全方位、光る海面世界

伊東 丘多

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はじまり

試験

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 それからの1週間。

 何もしていないというのに、気分が晴れない。

 きっと、蒼衣に会ってしまったからだ。
 会えたことは嬉しい。
 でも、会えるために頑張り続けた今までの努力を、持続するのが難しくなってしまった。
 燃え尽き症候群とでも、いうのだろうか。

 折り合いをつけて心の整理をしようとするが、余分なデータが残ったまま、断片化された気持ちを無理矢理に最適化しているようで、気持ちが悪い。

「苦しいな」

 学校まで通学への道のり。
 あんなに軽い足取りで通っていたのに、今では重く息も切れる。

 考えすぎて眠れないのも原因かもしれない。
 何かに焦って、昨日の夜は寝ずにトレーニングをした。
 家族は心配してたまに様子を見に来てくれていたが、どうしてもやらずにはいられなかった。

 その毎日の行為は自信の裏付けにしていたものだったが、実際には自信なんて、何かがあれば簡単に崩れるもので。

 蒼衣と特別な関係になれなかったことは、じわじわとダメージを受けていたらしい。
 友だちになれなかったら、もう会う機会もない。

 こんな気持ちでも学校は通常運転だ。
 5月になり入学最初のテストの事で、ざわめきたっている。
 何も勉強をしていないが、復習なので問題はないはずと念の為の教科書を開く。

「おはよ。必修のテストさ、今回は頑張らないとまずい」
 そこに、蓮二が目の下にクマを作って、トボトボと歩いてくる。
「ま、補習受ければよいじゃん?」
 隣りにいた甲介は、あきらめ度が突き抜けている。

「……普段、授業を受けていれば問題ないって、先生が言ってたよ」

 一応、安心させようと言葉をかけるが、それに2人は大きなため息をつく。

「普段、勉強してないんだよ」
「同じく!」

「じゃ、もう、知ってる所が出るのを祈るしかないね」
 それしかないだろう。
 今さら、あがいたって仕方ない。

「だよねー」と、あくびをしながら甲介は机に突っ伏して寝てしまった。

「このまま、試験中も寝てたら楽しいな」
「顔にかけておいてやるか」
 
 風灯は、甲介の顔にブレザーをふんわりとかけ、夜だと思わせた。

「……なぁ、芸能部の方の宿題は考えてきたか?」
「なんとなく。……蓮二はさ、何で子役やめたんだっけ?」
「俺は、親への反抗。昔は子役やれって言われてやってたから、それが嫌で辞めた。今度は自分の意志でしたくなった。それだけ。また飽きたら辞めるだろうし。改めていうと、なんか子供っぽいな」
「柔軟で強い心だな。うらやましい」
「浮ついてるっていうんだろ?……まぁ、今度は本気だな。一回やめた分、2度目はないって分かってるし」
「そっか。覚悟決めてるんだ」
「風灯は、向いてると思うよ。役者。なんたって努力は出来るし、顔も性格も良いし、要領だって悪くない」
 
 そう、褒めてはくれるが、本当にやりたいことではないのではないか。
 そんな根本的な事に昨日、気がついてしまった今は素直に喜べない。
 ただ、蒼衣と同じ世界にいたいだけで……。

 でも……、それだって、きっかけだ。

「うん。ありがとう。元気出た」
「当たり前じゃん。友達だろ?」
「友達?」
「は?友達だろうよ。じゃなきゃ、何なんだよ」

 そう言いながら、笑って蓮二は肩に腕をまわしてきた。
 ついでに髪までグシャグシャにしてきて、思わずくすぐったくて笑ってしまう。
 こんなに、楽しく笑ったのは久しぶりだ。

「そっか、連二と甲介は友達か。じゃ……、」

 それなら、蒼衣とは、友だちじゃない。

 もっと、他の…………。
 なんだろう。
 うまく思いつく言葉が浮かばなかった。








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