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向けられたもの
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大学のカフェテリア。暑い日差しが入ってくるが、整った空調のお陰で気にならない。アズは窓際の席でレモネードを飲みながら、漣と朔を待っていた。
日差しで焼けるから、と奨には言われているものの、窓際のこの席が好きなアズは気にせずに座る。それでも日焼け止めやその日の肌のケアは3人が代わる代わるローテーションで行っているため、アズの真珠のような肌は損なわれていない。彼らと結ばれてからアズはさらに3人に心を解放していた。あれだけ隠したかった傷跡も、彼らにだけは触れられても気にならなくなってきている。優しく傷跡にキスされる分だけ、傷跡によってもたらされた心の傷が癒やされていくような気持ちだった。
「ふふ」
つい思い出し笑いをしてしまったアズに、その笑顔に、カフェテリアだけでなくカフェテリアに面した構内でも思わず見惚れてしまう人が続出していることに本人だけは気がついていない。だから奨が、いや、奨だけでなく漣も朔もなるべくアズを窓際の席に一人座らせておきたくないのだ。
コンコン。
ふいに音がしたので、アズは目線を音のした方へ向ける。
コンコンコン。
すぐ近くの窓を制服の可愛い女の子がノックしている。その制服には見覚えがあった。
ユズちゃんの制服と一緒だ。
視線が合うと、その女の子がペコっと頭をさげ、何か小さな紙袋をおずおずと取り出し、指を差す。
「何かご用?」
窓越しでは聞こえないと分かっていたものの、思わず声に出して聞いてしまう。その後、自分を指差し、軽く首をかしげると、その女の子は必死に頷くため、アズは外に出てみることにした。
カフェテリアを出て窓の外にいる女の子の所へ近づく。
「あの、俺に何かご用ですか?」
「急にすみません! あの、水瀬優珠の弟さんですよね?」
「あ、はい。えっと……?」
「あ、あの、私、ユズ先輩と同じ高校の者で……ここの大学にユズ先輩の弟さんがいるって聞いていたので……えっと、私……来年ここの大学を受けようかと思っていて、あの良かったら相談に乗ってもらえないですか?あの、あと、これユズ先輩に渡して頂ければと思って……ご卒業してからなかなかお会いする機会がなくて……ユズ先輩にはすごくお世話になったので、それで……」
ユズの後輩だという女の子は必死に先程の紙袋をアズに押し付けながら、頭を下げながら頼んでくる。
うーん、今日はこのあと3限の講義はないし、奨くんは今日は大学講義スケジュール合わない日だし、朔と漣はあとで4限の講義で一緒だからその時までに戻れば大丈夫かな?
知らない人と話しちゃだめ、ついて行ってはだめ、というのはユズと奨の小さい頃からのアズへの口癖であったし、それは今も漣や朔も同じようにアズに言うセリフなのだが、アズとしてはもう大学生にもなった自分が子ども扱いされているような気分になるものだった。
何より、わざわざユズの後輩が自分を頼りに大学まで来てくれたことが嬉しくてアズは言った。
「いいですよ。」
女の子は顔を上げにっこりと微笑んだ。
**
制服で大学は目立つから、駅前のファストフードでという女の子の要望で、一旦大学を出て駅前に向かう。
――ちょっと用事が出来たので、一旦抜けます。また4限で。
漣と朔にメッセージを送り、ふと周りを見るとあまり見たことのない風景だった。メッセージを送るため先にいく女の子の足元を頼りに進んできたのだが、駅前に向かう大通りではないようだ。
「あの……道が違うようだけど?」
大学には通い慣れているはずもなく、もしや道が分からなかったのではと焦るアズに、女の子がゆっくりと振り向く。
「別に、大丈夫ですよ」
「そ、そうですか? でも駅前なら大通りに出た方が……」
「君はさ、何にも分かってないよね」
「え?」
急に雰囲気を変えた女の子に、アズはぽかんとしてしまう。
「ユズ先輩はそれは素敵な先輩だった。美しくて気高くて、学校でも一番輝いていて。あの笑顔はまさに女神。決して絶やしてはならないもの」
ユズのことを語る女の子は恍惚とし、アズは背筋がぞわりと震えた。
え? なに? ユズちゃんの話? あれ? 大学の相談って……
ユズのことを褒められるのは好きだったし、不快に思ったことはない。それなのに、この子がユズのことを語る姿は見たことのないもののような気がした。
「なのにさ」
女の子がアズに視線を向ける。
「君はさ、欲張りすぎだよね」
「え……」
鋭い視線はもはやアズを睨みつけている。
「君だよ、君に言ったの。ユズ先輩の出来損ないのアズくん」
「ど、どういう意味?」
女の子のあまりの豹変ぶりに気後れしながらアズは聞いた。
「あれもこれもなんて手になんか入らない。君さ、3人も侍らせてるけど、結局誰に決めるのよ」
「そ、そんなこと言われても……。誰かを選ぶなんてまだ出来ないよ」
そう言った途端、女の子は笑い出した。
「キャハハハハ! あんた何言ってんの? あんたなんて、あの完璧なユズ先輩の偽物にもなれないのに? 醜い傷がある君なんて出来損ないだってさっきも言ったでしょ!」
妬み、
憎悪、
嫌悪……。
あまりに突出した存在だったため、そういった類の対象となりにくく、仮になったとしても不安分子は周りが排除してきたため、アズは自分にそういった負の感情をぶつけられることに慣れていなかった。
「とっとと誰か一人に決めて、ユズ先輩のことあんたから解放してよ。ユズ先輩があんたのことでため息ついたり不安な顔したりすることが許せない。それに、ユズ先輩だけじゃなくあの3人は何? なんであんたなんかをあんな素敵な人達がお世話してるの? 訳わかんない。しかもいつまでも自分に縛り付けておくなんて! ユズ先輩を独り占めにするなんてずるい。あんたのせいでユズ先輩達が自分のことを後回しにしていることに気がつけ! あんたが居なければもっとユズ先輩は自由なのに……。醜い傷があるあんたはユズ先輩にいつまでもまとわりつくの影だ。
醜い! 醜い! 醜い!
あんたなんかいらない。さっさとどっかに行ってしまえ!」
笑いながら泣き、泣きながらアズに向かって叫ぶ。もはや最初の可愛らしいイメージは影も形もなくなり、狂気をはらんだ姿は通行人すらぎょっとして振り返る。
アズは逃げることも出来ずに彼女を見つめ、立ち尽くしていた。
「突っ立ってないで、さっさとどこかに行きなさいよ! ユズ先輩の美しい顔と心を歪ませないで! 消えろ! 消えろぉ」
全く反応を見せないアズに、飛び掛からんとする勢いだったが、とっさに通りかかった人が女の子を押さえこむ。
「君、大丈夫? 誰か呼ぶ?」
暴れる女の子は何人かの通行人が押さえなければならないほどだった。真っ青なアズに別の通行人が声を掛けるが、アズは何も言わなかった。
結局、通行人が警察に通報、警察が到着する頃には大きな騒ぎとなっていた。
そして、そこにいるはずのアズはどこにも居なくなっていた。
**
アズが居なくなった?!
連絡を受けユズが家に戻った頃、漣、朔、奨の3人も家に集まってきていた。
「アズがいないってどういうこと?」
ユズの声が甲高く響く。
「分からない。これから何があったか確認する」
朔が硬い表情で答える。
「なんでこんな時に限ってお前たちはアズと一緒じゃなかったんだ?!」
奨が珍しく大声をあげて二人を睨む。
「今日の予定は知ってんだろ、奨も。でもたまたまアズのグループが早く作業が終わったらしくて、アズは先にカフェテリアに行くって」
漣が説明する。
「じゃあ何で?」
「分かんね、急に用事が出来たからって、4限には戻るってメッセだけ来てて」
「すぐに探さなかったのか?」
「いちいち束縛したらアズも窮屈だと思ったんだよ、確認したら大学から遠くないとこだったし……」
「でも4限が始まっても来なかったんだ」
「だから連絡したんだよ」
朔が独り言のように奨の問いかけに答えながら、スマホを操作する。
「お前らに任せたのが間違いだった」
やはりスマホを操作しながら奨がきつく言う。
「確かにアズを一人にしたのは悪かったけど、それより今は何があったか、アズがどこにいるかだろ? ……と。は? なんでこんなとこ。」
漣がスマホから目を上げる。
念のために各自がそれぞれ仕掛けておいたらしいGPSを各々で起動させアズを追う3人の様子に、ユズは戦慄と安堵という2つの相反する気持ちを確認する。そしてもう自分の選別は本当に終わりになるかもしれないと言う事を。
あまりに行き過ぎるのは問題だけど、3人いれば牽制される。
それぞれが各々大事に閉まっておきたいくらい愛しているのは知っている。だからこそ、この3人なら……。
「場所わかったの?」
ユズの問いかけに3人ともがうなずく。
「すぐに向かいましょう」
皆が腰をあげ掛けた瞬間、ユズの携帯が震える。
「アズ?!」
ユズがすぐに携帯を確認するが、電話ではなくメッセだった。
「じゃあタクシーが来次第、行こうぜ」
朔がタクシー配車アプリからの返信を確認しながら言うが、ユズが動かない。
「ユズ、どうした?」
奨が声を掛けると、ようやくユズがスマホから顔を上げる。
「紗良……友達から。何かうちの高校の制服着た子とアズが一緒にいたらしいって……」
「え?」
「マジで?」
「誰?!」
「分からないわ……。私、友達とちょっとあんた達の大学に行ってみる、何か分かるかもしれないし。だから、アズのお迎えは任せるわ」
「分かった。ユズは何があったのかを確認しておいてほしい」
「ええ」
「とにかくアズを一人にしておけないしな」
「早く行こうぜ」
ほどなく到着したタクシーを手配し、3人で乗っていく。
「アズのことよろしくね!」
過ぎ去るタクシーを見送り、ユズはすぐに紗良へ大学へ一緒に行って欲しい旨の連絡を入れた。自分も移動のためにタクシー配車手配を済ませたユズは、3人の乗ったタクシーの方向を見つめる。
それにしても……。
目的地が一緒とはいえ、あんなに険悪だったくせに3人一緒に行く所とか、案外いいトリオなのかも。
それぞれ種類の違う美貌を纏う3人に、トリオという単語がどうにも似合わない。こんな状況なのにフッと笑みがこぼれる。
「さ、私は何があったのか確認しないと」
ユズの顔は、再び厳しい表情に戻り、タクシーを待つため家に戻った。
日差しで焼けるから、と奨には言われているものの、窓際のこの席が好きなアズは気にせずに座る。それでも日焼け止めやその日の肌のケアは3人が代わる代わるローテーションで行っているため、アズの真珠のような肌は損なわれていない。彼らと結ばれてからアズはさらに3人に心を解放していた。あれだけ隠したかった傷跡も、彼らにだけは触れられても気にならなくなってきている。優しく傷跡にキスされる分だけ、傷跡によってもたらされた心の傷が癒やされていくような気持ちだった。
「ふふ」
つい思い出し笑いをしてしまったアズに、その笑顔に、カフェテリアだけでなくカフェテリアに面した構内でも思わず見惚れてしまう人が続出していることに本人だけは気がついていない。だから奨が、いや、奨だけでなく漣も朔もなるべくアズを窓際の席に一人座らせておきたくないのだ。
コンコン。
ふいに音がしたので、アズは目線を音のした方へ向ける。
コンコンコン。
すぐ近くの窓を制服の可愛い女の子がノックしている。その制服には見覚えがあった。
ユズちゃんの制服と一緒だ。
視線が合うと、その女の子がペコっと頭をさげ、何か小さな紙袋をおずおずと取り出し、指を差す。
「何かご用?」
窓越しでは聞こえないと分かっていたものの、思わず声に出して聞いてしまう。その後、自分を指差し、軽く首をかしげると、その女の子は必死に頷くため、アズは外に出てみることにした。
カフェテリアを出て窓の外にいる女の子の所へ近づく。
「あの、俺に何かご用ですか?」
「急にすみません! あの、水瀬優珠の弟さんですよね?」
「あ、はい。えっと……?」
「あ、あの、私、ユズ先輩と同じ高校の者で……ここの大学にユズ先輩の弟さんがいるって聞いていたので……えっと、私……来年ここの大学を受けようかと思っていて、あの良かったら相談に乗ってもらえないですか?あの、あと、これユズ先輩に渡して頂ければと思って……ご卒業してからなかなかお会いする機会がなくて……ユズ先輩にはすごくお世話になったので、それで……」
ユズの後輩だという女の子は必死に先程の紙袋をアズに押し付けながら、頭を下げながら頼んでくる。
うーん、今日はこのあと3限の講義はないし、奨くんは今日は大学講義スケジュール合わない日だし、朔と漣はあとで4限の講義で一緒だからその時までに戻れば大丈夫かな?
知らない人と話しちゃだめ、ついて行ってはだめ、というのはユズと奨の小さい頃からのアズへの口癖であったし、それは今も漣や朔も同じようにアズに言うセリフなのだが、アズとしてはもう大学生にもなった自分が子ども扱いされているような気分になるものだった。
何より、わざわざユズの後輩が自分を頼りに大学まで来てくれたことが嬉しくてアズは言った。
「いいですよ。」
女の子は顔を上げにっこりと微笑んだ。
**
制服で大学は目立つから、駅前のファストフードでという女の子の要望で、一旦大学を出て駅前に向かう。
――ちょっと用事が出来たので、一旦抜けます。また4限で。
漣と朔にメッセージを送り、ふと周りを見るとあまり見たことのない風景だった。メッセージを送るため先にいく女の子の足元を頼りに進んできたのだが、駅前に向かう大通りではないようだ。
「あの……道が違うようだけど?」
大学には通い慣れているはずもなく、もしや道が分からなかったのではと焦るアズに、女の子がゆっくりと振り向く。
「別に、大丈夫ですよ」
「そ、そうですか? でも駅前なら大通りに出た方が……」
「君はさ、何にも分かってないよね」
「え?」
急に雰囲気を変えた女の子に、アズはぽかんとしてしまう。
「ユズ先輩はそれは素敵な先輩だった。美しくて気高くて、学校でも一番輝いていて。あの笑顔はまさに女神。決して絶やしてはならないもの」
ユズのことを語る女の子は恍惚とし、アズは背筋がぞわりと震えた。
え? なに? ユズちゃんの話? あれ? 大学の相談って……
ユズのことを褒められるのは好きだったし、不快に思ったことはない。それなのに、この子がユズのことを語る姿は見たことのないもののような気がした。
「なのにさ」
女の子がアズに視線を向ける。
「君はさ、欲張りすぎだよね」
「え……」
鋭い視線はもはやアズを睨みつけている。
「君だよ、君に言ったの。ユズ先輩の出来損ないのアズくん」
「ど、どういう意味?」
女の子のあまりの豹変ぶりに気後れしながらアズは聞いた。
「あれもこれもなんて手になんか入らない。君さ、3人も侍らせてるけど、結局誰に決めるのよ」
「そ、そんなこと言われても……。誰かを選ぶなんてまだ出来ないよ」
そう言った途端、女の子は笑い出した。
「キャハハハハ! あんた何言ってんの? あんたなんて、あの完璧なユズ先輩の偽物にもなれないのに? 醜い傷がある君なんて出来損ないだってさっきも言ったでしょ!」
妬み、
憎悪、
嫌悪……。
あまりに突出した存在だったため、そういった類の対象となりにくく、仮になったとしても不安分子は周りが排除してきたため、アズは自分にそういった負の感情をぶつけられることに慣れていなかった。
「とっとと誰か一人に決めて、ユズ先輩のことあんたから解放してよ。ユズ先輩があんたのことでため息ついたり不安な顔したりすることが許せない。それに、ユズ先輩だけじゃなくあの3人は何? なんであんたなんかをあんな素敵な人達がお世話してるの? 訳わかんない。しかもいつまでも自分に縛り付けておくなんて! ユズ先輩を独り占めにするなんてずるい。あんたのせいでユズ先輩達が自分のことを後回しにしていることに気がつけ! あんたが居なければもっとユズ先輩は自由なのに……。醜い傷があるあんたはユズ先輩にいつまでもまとわりつくの影だ。
醜い! 醜い! 醜い!
あんたなんかいらない。さっさとどっかに行ってしまえ!」
笑いながら泣き、泣きながらアズに向かって叫ぶ。もはや最初の可愛らしいイメージは影も形もなくなり、狂気をはらんだ姿は通行人すらぎょっとして振り返る。
アズは逃げることも出来ずに彼女を見つめ、立ち尽くしていた。
「突っ立ってないで、さっさとどこかに行きなさいよ! ユズ先輩の美しい顔と心を歪ませないで! 消えろ! 消えろぉ」
全く反応を見せないアズに、飛び掛からんとする勢いだったが、とっさに通りかかった人が女の子を押さえこむ。
「君、大丈夫? 誰か呼ぶ?」
暴れる女の子は何人かの通行人が押さえなければならないほどだった。真っ青なアズに別の通行人が声を掛けるが、アズは何も言わなかった。
結局、通行人が警察に通報、警察が到着する頃には大きな騒ぎとなっていた。
そして、そこにいるはずのアズはどこにも居なくなっていた。
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アズが居なくなった?!
連絡を受けユズが家に戻った頃、漣、朔、奨の3人も家に集まってきていた。
「アズがいないってどういうこと?」
ユズの声が甲高く響く。
「分からない。これから何があったか確認する」
朔が硬い表情で答える。
「なんでこんな時に限ってお前たちはアズと一緒じゃなかったんだ?!」
奨が珍しく大声をあげて二人を睨む。
「今日の予定は知ってんだろ、奨も。でもたまたまアズのグループが早く作業が終わったらしくて、アズは先にカフェテリアに行くって」
漣が説明する。
「じゃあ何で?」
「分かんね、急に用事が出来たからって、4限には戻るってメッセだけ来てて」
「すぐに探さなかったのか?」
「いちいち束縛したらアズも窮屈だと思ったんだよ、確認したら大学から遠くないとこだったし……」
「でも4限が始まっても来なかったんだ」
「だから連絡したんだよ」
朔が独り言のように奨の問いかけに答えながら、スマホを操作する。
「お前らに任せたのが間違いだった」
やはりスマホを操作しながら奨がきつく言う。
「確かにアズを一人にしたのは悪かったけど、それより今は何があったか、アズがどこにいるかだろ? ……と。は? なんでこんなとこ。」
漣がスマホから目を上げる。
念のために各自がそれぞれ仕掛けておいたらしいGPSを各々で起動させアズを追う3人の様子に、ユズは戦慄と安堵という2つの相反する気持ちを確認する。そしてもう自分の選別は本当に終わりになるかもしれないと言う事を。
あまりに行き過ぎるのは問題だけど、3人いれば牽制される。
それぞれが各々大事に閉まっておきたいくらい愛しているのは知っている。だからこそ、この3人なら……。
「場所わかったの?」
ユズの問いかけに3人ともがうなずく。
「すぐに向かいましょう」
皆が腰をあげ掛けた瞬間、ユズの携帯が震える。
「アズ?!」
ユズがすぐに携帯を確認するが、電話ではなくメッセだった。
「じゃあタクシーが来次第、行こうぜ」
朔がタクシー配車アプリからの返信を確認しながら言うが、ユズが動かない。
「ユズ、どうした?」
奨が声を掛けると、ようやくユズがスマホから顔を上げる。
「紗良……友達から。何かうちの高校の制服着た子とアズが一緒にいたらしいって……」
「え?」
「マジで?」
「誰?!」
「分からないわ……。私、友達とちょっとあんた達の大学に行ってみる、何か分かるかもしれないし。だから、アズのお迎えは任せるわ」
「分かった。ユズは何があったのかを確認しておいてほしい」
「ええ」
「とにかくアズを一人にしておけないしな」
「早く行こうぜ」
ほどなく到着したタクシーを手配し、3人で乗っていく。
「アズのことよろしくね!」
過ぎ去るタクシーを見送り、ユズはすぐに紗良へ大学へ一緒に行って欲しい旨の連絡を入れた。自分も移動のためにタクシー配車手配を済ませたユズは、3人の乗ったタクシーの方向を見つめる。
それにしても……。
目的地が一緒とはいえ、あんなに険悪だったくせに3人一緒に行く所とか、案外いいトリオなのかも。
それぞれ種類の違う美貌を纏う3人に、トリオという単語がどうにも似合わない。こんな状況なのにフッと笑みがこぼれる。
「さ、私は何があったのか確認しないと」
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