花言葉を俺は知らない

李林檎

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いなくなった人達

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ー瞬sideー

翌朝、ハイドと一緒に宿屋に聞き込みをしようと向かった。

でも、結果は他の人と同じだ。

イブが聞き込みをしなくても、目立つ騎士の服で出歩いていた筈なのに誰も知らないなんて考えにくい。
まるでイブ達がいなくなってしまったかのようだ。

ハイドはもしかしたら国に帰っているのかもと考えて、昨日リチャードに追加の伝書鳩を飛ばしたみたいで返事が返ってきた。
伝書鳩の足から手紙を受け取り、内容を確認している。

「戻っていないみたいだ」

「いったい何処に行っちゃったのかな」

「この街の奴らはなにか隠している、もう少し調べる必要がある…瞬は先に帰るか?」

「ううん、俺も手伝う…イブの事心配だから」

「そうか」

俺だけがイブと最後に会ったんだ、なにか変な事はなかっただろうか。
ラウラの街で馬車を借りた、その馬車が人身売買の馬車だった。
それだけでも、かなり怪しさがある。

それだけじゃなく、宿屋の店主は俺を覚えていた。
台所を借りたからそれだけでも印象深かったのかもしれない。
でも、瞬を覚えているなら一緒にいた人達も覚えている筈だ。

なのになんで…

『お客さんはお一人でいらしてましたよ』

「……」

「あんなはっきり嘘をつく理由が必ずある筈だ、突き止めるのは簡単だが騒ぎは起こしたくない」

瞬達はラウラの街の人達からしたらよそ者だ。
証拠がないのに突き止めるような事は出来ない。
でも、目撃以外の手がかりはどう見つければいいんだろう。

確かイブ達は、ラウラの街で亡霊の調査をしていた。
その間になにかあってイブ達はいなくなったのか?

ラウラの街でも亡霊が現れて、なにかあったのかもしれない。
幽霊って、大勢いるところに現れないんだよな。

隣にいるハイドを見ると、ハイドも瞬の方を見た。

「どうした?」

「手分けして探した方が見つかる気がして、もしかしたらヴァイデル国に現れた亡霊かもしれないし」

「…危ない」

「でも一人の時の方がなにか起こりやすいと思うし」

「瞬を危険な目にあわすくらいなら、応援を要請する」

確かに瞬とハイドが別れたらなにがあるか分からない。
今度死んだらきっと瞬は二度と生まれ変われないだろう。
でもイズレイン帝国から応援を要請しても最低一日掛かる。
もしイブが危険な状態なら一日でも危ない。

ハイドは頑なに瞬の作戦に乗らない。
でも、このまま街を歩いていてもイブが見つかるわけがない。
可能性があるなら何でも試したいのは、正直な気持ちだ。

そして、この異常な状態でイブが大丈夫の確率はとても低い。

瞬はハイドに目で訴えた。
イブに助けられた事が何度もある、だから今度瞬が助けたい。
自分が無力だと分かっていても、ハイドに守られてばかりじゃ…ハイドに相応しい人間になれない。

弱いままだから、きっとリチャードは…

「瞬」

「何?」

「瞬の傍は必ず離れない、絶対に…」

「うん」

ハイドは瞬の手を握った。

そして、少し離れた建物に身を隠した。
イブの場所を突き止めないと、取り返しがつかなくなる前に…

イブがハーレー国の亡霊に連れ去られたとしたら、瞬のところに来る気がした。
ヴァイデル国のパーティーの時、亡霊は瞬に向かって変な事を言っていた。
もう一度現れるかもしれないと思った、瞬に用があるというなら…

ハーレー国とは嫌な縁が続く、瞬を殺して…まだなにか用があるというのだろうか。

普通に周りを見渡してイブの手がかりを探す。
人に聞いてもやっぱり同じ言葉しか返ってこない。
だんだん人気がない道に入っていく。

さっきまで賑やかだった声が聞こえなくなって、ドキドキと心臓がうるさい。

静かな路地裏で足音が重なる。
ハイドだと思ったが、ふと足音が急に消えて後ろを振り返った。

すると、瞬に腕を伸ばそうとしている鎧姿の人物がいた。
とっさに手に持っていた短剣を振る。

ハイドに護身用として握らされていた。
本当は使いたくなかったけど、自分の身を守るために振った。
料理以外でナイフなんて使った事がないから扱いが分からない。

腕にあたると、鎧の腕の部分が外れた。
そこには何もなくて、人ではない事はすぐに分かった。

亡霊だ、まさか本当に現れるなんて…

後ずさって、震える手でナイフを向ける。

「イヴは…イズレイン帝国の騎士はどうしたんですか!」

聞いても全く相手は俺の質問に答えてくれない。
パーティーの亡霊は話しかけてきたのに、個体差でもあるのか?

亡霊は死んでいるからか短剣に怯む事なく近付いてくる。
路地裏の行き止まりまで来てしまい、後ずさる事が出来なくなった。

腕を伸ばす亡霊の腕を蹴り上げた。
すると、簡単に腕が外れた。

生身じゃないから、そんなに強くないのかもしれない。
両腕がなくなったのにまだこちらに迫ってきていた。

腕を掴まれた感触はしたのに、そこには何もなかった。
見えていないだけで、そこになにかあるのか?

腕を思いっきり前にやっても、腕の鎧が簡単に外れただけで力が強い。
その時、亡霊の身体がブレて力がなくなったかのように地面に鎧が落ちた。

亡霊の後ろにハイドがいて、瞬の腕を引いて抱きしめていた。

「大丈夫か?瞬」

「うん、でも…まだ手がかりが」

「いや、もう充分だ」

ハイドはそう言って、下を見るから瞬も下を見る。
下にはさっきの鎧があり、こうして見ると中身が空っぽのように思える。

瞬から離れたハイドは鎧を掴んで、中を探っていた。
空っぽのようというか、空っぽのようだった。

ハイドはなにかを見つけたようでそれを手にしていた。
瞬はそれに見覚えがあった、この世界というより…昔いた世界で…
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