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ギブと、テイク
しおりを挟む『即興芸術 喫茶灯台 ~それからの未来への構想~』
風灯はどこかで見たような名前に、黙っていられなくなり口を挟む。
「海灯。ここ、もしかして、俺のバイト先では?」
ここでまわりが苗字も一緒ということもあり、自分たちが兄弟だと気付いた。
今、聞ける雰囲気ではないので黙っているが、後で囲み取材を受けるのは必至だろう。
「もしかしなくても、風灯が店長代理をする予定の店だし、俺がオーナーの店だ。」
「何で?店長に内緒で来たのか?」
ここで、店長代理?と言う疑問のささやき声が聞こえくるが、返事をする余裕はない。
あきれたように、海灯は風灯を見る。
そして、大きな歩幅で近づきながら、右手で風灯の髪をクシャクシャにする。
「やめろよ。」
「何、言ってんだ。内緒な訳ないだろう。だからキッチンカー経営で追い出して、お前を店長代理にしたんだ。」
「は?」
「追い詰められた方が、頑張るだろう?」
やっぱり、何か海灯が企んでいると思っていた。
そこで、空気を変えるように蝶子が前へ出た。
「私は仕事があって、あまり参加は出来ませんがこの企画の責任者をします。」
参加出来ない事を残念にも思いつつ、相談できる大人がいるだけで、ありがたいとホッとする。
色々と腑には落ちないが。
困惑気味の蓮二が、代表として手を挙げる。
「……えっと。それは芝居のバイトって事ですか?」
タイトルしか情報がないが、そう理解するのは普通だ。
「はい。おおむね正解です。蓮二くん。では、次のページをめくって下さい。」
一同、ペラリとページをめくる。
活動日 土日 11:00~16:00
(休憩は、店の混雑を考えて各自30分程度)
内容 『即興芸能』を活かしたカフェを営業する。(テーマは、学生らしい風紀を汚さないもの)
店員 部員全員(予定がある場合は柔軟に対応)
時給 定められた最低時給額+頑張り次第
オーナー 音羽海灯
店長代理 音羽風灯
副店長 桃井蝶花
緊急連絡先 夏葉雪太郎
(近くの海でキッチンカーを営業しているため、何かあれば呼出可能。)
※尚、料理の提供はバイトを確保しているので、生徒は、配膳件即興芸能を担当すること。
以上
やはり、店長代理の所に風灯の名前が記載してある。
仕事が何とも早い。
少しビジネスライクではない文面に、兄の気負わないようにと言う優しさも見える。
もう、ここまで考えられているならば、きっと行政的な手続きなども終わっているのだろう。
全てを諦めて、海灯をにらんだ。
海灯は、その視線に気づいたようだが、何とも思わないようで、軽く笑って自分の分のプリントを軽く叩く。
「そこに、記載ある通りだ。君たちの予定は蝶子先生にすでに確認してある。習い事などの時間は外してあるが、問題ないだろうか?」
確かに、カフェにしては短い時間だ。
その後は、店長がキッチンカーから戻ってきて、普通の喫茶店として営業するのかもしれない。
「はい。私は、土曜日は歌のレッスンがありますが、夜からなので問題ありません。」
「私も、大丈夫です!」
女子2人がかなりやる気を見せている。
海灯の顔も関係しているのか、こういう時は兄の恵まれた容姿がうらやましい。
「ふたりとも、協力ありがとう。……では、次のページをめくってくれ。」
横を見たら蓮二と、甲介も真剣な表情で話を聞いている。
どうやら、海灯はにじみ出る魅了のオーラで全員を味方につけたようだ。
「QRコード?」
ページをめくった蓮二が、声に出す。
どうしたのかと思いページをめくると、そこにはたったの一行だけ。
宿題 接客マニュアルを覚えてくるように。
その下にはQRコードがついてて、開くと言葉遣いや基本的なビジネスマナーなどが記載してあるらしい。
キーンコーンカーンコーン
タイミングが良いのか悪いのか、そろそろ下校の時間だ。
「うん。時間かな。では諸君。夏休み明けにはカフェを始めるので、それまでには計画をたてよう。では来週までの宿題をよろしく。風灯はバイトと一緒のだから必要ない。他の接客について別に学んでおいてくれ。」
キラキラと笑顔を振りまいて、颯爽と出ていった。
「……ということだから、みんな、頑張ろう!」
店長代理と言うことは、風灯がまとめなければならないという事だ。突然、舞い降りた芝居の仕事の話に驚いているみんなに、何て言ったらよいのか分からず無難な声を掛ける。
すると、ハッと気づいたように蓮二が風灯の肩を叩く。
「俺、頑張るよ。な?甲介もだろ?」
「もちろんだよ。」
英里紗も優美も、嬉しそうに手を握りあっている。
「私も!」
「同じく!!」
「ありがとう!みんな!」
何でお礼の言葉を蝶花が言うのだろう。
これから、波乱にみちた夏になるな。
そう、風灯はラウンジの天井にある大きな窓から、空を見た。
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