花言葉を俺は知らない

李林檎

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奴隷制度

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ーイノリsideー

「んっん…」

頭がまだフワフワしたような感じで痛くて眉を寄せる。
物音がする、これはドアを閉める音だろうか。

誰かの足音が聞こえて、目を開けようとしたらあまりの眩しさに顔を逸らし再び目を閉じる。
なんか目の前にチカチカしたものがあった、見覚えがあるような…あれはなんだろう。

誰かの息遣いが聞こえる、とても鼻息が荒くて大きな手で肩を触れられた。
急な事で驚いて、目の前を見つめて…顔が青ざめた。

「お目覚めかい、僕のマイドール」

そう言った目の前の小太りの男はイノリの肩を撫でていた。
誰だろう、知らない人だ…イノリは状況が分からなかった。

嫌だと手を振り上げようとして、自分の今の格好に気付いた。
ヒラヒラの白いレースや、胸元に大きなリボン…真っ赤に色付くドレスを着ていた。
イノリは当然元々こんな服を着ていたわけではない。
なにがあったか、ゆっくりと思い出そうと思った。

イノリは確か、ラウラの街に来ていて沢山果物を買ったからイズレイン帝国に帰ろうと思った。
そして、馬車の中で急に眠くなって眠り…気付いたらここにいた。

あの馬車はラウラの街で正式に頼んだ馬車だ…変な事は起こらない筈なのに…

「貴方はいったい誰なんですか!なんで俺はここに…」

「僕は貴族なんだよ、だから君を奴隷商人から買った」

「奴隷商人?」

「そうだよ、君…奴隷商人の馬車の中にいただろ?」

「違う!俺がいたのはラウラの街で手配した馬車で…」

瞬の時、勉強していたから奴隷制度の事を知っていた。
イズレイン帝国は奴隷制度に反対だったから同盟国も反対していた。
ラウラの街は中立の立場でイズレイン帝国ともハーレー国とも同盟は結んでいない。
しかし、奴隷制度には反対派だったから奴隷制度はない筈だ。

だから、ラウラの街の役所で正式に手配した馬車が奴隷商人の馬車な筈はない。
そう言うと、目の前の男はとても可笑しそうに笑っていた。

「君、何も知らないんだなぁ…遠くの国からやってきた箱入り娘なのかい?」

「…俺は男です」

「ついこの間の話なんだけどね…ラウラの街はハーレー国と同盟を結んだんだよ、そのおかげで今ラウラの街は救われている」

ハーレー国と同盟を結んだんだ、そんな…だってありえない。
ハーレー国はハイド達が戦ってなくなった筈だ。
まだ騎士が生き残っていたとしても、ハーレー国の王はもういない。

そこでイブ達から聞いた亡霊の話を思い出す。
……亡霊が生き返ったら、ハーレー国は復活するという事?

ラウラの街は貧しい街だった、何処とも同盟を結ばず中立の立場だからか他の国に助けを呼ぶ事が出来なかった。
しかし、その代わり戦争には巻き込まれず…貧しいが幸せに暮らしていたそうだ。

そんな貧しくも幸せな暮らしは長続きしなかった。

ハーレー国の騎士達がラウラの街にやって来て、ラウラの街に多額の寄付をしたそうだ。
それにとても感謝したラウラの街の人々は、ハーレー国に忠誠を誓う事になった。

堕ちた筈のハーレー国の復活の瞬間だと男は嬉しそうに話していた。
…楽しそうな男を見るからに、ハーレー国の信者のように感じた。

「愚かな他国はまだイズレイン帝国がハーレー国を滅ぼしたと言っている」

「だってそれは」

「英雄になりたいがために、ハイドという男が嘘を付いていたんだろ…」

「違う!!」

イノリはカッと頭に血が上り、男の胸ぐらを掴んだ。

何も知らないくせに、何故そんな酷い事が言えるのか理解出来なかった。
イノリは「ハイドさんはそんな人じゃない!!」と男を睨んだ。

ハイドはハーレー国に勝利した、その証拠に毎日ハーレー国から苦しめられていた国からお礼の手紙が届いていた。
確かに平和は訪れた、生き残りの騎士はいたがハイドが英雄になったのは変わらない。
そしてハイドは一度も自分を英雄だなんて名乗らなかった…周りの人が勝手にハイドをそう呼んでいただけだ。

男は驚いて、大きな声で人を呼んで…すぐに使用人が数人現れてイノリを押さえつけた。
猿轡を噛まされて、両手には手枷を付けられ首に冷たい首輪を嵌められた。

「うっ、ぐ…」

「君は自分の立場が分かっていないようだね、その身体は僕のものなんだよ…分かってるのか!?」

男はイノリの顎を掴んで上に向けさせて、怒鳴っていた。

ここで暴れたら、ろくな抵抗も出来ずに死んでしまう。
だったら大人しくして、逃げる機会を伺った方がいいだろう。

大人しくなったイノリを見て、男は満足そうにしていた。
後ろにのしかかっていた使用人が離れて、圧迫感がなくなった。

ドレスから出る、腿に触れられて全身の鳥肌が立つ。
その手つきは、撫でたり揉んだりしていて気持ちが悪かった。

「前のドールは使いすぎて、穴がダメになってしまったからなぁ…君は処女だろうからちゃんと解してあげるね」

男の奴隷は肉体労働をさせられるだろうが、イノリの今の格好からしてこういう奴隷なのかは薄々気付いていた。
処女って…イノリは男だから処女なんてない。

確かにこの身体で誰ともしていないが、初めてがコイツなのは絶対に嫌だ。

足は幸い自由だから、男を蹴り…ベッドから転がり落ちる。
すぐに使用人達が捕まえようとイノリを追いかけて、イノリは走った。
ドレスを着ている事を忘れていて、足でドレスを踏み転けた。

ドレスが少し破れてしまい、男の悲痛な叫びが部屋中に響き渡った。
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