全方位、光る海面世界

伊東 丘多

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はじまり

期待

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 後ろの席の蓮二が、午前中の授業が終わるなり風灯に声をかけてきた。

「どう思う?」
「どうも、思わない」
「俺さ、けっこう期待してるんだよ」

 返事を求めないタイプの質問か、と呆れたが真剣に話しているらしい。
 それならば、と、きちんと蓮二の正面を向いて、話を聞く態勢を作る。

「そんな?ただのバイトだし」
「いや、違う。俺、お前のお兄さん知ってるんだよ。かなり、有名だろ?」
「まぁ、そこそこの感じ」

 地元の喫茶店のオーナーを引き受けたり、イベント事には必ず顔を出しているから、有名といえば有名だが、全国的に有名人という訳ではないだろう。

「きっと大きな話題になる!」

 少し、蓮二が大きな声で言ったのが、甲介、英里紗、優美にも聞こえたのか、ぞろぞろと集まってきた。

「何なら、俺から載せてくれって区役所や新聞社に行っても良い。こんな面白い企画、放って置くわけないだろう」

 甲介は、「確かに」と頷く。

「それ、言えてる。ケーブルテレビなんて、地元の小さいイベントでさえ取材に来てるし」
「そうだね。私も地元の歌自慢大会みたいので地元紙にのったことあるよ」

 優美が口に人差し指をつけて言う。

「私も、中学の時に演劇部でテレビが来てたな」

 英里紗も負けじと、報告する。

 各自、何かしら自慢があるらしい。
 無いのは自分だけか、と風灯は落ち込むが、そんな事は言ってはいられない。

「でも、さすが人が来なくちゃ、取材に来てもらえないと思うんだよ」

 その言葉に、みんながうなずく。
 風灯は、そのうなずきに返すように言葉を続けた。

「だから、誰にでも出来るような店じゃだめだ。何か、俺達にしか出来ないものを考えないと!」

 結局、俺達は海灯の言った通りにのせられてしまった。

 来週の朝までに、自分に求められたことは何か。
 1日1日を無駄にしないように、考えないと。

 最後にラウンジを出る時、海灯は自分で考えろと言った。
 それは、あえて難しい道を選んだ風灯に対しての、挑戦だと思っている。
 なぜなら、年の離れた兄は教育者のようでもあって、海灯は昔から言われていた。
 学生のうちは、全面的にお前に干渉する。
 その後は、自分1人で進め、と。

 兄は、ひとつの目的だけでは動かない。
 一つの行動に、いくつも紐付けをさせ未来につなげていくような策士だ。今回も、何か目的がある。

 風灯が、何かに悩んだり気持ちを整理したい時に必ず灯台に向かう。

 人が登れる灯台は少ないのだが、ここはその中の1つだ。
 学校から家への通り道でもないのに、この景色を見るために遠回りしてでも、つい来てしまう。
 灯台とは、灯光を用いて所在を示すものであるから、あながち、この行動は間違っていないのではないかとも、思う。









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