アズ同盟

未瑠

文字の大きさ
上 下
23 / 23

ショートショート~ユズと3人の攻防~

しおりを挟む

「ねぇねぇ、明後日ユズちゃん遊びに来たいって、いいよね?」

 夕食後のリビング、思い思いに――でも自然とアズに体の一部を触れさせて居たい3人なので、せっかくの広い空間でもアズが座るとアズを中心に集まってしまうのだが――過ごしていたまったりとした空気が、アズの嬉しそうな声で一変する。

「え? ユズちゃん?」
「明後日?」
「また来んの? あいつ」

 言いながら3人は視線を合わせる。

「あー、ごめんねアズ、明後日はちょっと無理かな」
「ほら、アズ予定あっただろ」
「そうそう、4人で出かけるはずだったじゃん」
「え? そ、そうだっけ? 分かった、じゃあユズちゃんには連絡しておくね」

 そう言って、アズが携帯がある部屋に戻るのを見届けて、3人の会議が始まる。



「おい、どこ行く予定なんだよ」
「別に適当でいいよ、元々予定なんてなかったんだし。あんまりカッチリした所だと、アズが自分が予定忘れてたって気にするだろ」
「なるほど、それは可哀想だな……じゃあレイトショーとかは?」
「俺のシフト時間減るからヤダ。もっと短い時間で終わるやつ」
「はぁ? じゃあ自分で案だせよ、別にお前のシフト潰してユズちゃん呼んでもいいけどな」
「シフトはズラすから、お前の次のシフトもズレる。多分、飲み会の時になるな」
「士業の懇親会か、それは欠席出来ないね、まだ下っ端だもんね、残念。大丈夫アズは俺のベッドで寝かせておくから」
「……奨まで乗るなよ。じゃあレストランバーで食事して軽くゲーセンは? アズ好きじゃん、ゲーセン」
「……まあ、いいかな」
「ん」
「じゃあ決まり。漣、いつものレストランバー予約入れとけよ」
「分かった」

 ユズは来ると大体泊まっていきたいと言い出す。事前に各々が『来るのは仕方ないけど泊まりはなし』と連絡を入れているにも関わらず、だ。

 アズはユズが泊まりたいと言い出すと、アズも嬉しそうに『たまにはゆっくりユズちゃんとおしゃべりしたい』と一緒にゲストルームで寝てしまうため、その日のアズシフトだった誰かが一回飛ばしとなる(ズレることもある)。このため、3人はユズに絶対に泊まって欲しくない。事前に察知できる場合はいつも阻止している。情報源は大抵漣から。漣はそのためだけに、モデル仲間を作ってユズの情報を掴んでいる。

 しかし、突然今日のようにアズに連絡が来てしまうことがあるため、油断が出来ない。
 アズがパジャマを持ってウキウキとゲストルームへ入るとき、ユズは3人に勝ち誇った顔を見せるため、余計にムカつくのだった。

「ユズちゃん、暇なのかよ」

 レストランバーへの予約が終わった漣に朔が聞く。

「暇とは聞いてないけど……あー、なんか撮影キャンセルになったっぽい、今連絡きたわ」

 スマホを確認した漣が言う。

「連絡が遅い、そいつはもう切れば?」
「奨は見切り早いんだよ、コマは多い方がいいって」
「多すぎでも使いこなせなきゃ意味がないだろ」
「ま、漣だしな」
「はぁ?」
「上手く使うつもりなら、たまには愛想振りまくことも覚えろよ、いっつもスカしやがって」
「振りまかなくても動いてくれんだからいいんじゃねー、アズ以外に労力使いたくねーし、気ぃ使うのは撮影の時だけにしたいんだよ」
「それって自分のことだじゃん。俺だって別に好きで愛想振りまいたりしてねーけど、そこはアズのためだし」
「ま、失敗したら、シフト飛ばすだけだよ、朔」
「それもそっか、ならお好きにどうぞ、お子ちゃま漣くん」
「チッ、やればいいんだろ」
「あ、成長した-」

 当然アズは3人によってユズの訪問が度々阻止されていることは知らない。

「ねーねー、それなら来週は? ってユズちゃんから」
「あー、来週かぁ……」
「アズ、ユズは来週のいつって言ってるの?」
「え? 来週としか……」
「それならちょっと分かんねーな、な?」
「う、うん、そっか……じゃあ聞いてみる」
「あぁ、いいよ、アズ、何度も連絡するの大変でしょ。こっちからユズに連絡しておくから」
「奨くん、ありがとう」
「ほら、アズはお風呂行ってきな、そろそろ俺との時間に集中して欲しいな」
「あ、うん、ごめんね朔。じゃあお風呂行ってくるね」
「いってらー」



 3日後、それぞれの携帯が交互に鳴りっぱなしとなる。
 奨を始め、朔も漣も誰一人としてユズに連絡を取っていない。

 しかし、アズが、

「奨くんから連絡するって言ってたよ」

 と、ユズに言ったためユズから鬼のようにメッセと電話が奨に来ていたのだが、わざわざユズ達との連絡用に別の携帯を持っている奨は気にもしておらず、しびれを切らしたユズが漣と朔にもそれぞれ連絡を取ろうとしているためだった。

「誰か出ろよ」
「やだね、お前が出ろよ」
「俺だってやだよ、奨、お前がアズにユズちゃんに連絡するって言ったんだから責任取れよ」
「んー、そう。じゃあ朔のシフトの時に来て良いって言っとくから」
「ちょ、それ反則。……しかたねーなー。でももうスピーカーにするから道連れな」
「アズは?」
「タキさんと料理中」
「なら今だな」

 キッチンスペースのアズに声を掛ける。
「アズー、ちょっと奨の部屋にいるから、出来たら教えて?」
「はーい」

 可愛い返事にそれぞれが微笑む。


**


「ちょっとあんた達、どういう事?! なんで連絡してこないのよっ」

 スピーカーフォンにした途端、ユズの甲高い声が響き渡る。

「連絡がないってことは予定が立たないってこと、それくらい分かれよ」
「漣、あんた最近私との撮影拒否してるって噂だけど……」
「忙しいんだよ、今、ユズちゃん」
「朔、あんたが暇になる時なんてないでしょ、大手事務所に入ったんだから」
「新婚家庭にはそうそう来るものじゃないよ、ユズ」
「奨、いつまで新婚なのよっ、私だって、私だってアズがいなくなって寂しいんだからっ、たまには独占させなさいよっ」

 もうユズは泣きそうな声だ。
 それでも3人は特に態度を変えない、それどころか、

「ユズさー、ブラコン卒業しねーと彼氏も彼女もできねーよ」
「ユズちゃんにも早く好きな人できるといいな」
「お前、この前も合コンメンツ揃えてやったろ……あー、なんだっけ、『あいつらより上じゃないと付き合わない』だっけ?」

 すかさず反撃に出る。

「何で知ってんのよ、奨」

 さっきまで泣きそうな可憐な声を出していた人物と同一とは思えない地を這うような低い声。

「やっぱり演技か、それ、俺等には通じないって分かってんのになんで毎回やるかねー」
「うるさい、朔!」
「いいんじゃね、面白いし」
「黙れ、漣!」
「とにかくさ、ユズ、当分こっちに来ないように」
「は? あ、っちょっと待っっ……」

 一方的、かつ容赦なく通話終了のボタンが押され、通話が切れる。

 もちろんすぐ後にユズからの着信が入るが、誰も出ない。
 

 鬼!
 悪魔!
 人でなし!
 アズを独占するな!


 ひっきりなしにくるメッセも、3人とも未読無視だ。
 さすがに一週間もすると徐々に減っていく。

 こうして今回もユズは泊まりに行くことが出来なかったのである。
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

ド陰キャが海外スパダリに溺愛される話

NANiMO
BL
人生に疲れた有宮ハイネは、日本に滞在中のアメリカ人、トーマスに助けられる。しかもなんたる偶然か、トーマスはハイネと交流を続けてきたネット友達で……? 「きみさえよければ、ここに住まない?」 トーマスの提案で、奇妙な同居生活がスタートするが……… 距離が近い! 甘やかしが過ぎる! 自己肯定感低すぎ男、ハイネは、この溺愛を耐え抜くことができるのか!?

Promised Happiness

春夏
BL
【完結しました】 没入型ゲームの世界で知り合った理久(ティエラ)と海未(マール)。2人の想いの行方は…。 Rは13章から。※つけます。 このところ短期完結の話でしたが、この話はわりと長めになりました。

絶対服従執事養成所〜君に届けたいCommand〜

ひきこ
BL
少数のDomが社会を支配する世界。 Subと診断された者にはDomに仕える執事となるため英才教育が施され、衣食住が保証され幸せに暮らす……と言われているのは表向きで、その実態は特殊な措置によりDomに尽くすべき存在に作り変えられる。 Subの少年ルカも執事になるほかなかったが、当然そこには人権など存在しなかった。 やがてボロボロに使い捨てられたルカと、彼のことをずっと気にかけていた青年との初恋と溺愛とすれ違い(ハッピーエンド)。 ◆Dom/Subユニバース設定の世界観をお借りしたほぼ独自設定のため、あまり詳しくなくても雰囲気で読んでいただけるかと思います。ハードなSM的描写はありません。 ◆直接的な描写はありませんが、受け・攻め どちらも過去にメイン相手以外との関係があります。 ◆他サイト掲載作に全話加筆修正しています。 ※サブタイトルは試験的に付けており、変更の可能性があります ※表紙画像はフリー素材サイトぴよたそ様よりお借りしています

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

処理中です...