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自覚
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いつもと同じ日だった。
いつもの通り、俺の部活が終わるまで漣が教室で待っていて、同じくサッカー部のヘルプに入っていた朔と一緒に家まで帰った。もう夕方になると真っ暗で、コートを着込んでいても冷気が突き刺さる。
「うわー、やっぱり寒いねぇ」
一瞬のうちに冷気に包まれ、思わず首をすくめながら呟くと息が白くなる。そんな俺の手を朔が取る。
「ほら」
そうして、自分がしていた手袋を俺の手に嵌めてくれた。
「アズ、これも」
そう言いながら、漣がマフラーを巻き付けてくれた。
「え、俺もマフラーしてるよ?」
「いいから付けとけよ」
「ん……、ありがとう」
手袋からは朔の、マフラーからは漣の温もりがまだ感じられる。身体だけじゃなく、心もあったかくなったせいか、もうさほど寒くはない。
もう二人が一緒に帰るのが当たり前で、どちらかが部活やバイトでいないと寂しいと感じるようになっていた。
帰ってしばらくして奨くんが来て、4人で俺の部屋に居た。奨くんは希望学部の医学部進学はもう確実と言われているのに、論文か何か書いているらしくなかなか時間も合わないけど、時間があればこうやって来てくれる。それが嬉しい。
俺と朔と漣は交代でゲーム。
奨くんは本を読んでいる。
いつもと同じ日だった。
……はずだった。
「アズ、これプレゼント」
「え?」
朔がニコニコして袋を渡してくれた。
中を見ると俺が欲しいと言っていたブランドのセーターだ。
「どうしたの? 急に」
「欲しいって言ってたじゃん」
漣も言う。
「朔と漣が買ってくれたの?」
「そう」
「ん」
「わぁ、ありがとう! ……でも本当にどうしたの? 何かあったっけ? 貰っちゃってもいいの?」
「うん、ちょっと早いけど俺たちからのクリスマスプレゼント」
嬉しい!
いつもいつも朔と漣は俺の欲しいものをくれる。
言葉も物も態度も……。
それは奨くんとはまた別の心地よさで、二人には感謝してもしきれない。
ニコニコと嬉しそうにセーターを取り出し自分に当てて見るアズの様子を確認して、3人はそっと目配せをする。
「気に入った?」
朔が下からアズを覗き込むようにして聞く。
「もちろん! 嬉しいよ、朔!」
「ほんと?」
漣もアズのすぐ横にくっつく。
「うん、本当! 漣もありがとう! 大事にするね」
「じゃあさ……。今着てみてよ」
「今?」
「うん、せっかくだから初めて着るとこ見たい」
「じゃあちょっと待っててね」
「なんで?」
「? なんでって、着替えて来るから……」
「違うよ、アズ。今ここで着てみせて欲しいんだよ、俺たち」
「今? ここで?」
言われたことが頭に入っていかない。
いや、言われている意味は分かるけど、理解出来ない。
言葉につまっていると、
「心配しないで」
漣が言う。
「大丈夫だから、見せて?」
朔も言う。
え?
「どう……して……2人には……」
2人には話していなかった。
俺の醜いところ。
「なんで……奨くん?」
アズの瞳が自分の後ろに座る奨に止まる。
すがるような目をするアズに奨は困ったような顔をして、静かにアズの髪に触れ長い指で梳くだけだった。
「ごめん、ユズちゃんから聞いたんだ」
アズの頬を両手で挟み、ゆっくりと漣が自分達に向かせる。
「こうなった時にビックリしないようにって」
アズはますますシャツを握りしめる。
知られてた!
漣にも朔にも……。
二人とも知ってたからあんな風に……。
奨くんと一緒だ。それを俺は勘違いしてたんだ。
「大丈夫。大丈夫だからちゃんと見せて?」
「奨だけ知ってるなんて許せないよ。俺にもアズの全部見せて?」
「や、やだ!」
俺は3人から距離を取った。
「俺のこと可愛いとか、綺麗とか、全部同情だったんだ! これ見たら絶対嫌われる! 絶対にやだ! やだ! もう近づかないで! 俺に触れないでっ」
涙が出て止まらない。
見られたくない、やだ。
見られたら絶対に嫌われる。
それだけは嫌だ。
そんな俺を見て、奨くんは悲しそうに苦しそうに眉を顰め、それでも静かに穏やかな口調で言った。
「俺だけじゃなく、漣君や朔君のこともアズはそうやって認めないの? 俺の、俺たちの気持ちまでアズは否定するの? みんなアズが大好きなのに、どうしたら伝わるのかな? 俺はどうしたらアズに信じてもらえるの?」
声が震えていた。
いつもいつも自信と優しさに溢れているはずの奨くんが……。
さっきまであんなに甘く優しかったのに、今にも泣いてしまいそうに震えていた。こんな奨くん見たこと無い。
「俺だってどんなアズだって好きだよ。だから信じて。もっともっと近づきたい。だから逃げないで、お願いだから」
朔が真剣な顔で言う。
いつも弾けるような笑顔で周りを明るくしてくれる、いや、俺を照らしてくれている朔が怖いくらいに見つめてくる。こんな時なのに、整った朔の瞳に引き込まれそうになる。
「アズのこと全部知りたい。アズなら何でもいいんだ。アズだから愛おしいんだ。アズの心にも体にももっと触れたいよ」
朔とは反対に漣はフワッと微笑んだ。
クール王子と呼ばれる漣はあまり笑わない。笑ってもちょっと口の端が持ち上がるだけ。そんな漣が頬を染めて微笑んでいた。
「しん……じる……?」
信じる……?
何を?
みんなのこと?
みんなの言葉?
みんなの気持ち……?
気持ち……。
奨くんの、朔の、漣の、気持ち。
可愛いって、
ずっと一緒にいたいって、
付き合いたいって、
――好きだ
って。
顔も体も一気に熱くなる。
今まで見ないようにしてきた自分の感情が渦を巻いて襲いかかってくる。
好き……?
俺を……?
俺は……?
おれは……。
見せたくない。
自分の一番醜いところ。
消えない痕。
見せてはいけないもの。
だって、みんな変な顔をするから。最初に驚いて、次にため息をつくんだ。そして、引きつった笑顔を浮かべる。
そして俺がいないと思って言うんだ。
「あの傷さえなければね」って。
みんなそう。
みんな同じ。
みんな……?
いや、違う。
そうだ、奨くんはいつも絶対に否定しなかった。この傷を知っていて、でもずっといつも側にいてくれた。
二人は? 俺の傷を見たら居なくなってしまう?
ぐるぐると頭の中が回る。
俺は、俺はどうしたいの?
いつまでも隠せない。
ずっと逃げるの?
自分ばかり逃げていていいのか……ここで突き放したら、もう二度と3人とは笑い合えないかもしれない。そしていつか、彼らの心に俺とは違う大切な人が俺の代わりにいることになる……。
イヤダ……。
終わりにしたくない。
恥ずかしさと怖さと自分の中の自覚した熱が体温を押し上げる。
今まで誰かからの好意についてちゃんと向き合ったことがなかった。
誰にどんなに何か言われても信じてこなかった。
だって、それが本当は自分に対してじゃなかったってことに気が付くことが怖かったから。初めから信じていなければ傷つかない。
だけど、俺のこの態度が奨くんをずっと傷付けてきたんだ。
そして、漣と朔をも傷付けることになる。
ちゃんと、信じてみたい。
奨くんを、朔を、漣を……。
でも、怖い。
だけど……
だけど信じたい。
アズは握りしめていたシャツの手を緩め、ゆっくりとボタンを外しだした。
さっきまで泣いていたことも関係しているのか、とにかく熱い。ただ極度の緊張からか指先は冷たいままでうまく動かない。
アズの手が震えていることに3人とも気がついていたが、3人はただ黙って見守っていた。
ゆっくり、ゆっくりとボタンがひとつ、またひとつと外され、最後のボタンを外すと、ハラリとシャツが落とされた。
反応が怖くてアズは目をつぶっていた。冷や汗がこめかみを伝う。
皆の視線が体の左側に集まり、だんだんとあの日のような熱を持ってきているように感じる。
怖い、
怖い、
怖い……。
ギュッと目を閉じたままだったが、
フワッと3人の匂いを感じた。
「なんだ、アズは傷まで綺麗だな」
「アズの優しさの証じゃん。カッコいいよ」
「頑張ったねアズ。大好きだよ」
そうして、3人は代わる代わる俺の傷跡に優しいキスをしてくれた。
それはあったかくて、恥ずかしくて、ビリビリと体中に電気が走ったみたいになって立っていられず、思わずペタリと床に座り込んでしまった。
**
「あの……、俺、ユズちゃんじゃないよ?」
奨くんと漣、朔は代わる代わる抱きしめてくれ、改めて「好きだ」と言ってくれた。
俺はプレゼントのセーターを着せてもらい3人の腕の中にいる。
暖房が効いた部屋なせいか、3人にくっついているせいか、顔はまだ火が出るように熱い。
嬉しいのに怖い気持ちも消えない。
今までずっと自分は醜いと思っていたから、俺から見てもカッコいい3人が俺を好きなんて……。
やっぱりユズちゃんと間違えてるんじゃないのかな?
「? は? 知ってんよ、当たり前。アズに言ってんの」
「だって……、ほら、俺、傷あるし、醜いし……」
「何いってんのアズ。今、気にしないって、全部好きだって言ったばかりだろ。傷があったってアズは他の誰よりも綺麗だ」
「! うん……。でも……ほんとに、本当にユズちゃんじゃない? ユズちゃんの代わりは出来ないよ……俺……」
「アズ……。昔から俺はアズだけだったよ。ユズじゃない。アズが好きだった。今もずっとアズだけが好きだ。男とか女とかじゃない。他の誰でもない。アズだから好きなんだよ」
「ほ、ほんと?」
とんでもなく恥ずかしい顔になっているだろうからずっと下を向いていたけど、みんなが優しい言葉で俺の不安を一つずつ消してくれる。しっかりと抱きとめてくれる腕が苦しいけど頼もしい。
「うん」
「本当だよ」
「アズがいい」
心臓が爆発しそうだ。
ドキドキが大きくなって、胸から飛び出してしまいそう。
「うん……嬉しい。ありがとう。」
それだけ伝えるのが精一杯だった。それでも3人は今まで以上に優しい顔で笑ってくれた。
クリスマスまであと5日だったけど、少し早めに俺は最高のクリスマスプレゼントを貰った。
いつもの通り、俺の部活が終わるまで漣が教室で待っていて、同じくサッカー部のヘルプに入っていた朔と一緒に家まで帰った。もう夕方になると真っ暗で、コートを着込んでいても冷気が突き刺さる。
「うわー、やっぱり寒いねぇ」
一瞬のうちに冷気に包まれ、思わず首をすくめながら呟くと息が白くなる。そんな俺の手を朔が取る。
「ほら」
そうして、自分がしていた手袋を俺の手に嵌めてくれた。
「アズ、これも」
そう言いながら、漣がマフラーを巻き付けてくれた。
「え、俺もマフラーしてるよ?」
「いいから付けとけよ」
「ん……、ありがとう」
手袋からは朔の、マフラーからは漣の温もりがまだ感じられる。身体だけじゃなく、心もあったかくなったせいか、もうさほど寒くはない。
もう二人が一緒に帰るのが当たり前で、どちらかが部活やバイトでいないと寂しいと感じるようになっていた。
帰ってしばらくして奨くんが来て、4人で俺の部屋に居た。奨くんは希望学部の医学部進学はもう確実と言われているのに、論文か何か書いているらしくなかなか時間も合わないけど、時間があればこうやって来てくれる。それが嬉しい。
俺と朔と漣は交代でゲーム。
奨くんは本を読んでいる。
いつもと同じ日だった。
……はずだった。
「アズ、これプレゼント」
「え?」
朔がニコニコして袋を渡してくれた。
中を見ると俺が欲しいと言っていたブランドのセーターだ。
「どうしたの? 急に」
「欲しいって言ってたじゃん」
漣も言う。
「朔と漣が買ってくれたの?」
「そう」
「ん」
「わぁ、ありがとう! ……でも本当にどうしたの? 何かあったっけ? 貰っちゃってもいいの?」
「うん、ちょっと早いけど俺たちからのクリスマスプレゼント」
嬉しい!
いつもいつも朔と漣は俺の欲しいものをくれる。
言葉も物も態度も……。
それは奨くんとはまた別の心地よさで、二人には感謝してもしきれない。
ニコニコと嬉しそうにセーターを取り出し自分に当てて見るアズの様子を確認して、3人はそっと目配せをする。
「気に入った?」
朔が下からアズを覗き込むようにして聞く。
「もちろん! 嬉しいよ、朔!」
「ほんと?」
漣もアズのすぐ横にくっつく。
「うん、本当! 漣もありがとう! 大事にするね」
「じゃあさ……。今着てみてよ」
「今?」
「うん、せっかくだから初めて着るとこ見たい」
「じゃあちょっと待っててね」
「なんで?」
「? なんでって、着替えて来るから……」
「違うよ、アズ。今ここで着てみせて欲しいんだよ、俺たち」
「今? ここで?」
言われたことが頭に入っていかない。
いや、言われている意味は分かるけど、理解出来ない。
言葉につまっていると、
「心配しないで」
漣が言う。
「大丈夫だから、見せて?」
朔も言う。
え?
「どう……して……2人には……」
2人には話していなかった。
俺の醜いところ。
「なんで……奨くん?」
アズの瞳が自分の後ろに座る奨に止まる。
すがるような目をするアズに奨は困ったような顔をして、静かにアズの髪に触れ長い指で梳くだけだった。
「ごめん、ユズちゃんから聞いたんだ」
アズの頬を両手で挟み、ゆっくりと漣が自分達に向かせる。
「こうなった時にビックリしないようにって」
アズはますますシャツを握りしめる。
知られてた!
漣にも朔にも……。
二人とも知ってたからあんな風に……。
奨くんと一緒だ。それを俺は勘違いしてたんだ。
「大丈夫。大丈夫だからちゃんと見せて?」
「奨だけ知ってるなんて許せないよ。俺にもアズの全部見せて?」
「や、やだ!」
俺は3人から距離を取った。
「俺のこと可愛いとか、綺麗とか、全部同情だったんだ! これ見たら絶対嫌われる! 絶対にやだ! やだ! もう近づかないで! 俺に触れないでっ」
涙が出て止まらない。
見られたくない、やだ。
見られたら絶対に嫌われる。
それだけは嫌だ。
そんな俺を見て、奨くんは悲しそうに苦しそうに眉を顰め、それでも静かに穏やかな口調で言った。
「俺だけじゃなく、漣君や朔君のこともアズはそうやって認めないの? 俺の、俺たちの気持ちまでアズは否定するの? みんなアズが大好きなのに、どうしたら伝わるのかな? 俺はどうしたらアズに信じてもらえるの?」
声が震えていた。
いつもいつも自信と優しさに溢れているはずの奨くんが……。
さっきまであんなに甘く優しかったのに、今にも泣いてしまいそうに震えていた。こんな奨くん見たこと無い。
「俺だってどんなアズだって好きだよ。だから信じて。もっともっと近づきたい。だから逃げないで、お願いだから」
朔が真剣な顔で言う。
いつも弾けるような笑顔で周りを明るくしてくれる、いや、俺を照らしてくれている朔が怖いくらいに見つめてくる。こんな時なのに、整った朔の瞳に引き込まれそうになる。
「アズのこと全部知りたい。アズなら何でもいいんだ。アズだから愛おしいんだ。アズの心にも体にももっと触れたいよ」
朔とは反対に漣はフワッと微笑んだ。
クール王子と呼ばれる漣はあまり笑わない。笑ってもちょっと口の端が持ち上がるだけ。そんな漣が頬を染めて微笑んでいた。
「しん……じる……?」
信じる……?
何を?
みんなのこと?
みんなの言葉?
みんなの気持ち……?
気持ち……。
奨くんの、朔の、漣の、気持ち。
可愛いって、
ずっと一緒にいたいって、
付き合いたいって、
――好きだ
って。
顔も体も一気に熱くなる。
今まで見ないようにしてきた自分の感情が渦を巻いて襲いかかってくる。
好き……?
俺を……?
俺は……?
おれは……。
見せたくない。
自分の一番醜いところ。
消えない痕。
見せてはいけないもの。
だって、みんな変な顔をするから。最初に驚いて、次にため息をつくんだ。そして、引きつった笑顔を浮かべる。
そして俺がいないと思って言うんだ。
「あの傷さえなければね」って。
みんなそう。
みんな同じ。
みんな……?
いや、違う。
そうだ、奨くんはいつも絶対に否定しなかった。この傷を知っていて、でもずっといつも側にいてくれた。
二人は? 俺の傷を見たら居なくなってしまう?
ぐるぐると頭の中が回る。
俺は、俺はどうしたいの?
いつまでも隠せない。
ずっと逃げるの?
自分ばかり逃げていていいのか……ここで突き放したら、もう二度と3人とは笑い合えないかもしれない。そしていつか、彼らの心に俺とは違う大切な人が俺の代わりにいることになる……。
イヤダ……。
終わりにしたくない。
恥ずかしさと怖さと自分の中の自覚した熱が体温を押し上げる。
今まで誰かからの好意についてちゃんと向き合ったことがなかった。
誰にどんなに何か言われても信じてこなかった。
だって、それが本当は自分に対してじゃなかったってことに気が付くことが怖かったから。初めから信じていなければ傷つかない。
だけど、俺のこの態度が奨くんをずっと傷付けてきたんだ。
そして、漣と朔をも傷付けることになる。
ちゃんと、信じてみたい。
奨くんを、朔を、漣を……。
でも、怖い。
だけど……
だけど信じたい。
アズは握りしめていたシャツの手を緩め、ゆっくりとボタンを外しだした。
さっきまで泣いていたことも関係しているのか、とにかく熱い。ただ極度の緊張からか指先は冷たいままでうまく動かない。
アズの手が震えていることに3人とも気がついていたが、3人はただ黙って見守っていた。
ゆっくり、ゆっくりとボタンがひとつ、またひとつと外され、最後のボタンを外すと、ハラリとシャツが落とされた。
反応が怖くてアズは目をつぶっていた。冷や汗がこめかみを伝う。
皆の視線が体の左側に集まり、だんだんとあの日のような熱を持ってきているように感じる。
怖い、
怖い、
怖い……。
ギュッと目を閉じたままだったが、
フワッと3人の匂いを感じた。
「なんだ、アズは傷まで綺麗だな」
「アズの優しさの証じゃん。カッコいいよ」
「頑張ったねアズ。大好きだよ」
そうして、3人は代わる代わる俺の傷跡に優しいキスをしてくれた。
それはあったかくて、恥ずかしくて、ビリビリと体中に電気が走ったみたいになって立っていられず、思わずペタリと床に座り込んでしまった。
**
「あの……、俺、ユズちゃんじゃないよ?」
奨くんと漣、朔は代わる代わる抱きしめてくれ、改めて「好きだ」と言ってくれた。
俺はプレゼントのセーターを着せてもらい3人の腕の中にいる。
暖房が効いた部屋なせいか、3人にくっついているせいか、顔はまだ火が出るように熱い。
嬉しいのに怖い気持ちも消えない。
今までずっと自分は醜いと思っていたから、俺から見てもカッコいい3人が俺を好きなんて……。
やっぱりユズちゃんと間違えてるんじゃないのかな?
「? は? 知ってんよ、当たり前。アズに言ってんの」
「だって……、ほら、俺、傷あるし、醜いし……」
「何いってんのアズ。今、気にしないって、全部好きだって言ったばかりだろ。傷があったってアズは他の誰よりも綺麗だ」
「! うん……。でも……ほんとに、本当にユズちゃんじゃない? ユズちゃんの代わりは出来ないよ……俺……」
「アズ……。昔から俺はアズだけだったよ。ユズじゃない。アズが好きだった。今もずっとアズだけが好きだ。男とか女とかじゃない。他の誰でもない。アズだから好きなんだよ」
「ほ、ほんと?」
とんでもなく恥ずかしい顔になっているだろうからずっと下を向いていたけど、みんなが優しい言葉で俺の不安を一つずつ消してくれる。しっかりと抱きとめてくれる腕が苦しいけど頼もしい。
「うん」
「本当だよ」
「アズがいい」
心臓が爆発しそうだ。
ドキドキが大きくなって、胸から飛び出してしまいそう。
「うん……嬉しい。ありがとう。」
それだけ伝えるのが精一杯だった。それでも3人は今まで以上に優しい顔で笑ってくれた。
クリスマスまであと5日だったけど、少し早めに俺は最高のクリスマスプレゼントを貰った。
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