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はじまり
煮詰まり
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月曜日の朝、何か言いたげな海灯に会った。
会って顔を合わせるが、あまりの進捗状況に話すことがない。
「今日も部活に行くが……、あの事は急ぐ必要はない」
「………海灯が謝るなよ。俺の問題だから」
海灯はあの人の居場所を知っている。
きっと、すぐ自分の近くにいる。
そうじゃなきゃ、探してみろなんて事を言わない。
でも、あえて風灯は真剣に探さなかった。
会った時に、忘れられている事がこわい。
覚えていたとしても、嫌われていたらこわい。
心の奥底で、会いたいと言う気持ちと、会いたくない気持ちが共存している。
2つにちぎれそうな心臓を、落ち着かせるために窓から海を見た。
そこは、いつもと同じ風景だったけれど、違う所を探そうと間違い探しをする。
同じな訳はない。
じっとしていられなくて、朝ごはんも食べず、制服を急いで着て、リュックを背負っている部屋を出た。
「はぁ…はぁ……、やっと、着いた」
いつもより長く感じる階段に息をきらせて、灯台を見上げる。
もちろん朝早くは門が閉まっていて、入ることさえ出来ない。
外から見上げるだけだ。
ここからは学校まで逆方向で、1時間もかかるのに、何をやっているのだろう。
何も、人生に無駄なことはないとは言うが、これも無駄な事じゃないのだろうか。
行ったり来たりするだけの、何も変わらない道のり。
放課後、部活が行われるラウンジへは、重い足で一番最後に入った。
いつも人が多いラウンジは食事をしている人も多く常に誰かの視線を感じる。
それが、今日はやけに気になってしまった。
「見るな」
見られる側に立ちたいと思っているのに、そんな暴言を誰にも聞かれないくらいの小さな声で吐いてしまう。
「何か言ったか?」
蓮二と甲介が、いつもと変わらない飄々とした態度でこっちを見てきたが、話したくなくて緊張しているふりをして黙る。
「なーんか、いよいよって、感じだよなぁ」
「まぁ、なるようにしかならないし」
「……ぁ…」
雑談に返事くらいしようと、口を開く。
その時、パンッっ手を打つ音が響いた。
「はーい!海灯さんがいらっしゃいましたよ。みなさん、注目!」
風灯は海灯の顔を見たくなくて、慌てて下を向く。
「各自、テーマを考えてきただろうか?それは、発表しなくても良い。どんどん変化をしていくから、決めたとしてもしょうがない。ただ、考える事は必要だ」
「じゃ、これは、どうしますかぁ?」
優美は、書いてきた紙を頭上に上げる。
「うん。それも、必要なデータだ。一番最初のプレオープンは参考にする。とりあえず、形にはしなきゃいけないからね。クオリティーはともかく」
風灯は、昼休みになぐり書きしたものを、最後に海灯に渡した。
「書いてきたんだ。えらいな」
思いの外、優しく言われる。
そんな、褒められるようなものでもない。
結局、誰からも喜ばれるテーマなんて無いのだ。
誰かが好きなものは、誰かが嫌いで。
その反対も然り。
だから、万人受けするものは、大抵、無難で面白くない。
自分には、それを面白くする実力など無いのだ。
だから、毎日毎日、基礎レッスンを家で頑張っている。
技術だけは磨いておこうと思って。
それさえも、無駄なことかもしれないけれど。
あえて、忘れた事をふいに思い出させられて、風灯は不安定になる気持ちをもてあます。
「では、来週までの宿題だ」
海灯は、まだ夏休みまで時間があるからと、最後の課題を出すらしい。
「前回の宿題と引き続きになる。それぞれ悩みや、つらい事がある時にする事があるはずだ。……それを再確認してきて欲しい」
そう、締めくくって、風灯に目配せしてから、颯爽とラウンジを出て行った。
「何だろう。甘いものを食べるとかかな」
「私は、カラオケで熱唱!!」
確かにリストを作っておくと、いざという時に良いかもねー、と明るく話している。
海灯が送った自分だけへの合図は、他の人には気づかれていない。
伝えたいことがあるのに、こんなまわりくどい方法をとるのは、自分で見つけなきゃいけない時だけだ。
風灯は、自分の拳をぎゅっと握り、眉をひそめる。
悩みがある時に、すること。
それは、灯台へ行くこと。
蝶子先生は、海灯が完全に見えなくなるまで見送ってから自分たちの元へ歩いてきた。
「と、言うわけで。そろそろ大詰めです。開催の夏休みまで、頑張りましょう。では、解散!」
灯台は、今なら急げば間に合う時間だ。
握りしめていた拳を緩めて、挨拶もそこそこに風灯とは外へと走り出した。
会って顔を合わせるが、あまりの進捗状況に話すことがない。
「今日も部活に行くが……、あの事は急ぐ必要はない」
「………海灯が謝るなよ。俺の問題だから」
海灯はあの人の居場所を知っている。
きっと、すぐ自分の近くにいる。
そうじゃなきゃ、探してみろなんて事を言わない。
でも、あえて風灯は真剣に探さなかった。
会った時に、忘れられている事がこわい。
覚えていたとしても、嫌われていたらこわい。
心の奥底で、会いたいと言う気持ちと、会いたくない気持ちが共存している。
2つにちぎれそうな心臓を、落ち着かせるために窓から海を見た。
そこは、いつもと同じ風景だったけれど、違う所を探そうと間違い探しをする。
同じな訳はない。
じっとしていられなくて、朝ごはんも食べず、制服を急いで着て、リュックを背負っている部屋を出た。
「はぁ…はぁ……、やっと、着いた」
いつもより長く感じる階段に息をきらせて、灯台を見上げる。
もちろん朝早くは門が閉まっていて、入ることさえ出来ない。
外から見上げるだけだ。
ここからは学校まで逆方向で、1時間もかかるのに、何をやっているのだろう。
何も、人生に無駄なことはないとは言うが、これも無駄な事じゃないのだろうか。
行ったり来たりするだけの、何も変わらない道のり。
放課後、部活が行われるラウンジへは、重い足で一番最後に入った。
いつも人が多いラウンジは食事をしている人も多く常に誰かの視線を感じる。
それが、今日はやけに気になってしまった。
「見るな」
見られる側に立ちたいと思っているのに、そんな暴言を誰にも聞かれないくらいの小さな声で吐いてしまう。
「何か言ったか?」
蓮二と甲介が、いつもと変わらない飄々とした態度でこっちを見てきたが、話したくなくて緊張しているふりをして黙る。
「なーんか、いよいよって、感じだよなぁ」
「まぁ、なるようにしかならないし」
「……ぁ…」
雑談に返事くらいしようと、口を開く。
その時、パンッっ手を打つ音が響いた。
「はーい!海灯さんがいらっしゃいましたよ。みなさん、注目!」
風灯は海灯の顔を見たくなくて、慌てて下を向く。
「各自、テーマを考えてきただろうか?それは、発表しなくても良い。どんどん変化をしていくから、決めたとしてもしょうがない。ただ、考える事は必要だ」
「じゃ、これは、どうしますかぁ?」
優美は、書いてきた紙を頭上に上げる。
「うん。それも、必要なデータだ。一番最初のプレオープンは参考にする。とりあえず、形にはしなきゃいけないからね。クオリティーはともかく」
風灯は、昼休みになぐり書きしたものを、最後に海灯に渡した。
「書いてきたんだ。えらいな」
思いの外、優しく言われる。
そんな、褒められるようなものでもない。
結局、誰からも喜ばれるテーマなんて無いのだ。
誰かが好きなものは、誰かが嫌いで。
その反対も然り。
だから、万人受けするものは、大抵、無難で面白くない。
自分には、それを面白くする実力など無いのだ。
だから、毎日毎日、基礎レッスンを家で頑張っている。
技術だけは磨いておこうと思って。
それさえも、無駄なことかもしれないけれど。
あえて、忘れた事をふいに思い出させられて、風灯は不安定になる気持ちをもてあます。
「では、来週までの宿題だ」
海灯は、まだ夏休みまで時間があるからと、最後の課題を出すらしい。
「前回の宿題と引き続きになる。それぞれ悩みや、つらい事がある時にする事があるはずだ。……それを再確認してきて欲しい」
そう、締めくくって、風灯に目配せしてから、颯爽とラウンジを出て行った。
「何だろう。甘いものを食べるとかかな」
「私は、カラオケで熱唱!!」
確かにリストを作っておくと、いざという時に良いかもねー、と明るく話している。
海灯が送った自分だけへの合図は、他の人には気づかれていない。
伝えたいことがあるのに、こんなまわりくどい方法をとるのは、自分で見つけなきゃいけない時だけだ。
風灯は、自分の拳をぎゅっと握り、眉をひそめる。
悩みがある時に、すること。
それは、灯台へ行くこと。
蝶子先生は、海灯が完全に見えなくなるまで見送ってから自分たちの元へ歩いてきた。
「と、言うわけで。そろそろ大詰めです。開催の夏休みまで、頑張りましょう。では、解散!」
灯台は、今なら急げば間に合う時間だ。
握りしめていた拳を緩めて、挨拶もそこそこに風灯とは外へと走り出した。
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