花言葉を俺は知らない

李林檎

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ラウラの街再び

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「あっ、ハイドさん!」

「随分大荷物だな」

「服とか食料とかいろいろ買ってて」

広場でハイドは紙袋を持って手を振る瞬達を見つけた。

瞬とユウの両手いっぱいの紙袋を見て、ハイドは二人の手から紙袋を一つずつ取り、抱える。
重そうだったからせめて楽に移動出来るように、あまり重さを感じていなかったがハイドより鍛えていない二人には大変だと思って荷物を引き受けた。

宿屋で少し準備をしてから、馬が移動出来る夜に出発する事になった。

瞬とユウはユウの部屋で着替えていて、ハイドは部屋で昨日書いた手紙を伝書鳩に乗せて放った。

宛先はイズレイン帝国にいるリチャードにだ。

ヴァイデル国で会った事とラウラの街に寄るから帰りが遅くなる事を話した。
瞬の事は…まだ話さなくていいだろう、帰ったら話せばいい。

伝書鳩が空高く飛んでいるのを眺めていたら、部屋のドアがノックされた。

ドアを開けると、瞬とユウが着替え終わったみたいで立っていた。

出発までまだ時間がある、それまでゆっくりしておこう。

瞬が宿屋の厨房を借りて、久々にカップケーキを作ってくれると言ってくれた。
瞬のカップケーキ…もう、食べられないと思っていた…とても嬉しい。

ユウはハイドをジッと見つめていて、どうかしたのかと不思議に思った。

「ハイド様」

「なんだ?」

「…俺、騎士になりたいんです」

ユウは真剣な眼差しでハイドにそう言った。

騎士志望の奴は年間かなりの人数が来る。
しかし、そこから合格するのはほんのひと握りだ。
合格しても、鍛錬がキツすぎるとすぐに辞める奴もいる。

騎士は憧れの職業だろうが、憧れだけではどうする事も出来ない。

ユウの瞳からは、浮ついた理由で目指しているわけではなさそうだがまだ会ったばかりで分からない。

ハイドの立場から簡単に騎士になれとかやめろとか言えない。
ただ言える事は、騎士団にはいるために必要な事だけだ。

「まずは士官学校に通って戦い方を学ぶ事だな」

「うっ…確かにそうだけど、俺…頭悪いよ」

「勉強すれば入れない壁ではない、本当に騎士になる気があるなら頑張れ」

ハイドがそう言うと、ユウは少し大人っぽくなった決意の顔で頷いた。
瞬がカップケーキを作って、二人の前に持っていった。

ハイドには甘くないもの、ユウには甘いものを渡した。

そして、時間はゆっくりだが確実に過ぎていった。

夜遅く、酒場以外は真っ暗になっているヴァイデル国を見渡して瞬は頭を下げた。
いろいろお世話になった、そして…これからは穏やかな時を過ごしてほしいと願いを込めて…

地面に置いてある食材が入った荷物を持ち上げて馬車に持っていく。
イズレイン帝国から商業で来た馬車に乗せてもらえる事になった。
イズレイン帝国の紋章が刻まれているから、瞬が誘拐されたような事にはならないだろう。

ヴァイデル国に入る時に紋章を隠していたから、いつイズレイン帝国の人間かバレるかヒヤヒヤしたと笑っていた。
荷物を積み終わり、瞬とハイドとユウは馬車に乗った。

途中で瞬とハイドだけラウラの街で降ろしてもらう事になっていた。

馬車に揺られながら、ユウは買った林檎をかじっていた。
ヴァイデル国から久々に出るから、緊張して夕飯食べていなかったから無理はないだろう。

「ユウくん、今度俺の店に遊びに来てよ」

「ん…まぁまぁ美味しかったし、行ってあげてもいいよ」

ツンツンしたような感じだが、ユウの照れ隠しなのは分かっていて瞬は微笑ましく感じていた。

少し馬車が揺れて、瞬がよろけるとハイドがそっと身体を寄せた。
小さなハイドの気遣いに、瞬は幸せな気持ちになった。

ユウの呆れたため息を聞いて、すぐにハイドから離れた。

ハイドは寂しさを感じたが、人前でやるのは瞬が恥ずかしがると思いやめた。

「そろそろラウラの街です」と御者の声が聞こえた。

馬車は止まり、ハイドが先に降りて瞬に手を差し伸ばした。
手を取り、一緒に降りるとユウが馬車から顔を出した。

「ユウくん、じゃあイズレイン帝国でまた会おうね」

「うん、瞬が帰ってきたら屈強な男になってるかもよ!」

「楽しみにしてるね!」

大きく手を振ると、ユウも手を振り…馬車が走り出した。
ハイドに肩を軽く掴まれて、一緒にラウラの街に向かう。

まずはイブ達を探す事から始めなくてはいけない。

瞬はもう行き違いになっているかもしれないと思ったが、ハイドは街の人ならなにか知っていると言っていた。
イブは街の人の話を聞いて、情報収集をしている。
だから、街の人全員知らないなんて事はありえなかった。

ありえないんだ…

「イズレイン帝国の騎士様?さぁ、私は見ておりません」

「そうですか」

情報が一番集まる酒場で聞いたが、全くイブを目撃している人がいなかった。
イブ達は騎士服を着ていたんだ、イズレイン帝国の騎士を誰も見ていないなんてそんな事はありえない。

瞬はイブ達と泊まった宿屋なら絶対に分かるだろうと宿屋に向かった。
しかし、時間が時間なので宿屋は閉まっていた。

明日の朝に行くために、今日は野宿する事にした。
こんな時のためにヴァイデル国で買った簡易テントを街の少し外れに設置した。

「瞬、寒くないか?」

「うん、大丈夫」

「もっと近くに行ってもいいか?」

「…いいよ」

小さいテントだからそんなに離れられないが、もっと近くに行きたくて寄る。
肩が触れ合い、手を重ねて絡め合う。

ハイドの肩に顔を寄せると、頭を撫でられて目を閉じて眠った。
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