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階段と、地層

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灯台の管理している人に、迷惑をかけてはいけないので、慌てて下へ降り、昔に弾き語りを見せてくれた広場に向かう。
もう一度、聞きたかったけど、今日はギターは持っていないらしい。

「何か話す?」
そう、明るく笑う蒼衣を見ていたら、もう少し近づきたいと言う欲が出てきて、その気持ちに油断してしまった。

「あの、友達になってもらえませんか?」
「友達?」
あこがれの人を、友達なんて言ったら失礼だろうか。
でも、他にファン以外の関係を変える言葉が思いつかなかった。

「友達は無理だよ。」
「何で、ですか?」
「君も役者を目指すのなら、友達にはなれない。」

友だちになれないのなら、何になら、なれるのだろうか。
多分、もう距離は縮まらない。
でも、これ以上、何か言ったら困らせてしまう。

「……わかり、ました。」
「ごめんね。君には適当な事を言わない方が良いと思った。」

きっと、子役から役者をしてる蒼衣には、自分には分からないような世界があって、憧れでしかない自分には入ることは出来ないのだろう。
期待を捨てるように、風灯は横に広がる海を見て、深く息を吐く。
しばし沈黙がおとずれた、その時。

「二人とも。灯台のそばだから明るいけど、少し離れたら真っ暗闇だ。そろそろ、帰ろう。」

もう、お互いの顔がぼやけるほど暗くなった中から、妙に明るい声が聞こえてきた。

目を向けると、海灯が笑いながらライトを持って歩いてくる。
きっと様子を見ていたけれど、雰囲気を察して会話にに入ってくれたという感じだろう。
過保護だとは思うが、実際このまま二人ではいられなかった。

日常で、奇跡なんてなかなか起こらない。
だから、素直に、もう一度、蒼衣と出会わせてもらった事に感謝をした。

「海灯、蒼衣さんと知り合いだったんだ。」
「隠してて、すまない。ドラマティックな再会は演出家として、最高にしなくてはならないからね。灯台と再会。なかなか良いだろう?」
いつから、演出家になったのだろうか。
もう3年生の蒼衣とは急がないと会えなかったかもしれない。
すると、色んな感情が風灯の心のなかで渦巻いて、悲しくもないのに涙が出てきてしまった。

「海灯さん。……あの事は言わなくても?」
「それも、ドラマティックな演出で登場させる。」
「さすが、名演出家は違いますね。」 
「だろ?」

2人が話している隙に、後ろを向いて、深呼吸を何度もしていたら、次第に落ち着いて涙が引いてきた。
「…………何か、話してた?」
良く聞こえなかったけど、仲が良さそうな砕けた言葉遣いは分かって、少しだけ2人の仲に嫉妬して、追求してしまった。
そんな嫌な気持ちが伝わったのか、海灯は笑って首を振る。

「まだ、内緒。帰り道は、長い階段か、そびえ立つ地層。どっちから帰る?」

内緒にされてしまった。
涙腺が緩んでるのか、油断をしたら涙が出そうなので、眉をひそめながら海灯からの質問に、強く返す。

「階段!」
「了解。」


その選択は間違っていなかった。
なぜなら、階段から見える景色は、灯台の光でキラキラとしていて、その光は涙を通して見られるような、フワフワとした灯りで、代わりに泣いてくれているようで、不思議と気分が落ち着いてきたのだ。





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