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朔
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水瀬和珠は可愛い。とんでもなく可愛い。
はっきり言うと、そこらの女子なんか目じゃない。いや、女子とか男子とかそういう枠でくくれない。アズだから可愛い。可愛いからアズで、アズだから好きになった。
もともと好きとかドキドキするとか、恋愛感情はよくわからなかった。
どうやらイケメンってやつなのだと、周りの反応で自覚する前から俺はモテていて、彼女は途切れたことはなかった。別に嫌いではないし、せっかく告白してきてくれるしと思って付き合うが、なぜか段々みな束縛が酷くなっていったり、ありもしない浮気を疑われて責められたりと、次第に面倒に思うようになり、うるさくなれば自分から振った。
「なんか女ってうざってーな」
「はん? イケメン様の愚痴か、聞いてられねー」
「なんかメッセはすぐ返事くれとか、いつも好きって言えとかって、うざくない?」
「それはお前がその子のことほんとに好きじゃないからじゃね?」
「セックスは好きだぞ」
「だからそういうエロいことは好きだけど、本人のことを好きじゃないっていうか……。ま、何でもいいけどさ。明日の合コン顔だしてよ、朔。お前が来ると来ないんじゃ女子の集まり変わるんだよ」
「別にいいけど」
本当に好きって何だろ。
なんで皆そんなに必死になるんだか。
そう思っていたら、衝撃を受けた。
高校の入学式。
一瞬で目が奪われた。
アズの周りだけ光りが跳ねているように思えた。
初めて息が、時間が止まるような錯覚を覚えて、苦しくなった。
苦しいのに近づきたい。目が離せない。
俺のものにしたいと思った。
それが水瀬和珠だった。
最初は女かと思った。可愛すぎて。
でも制服は男。
なにかの間違いかと思ったけど、何度確認してもアイツは男だった。
自分の気持ちも勘違いかと悩んだ。
だって、俺は男でアイツも男。
同性婚が認められて久しいし、偏見はないつもりだったけど、自分がまさか男に対してそういう感情を持つとは思っていなかったから。
「俺、おかしくなったのかも。水瀬がヤバい」
つい口を滑らせた。
ところが周りの野郎どもも激しく首をたてに振る。
自分がおかしいのかと思ったが、周りも似たようなものだったことに安心する。
これは悩むところじゃない。
やっぱり水瀬が可愛いのは事実で、俺が好きなのも事実なんだ。
そう思ってから、どんどん水瀬と距離を縮めた。
何回か恋愛的な好意を仄めかしても、のほほんと笑い小首を傾げながら、
「ユズちゃんのことかな?」
と言う。
ユズちゃんって誰? と思いながらも、小首かしげの威力にやられ深く突っ込まずにその視線がこちらに向いていることに浮かれた。
そんなある日、俺らはユズちゃんとアズ同盟軍に連れて行かれたのだ。
そうして、一定の節度を守り互いを牽制しあいながら、俺は水瀬の隣に居ても良いとの許可を勝ち取ったのに……。
榊漣。
登校初日の第一声。
いきなりアズに何言ったんだ?!
イケメンの新入生が来ているらしい、とは朝から専らの噂だった。
入学式前に事故って入院していたらしい。アホじゃね。
なんでも構わないが、アズにだけは近づかないようにしないと。
そう思っていたのに、扉をあけ入ってきたヤツはぐるっと教室を見渡し、アズのところで目線が止まった。
そして、言った。
「惚れた。俺と付き合って」
ふざけんな!!
一瞬にして頭に血が上り、敵認定した。
「榊漣です。よろしく」
アズから目線を離さず言う。
なんでアイツがアズの隣で、アズがあいつのお世話をしないといけないんだ!
榊は登校初日からクラスに大波乱を起こした。
それはクラスから学年に広がっていき、いつの間にかクール王子(ダサっ)として名が知られるようになっていった。
たった1ヶ月で! ムカつくなっ。
告白のことだけじゃない。
染めているのか地毛なのか、日に透けると金髪とも思える茶色の髪。少し長めのそれは時々女子に弄ばれ、複雑な編み込みとなっているが決して女っぽくならず、クールな容貌にもマッチしていた。どこか外国の血が入っているのかと思うほど、彫りが深く、背も高い。冷たい印象を与えるが、態度はフラットでとにかく美形だった。えげつないほどあいているピアスも嫌味ではなく、センスの良いチョイスがまた見るものの心を奪うようだった。
そんなヤツがアズに告白した。
いきなり。
許せるわけもない。
俺だって我慢しているんだ。
焦る訳では無いが、後からきて何してくれてんだ。
それからとにかく俺はアズの近くで榊がアズに触れないように、変なことを言わないように見張っていた。
お構いなしにアプローチする榊にブチ切れそうになる。
こっちはアズ同盟があるから下手に動けないというのに……。
そんな俺の、いや、アズ同盟の同志達の心中を俺たちの天使が救ってくれる。
「ん? 榊くん? なんだろうね、いつも面白いよね。
え? 付き合う? 何に?
え? 可愛い? うーん、きっとね、俺とユズちゃんとを間違えてるんだよ。
だからその内誤解が解けると思うんだ」
お前も同じだ、ザマーミロ!
盛大なブーメランに心は血を流しながら、榊の好意が1ミリも届いていないことに安心する。
そして、ようやくユズちゃんの面接日が決まったのだった。
はっきり言うと、そこらの女子なんか目じゃない。いや、女子とか男子とかそういう枠でくくれない。アズだから可愛い。可愛いからアズで、アズだから好きになった。
もともと好きとかドキドキするとか、恋愛感情はよくわからなかった。
どうやらイケメンってやつなのだと、周りの反応で自覚する前から俺はモテていて、彼女は途切れたことはなかった。別に嫌いではないし、せっかく告白してきてくれるしと思って付き合うが、なぜか段々みな束縛が酷くなっていったり、ありもしない浮気を疑われて責められたりと、次第に面倒に思うようになり、うるさくなれば自分から振った。
「なんか女ってうざってーな」
「はん? イケメン様の愚痴か、聞いてられねー」
「なんかメッセはすぐ返事くれとか、いつも好きって言えとかって、うざくない?」
「それはお前がその子のことほんとに好きじゃないからじゃね?」
「セックスは好きだぞ」
「だからそういうエロいことは好きだけど、本人のことを好きじゃないっていうか……。ま、何でもいいけどさ。明日の合コン顔だしてよ、朔。お前が来ると来ないんじゃ女子の集まり変わるんだよ」
「別にいいけど」
本当に好きって何だろ。
なんで皆そんなに必死になるんだか。
そう思っていたら、衝撃を受けた。
高校の入学式。
一瞬で目が奪われた。
アズの周りだけ光りが跳ねているように思えた。
初めて息が、時間が止まるような錯覚を覚えて、苦しくなった。
苦しいのに近づきたい。目が離せない。
俺のものにしたいと思った。
それが水瀬和珠だった。
最初は女かと思った。可愛すぎて。
でも制服は男。
なにかの間違いかと思ったけど、何度確認してもアイツは男だった。
自分の気持ちも勘違いかと悩んだ。
だって、俺は男でアイツも男。
同性婚が認められて久しいし、偏見はないつもりだったけど、自分がまさか男に対してそういう感情を持つとは思っていなかったから。
「俺、おかしくなったのかも。水瀬がヤバい」
つい口を滑らせた。
ところが周りの野郎どもも激しく首をたてに振る。
自分がおかしいのかと思ったが、周りも似たようなものだったことに安心する。
これは悩むところじゃない。
やっぱり水瀬が可愛いのは事実で、俺が好きなのも事実なんだ。
そう思ってから、どんどん水瀬と距離を縮めた。
何回か恋愛的な好意を仄めかしても、のほほんと笑い小首を傾げながら、
「ユズちゃんのことかな?」
と言う。
ユズちゃんって誰? と思いながらも、小首かしげの威力にやられ深く突っ込まずにその視線がこちらに向いていることに浮かれた。
そんなある日、俺らはユズちゃんとアズ同盟軍に連れて行かれたのだ。
そうして、一定の節度を守り互いを牽制しあいながら、俺は水瀬の隣に居ても良いとの許可を勝ち取ったのに……。
榊漣。
登校初日の第一声。
いきなりアズに何言ったんだ?!
イケメンの新入生が来ているらしい、とは朝から専らの噂だった。
入学式前に事故って入院していたらしい。アホじゃね。
なんでも構わないが、アズにだけは近づかないようにしないと。
そう思っていたのに、扉をあけ入ってきたヤツはぐるっと教室を見渡し、アズのところで目線が止まった。
そして、言った。
「惚れた。俺と付き合って」
ふざけんな!!
一瞬にして頭に血が上り、敵認定した。
「榊漣です。よろしく」
アズから目線を離さず言う。
なんでアイツがアズの隣で、アズがあいつのお世話をしないといけないんだ!
榊は登校初日からクラスに大波乱を起こした。
それはクラスから学年に広がっていき、いつの間にかクール王子(ダサっ)として名が知られるようになっていった。
たった1ヶ月で! ムカつくなっ。
告白のことだけじゃない。
染めているのか地毛なのか、日に透けると金髪とも思える茶色の髪。少し長めのそれは時々女子に弄ばれ、複雑な編み込みとなっているが決して女っぽくならず、クールな容貌にもマッチしていた。どこか外国の血が入っているのかと思うほど、彫りが深く、背も高い。冷たい印象を与えるが、態度はフラットでとにかく美形だった。えげつないほどあいているピアスも嫌味ではなく、センスの良いチョイスがまた見るものの心を奪うようだった。
そんなヤツがアズに告白した。
いきなり。
許せるわけもない。
俺だって我慢しているんだ。
焦る訳では無いが、後からきて何してくれてんだ。
それからとにかく俺はアズの近くで榊がアズに触れないように、変なことを言わないように見張っていた。
お構いなしにアプローチする榊にブチ切れそうになる。
こっちはアズ同盟があるから下手に動けないというのに……。
そんな俺の、いや、アズ同盟の同志達の心中を俺たちの天使が救ってくれる。
「ん? 榊くん? なんだろうね、いつも面白いよね。
え? 付き合う? 何に?
え? 可愛い? うーん、きっとね、俺とユズちゃんとを間違えてるんだよ。
だからその内誤解が解けると思うんだ」
お前も同じだ、ザマーミロ!
盛大なブーメランに心は血を流しながら、榊の好意が1ミリも届いていないことに安心する。
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