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失意
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みんなから離れないといけない。
考えるだけでも目の前が暗くなる。
実際もう夕方から夜になりかけていたが、アズはそれすら気が付かずフラフラと歩く。頬には幾筋も涙がつたい、足取りもおぼつかないアズを気にする人はいない。誰もいないのだ。
当て所もなく電車を乗り継いで着いたのは、もちろん全く知らない場所だった。そこからまたタクシーに乗り、何度か聞いても行き先がはっきりしないアズが降ろされたのが今いる所だ。車は時々通るが、歩いている人にすれ違うことはなかった。
あの子に言われた言葉が突き刺さり、耳から離れなくて、少しでも聞こえないところに行こうとした。何より、大学や家の近くに居てはいけない気がした。
もうみんなと居てはいけないのに……。
ユズちゃんにとって俺がそんなに重荷になっていたなんてことも知らなかった。
俺が弱かったから?俺がいつまでも頼ってしまったから?
みんなとずっと一緒にいたいだなんて思っちゃいけなかったんだ。奨くんも漣も朔もみんなかっこいいし、俺にはもったいないくらいの素敵な人達だ。ユズちゃんだって俺がいない方が……。
俺のせいで、
俺がみんなを縛り付けてしまっていたから悪いんだ。
でも誰か一人だけを選ぶことなんて、どうしても出来なかった。
いや、したくなかったんだ。
朔の明るさ、
漣の思いやり、
奨くんの優しさの居心地が良くて、誰の手も離したくなくなっていた。
誰かだけを選ぶこと、そのことを考えることすら先延ばしにしてきたから、こんなことになってしまったんだ。
やっぱり俺は醜いな。
傷痕だけじゃない。誰一人として離したくないなんて思う心が醜いんだ。
ごめん、ごめんねみんな。
俺のせいで。こんな醜い俺がいるせいで……。
もう自分から手を離さないといけない。
一人だ。
そう思うだけで涙はいくらでも溢れてきた。
上手く前が見えなくて、何度か転んだ。擦りむいた手や足がジンジンと痛むが、心ほどではないとアズはぼんやりと思った。
あぁ、疲れた。目がぐるぐる回る。
もう立っていられない。
考えれば猛暑の中、家を出てから一度も水分を摂っていないことに気がつく。
俺って醜い上に愚かだったんだな……。
思考がもうまとまらない。暗いのは夜になったせいかと思ったけど、貧血なのかもしれない。暑いのに汗も出ない。
涙は出るのにな。
暑いのに寒い。
「アズ!!!」
「良かった!」
「無事か!?」
この世で一番聞きたかった声が聞こえる。と、同時に力強く三方から抱きしめられる。
嬉しくて、ほっとして、でもまた頼ってしまったという思いと、ぼーっとした意識のせいで咄嗟にアズは声が出せない。
「良かった、無事で」
「どこも怪我してないか?」
「アズ? 顔見せて?」
優しい声にも顔を上げられない。
「お、俺はみんなといちゃいけないのに……」
独り言のように出た小さな呟きを、もちろん3人が聞き漏らすはずはない。
「アズ、何いってんの?アズがいない方があり得ないんだけど」
「ここまで来たのに、それはない」
「また信じられなくなっちゃった?」
静かな怒りと寂しさを含んだ3人の声に、ハッとする。
「ご、ごめん……。でも……」
「あぁやっとこっちを向いた」
「いっぱい泣いたの?目が赤い」
「もう大丈夫だからな」
3人の笑顔に安心してしまう。
そんなことじゃダメなのに。
でも……もう目を開けていられない。
「アズ? アズ?!」
「おい、アズ!!」
「ちょっと二人共揺らさないで、離れて」
急に力が抜け、目を閉じたままとなったアズを心配して漣と朔が抱え込む。
が、そんな二人を奨が制する。
「熱中症だ。マズイな……朔、漣、救急車だ。あと、どっちか経口補水液と氷を買ってきて! 早くっ。」
「分かった」
「俺が買いに行く!」
いつもは一言文句を言う二人だが、アズの様子と奨の気迫にすぐに動き出す。漣が救急車を要請し、朔は走って行った。
「アズ! アズ! 分かるか?! アズ! 大丈夫だからな!」
奨は自分の持っていた水を口に含み、アズに口移しで飲ませようとする。
「お願いだ、少しでも飲んでくれっ」
「奨、救急車は呼んだ。来るまではどうしたらいい! 俺も買いに行った方がいいか?!」
「いや、それは朔に任せよう。お前は少しでも風を。アズを扇いで欲しい」
「わかった」
漣は自分の来ていたシャツを脱ぎ、アズを扇ぐ。
「あとは俺が水を飲ませるから、とにかくアズに声を掛けてくれ!」
「わかった。アズ!! もうすぐ救急車くるから! アズ頑張れっ! アズお願いだ!」
俺はどんどん暗くなる眼の前と頭の中で、二人の声だけを頼りに意識を保っていた。
**
朔がアズの倒れた場所に戻ったときには、すでに救急車が来た後だった。
「アズは?! 大丈夫なのか?」
「おまっ、おせーんだよ」
残っていた漣が力なく言う。
「悪い。全然店も自販機もなくて……。アズは?」
「とりあえず救急車で搬送された。病院分かったら奨が連絡するから二人で来いって」
「大丈夫なのか?」
「わかんねー。でもとりあえず奨が付いてるし大丈夫と思うしか無い」
「だよな……。アズ、無事で居てくれ」
「とりあえず移動しようぜ、タクシー捕まりやすいとこまで。あと、その水くれ」
「あぁ。」
もちろん起動させているGPSで位置を確認しながら二人で移動を開始した。
考えるだけでも目の前が暗くなる。
実際もう夕方から夜になりかけていたが、アズはそれすら気が付かずフラフラと歩く。頬には幾筋も涙がつたい、足取りもおぼつかないアズを気にする人はいない。誰もいないのだ。
当て所もなく電車を乗り継いで着いたのは、もちろん全く知らない場所だった。そこからまたタクシーに乗り、何度か聞いても行き先がはっきりしないアズが降ろされたのが今いる所だ。車は時々通るが、歩いている人にすれ違うことはなかった。
あの子に言われた言葉が突き刺さり、耳から離れなくて、少しでも聞こえないところに行こうとした。何より、大学や家の近くに居てはいけない気がした。
もうみんなと居てはいけないのに……。
ユズちゃんにとって俺がそんなに重荷になっていたなんてことも知らなかった。
俺が弱かったから?俺がいつまでも頼ってしまったから?
みんなとずっと一緒にいたいだなんて思っちゃいけなかったんだ。奨くんも漣も朔もみんなかっこいいし、俺にはもったいないくらいの素敵な人達だ。ユズちゃんだって俺がいない方が……。
俺のせいで、
俺がみんなを縛り付けてしまっていたから悪いんだ。
でも誰か一人だけを選ぶことなんて、どうしても出来なかった。
いや、したくなかったんだ。
朔の明るさ、
漣の思いやり、
奨くんの優しさの居心地が良くて、誰の手も離したくなくなっていた。
誰かだけを選ぶこと、そのことを考えることすら先延ばしにしてきたから、こんなことになってしまったんだ。
やっぱり俺は醜いな。
傷痕だけじゃない。誰一人として離したくないなんて思う心が醜いんだ。
ごめん、ごめんねみんな。
俺のせいで。こんな醜い俺がいるせいで……。
もう自分から手を離さないといけない。
一人だ。
そう思うだけで涙はいくらでも溢れてきた。
上手く前が見えなくて、何度か転んだ。擦りむいた手や足がジンジンと痛むが、心ほどではないとアズはぼんやりと思った。
あぁ、疲れた。目がぐるぐる回る。
もう立っていられない。
考えれば猛暑の中、家を出てから一度も水分を摂っていないことに気がつく。
俺って醜い上に愚かだったんだな……。
思考がもうまとまらない。暗いのは夜になったせいかと思ったけど、貧血なのかもしれない。暑いのに汗も出ない。
涙は出るのにな。
暑いのに寒い。
「アズ!!!」
「良かった!」
「無事か!?」
この世で一番聞きたかった声が聞こえる。と、同時に力強く三方から抱きしめられる。
嬉しくて、ほっとして、でもまた頼ってしまったという思いと、ぼーっとした意識のせいで咄嗟にアズは声が出せない。
「良かった、無事で」
「どこも怪我してないか?」
「アズ? 顔見せて?」
優しい声にも顔を上げられない。
「お、俺はみんなといちゃいけないのに……」
独り言のように出た小さな呟きを、もちろん3人が聞き漏らすはずはない。
「アズ、何いってんの?アズがいない方があり得ないんだけど」
「ここまで来たのに、それはない」
「また信じられなくなっちゃった?」
静かな怒りと寂しさを含んだ3人の声に、ハッとする。
「ご、ごめん……。でも……」
「あぁやっとこっちを向いた」
「いっぱい泣いたの?目が赤い」
「もう大丈夫だからな」
3人の笑顔に安心してしまう。
そんなことじゃダメなのに。
でも……もう目を開けていられない。
「アズ? アズ?!」
「おい、アズ!!」
「ちょっと二人共揺らさないで、離れて」
急に力が抜け、目を閉じたままとなったアズを心配して漣と朔が抱え込む。
が、そんな二人を奨が制する。
「熱中症だ。マズイな……朔、漣、救急車だ。あと、どっちか経口補水液と氷を買ってきて! 早くっ。」
「分かった」
「俺が買いに行く!」
いつもは一言文句を言う二人だが、アズの様子と奨の気迫にすぐに動き出す。漣が救急車を要請し、朔は走って行った。
「アズ! アズ! 分かるか?! アズ! 大丈夫だからな!」
奨は自分の持っていた水を口に含み、アズに口移しで飲ませようとする。
「お願いだ、少しでも飲んでくれっ」
「奨、救急車は呼んだ。来るまではどうしたらいい! 俺も買いに行った方がいいか?!」
「いや、それは朔に任せよう。お前は少しでも風を。アズを扇いで欲しい」
「わかった」
漣は自分の来ていたシャツを脱ぎ、アズを扇ぐ。
「あとは俺が水を飲ませるから、とにかくアズに声を掛けてくれ!」
「わかった。アズ!! もうすぐ救急車くるから! アズ頑張れっ! アズお願いだ!」
俺はどんどん暗くなる眼の前と頭の中で、二人の声だけを頼りに意識を保っていた。
**
朔がアズの倒れた場所に戻ったときには、すでに救急車が来た後だった。
「アズは?! 大丈夫なのか?」
「おまっ、おせーんだよ」
残っていた漣が力なく言う。
「悪い。全然店も自販機もなくて……。アズは?」
「とりあえず救急車で搬送された。病院分かったら奨が連絡するから二人で来いって」
「大丈夫なのか?」
「わかんねー。でもとりあえず奨が付いてるし大丈夫と思うしか無い」
「だよな……。アズ、無事で居てくれ」
「とりあえず移動しようぜ、タクシー捕まりやすいとこまで。あと、その水くれ」
「あぁ。」
もちろん起動させているGPSで位置を確認しながら二人で移動を開始した。
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