすぐに黙る。

「いえいえ、私も皆さんに会えて嬉しいので。……では、みんな、揃ったかな。」
海灯が、ぐるりと顔を見回す。
みんなは少し掃除で制服が汚れているが、部活を始めても問題無さそうだ。

「来週から、夏休みに入りますね。私も有給を多めに取ったので練習に参加する予定です。場所は喫茶灯台。そこのダンスフロアとして使われていた所で稽古をします。月曜日と金曜日の定休日の日に稽古をするので、是非、参加して下さい。」
「練習、少なくない?」
風灯は、週2日しか練習がないと聞き、不安になる。

「土日は通常営業の時に稽古を兼ねる。だから、みんなはその練習風景も客に見られることになる。覚悟しておいてくれ。」

それは、ラウンジで見られるよりも緊張するだろう。
ダンスフロアは、そんなに飲食スペースと離れていないのだ。

「まぁ、入口のドアには、うるさくても良ければ入れ、とでも注意書きをしておくから、クレームはないだろう。あと来る際は、車で駅まで迎えに行くから、まとまって来てくれると嬉しい。」
なんとなく海灯の運転という所でときめきのざわめきが聞こえるような気がするのは、気のせいじゃないだろう。
「はいっ!!」
その証拠に、1番、大きな返事は蝶子先生である。

「蝶子先生。、夏休みはホテルの営業も忙しいでしょうから、無理しないで下さいね。」
「………はい。」
悲しそうな顔になる。
確か、千葉の高級ホテルを筆頭に色々とまわっているって言っていた。
その事だろう。

「では、来週から夏休み中、過酷になるだろうがよろしく頼む。」
そう言って、頭を下げた。
きっと、それなりに地位の高い海灯が、高校生に頭を下げる。
それが何だか、格好良かった。










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