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街の外
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思い詰めた顔で下を見るイノリにスカーレットは何を思ったのか、イノリの背中を少し乱暴に叩いた。
息が出来なくなり、噎せた。
「げほっ、げほっ」
「大丈夫ですよお兄さん!イズレイン帝国の近くにいる魔物はそんな強くありませんから」
「そ、そうなの?」
「人間だけじゃなくて、魔物にもハイド様の強さが分かるんでしょうかね」
スカーレットはそう言って、自分の事のように嬉しそうだった。
魔物が怖くて不安だったわけではないが、全く不安ではないと言ったら嘘になる。
でも、強くなるって決めたなら逃げていたら何も始まらない。
この身体ではあまり鍛えていないが、生前の知識で身体能力は悪くない。
それを活かした自分の戦い方が出来れば…と考えている。
イノリはスカーレットに銃の扱い方を聞いた。
「その銃は俺が練習用に使っていた武器です、練習とはいえ実弾が入ってますから気をつけて扱って下さい」
「…うん」
「当てたいものに狙いを定めるだけじゃダメです、それがもし動くものだとしたら動きも予測しなくてはいけない」
スカーレットは銃を扱うのが、剣よりも上手くて歩きながら教えてくれた。
ロイスが心配だから練習している暇はない、イノリは頭の中でイメージトレーニングをする。
魔物に会わなければそれでいいが、万が一があるから警戒心を持つ。
歩いているが、急いでいるから自然と歩みも早くなる。
そして、草原を歩いていたらスライムみたいな魔物が飛んでいるのが見えた。
スカーレットは「あれは無害だから気にしなくていい」と言っていた。
確かにスライムみたいなのは襲ってこなくて、飛んでいるだけだ。
精霊の森に近付いて、今日は中に入らないから横を通り過ぎる。
街を出て、歩いて20分くらいの距離に魔物山はある。
乗り物は試験では禁止で、歩きで向かう。
スカーレットはロイスが心配でも、自分が乗り物で駆けつけても試験が失格になりロイスの試験も一緒に組んでいるから失格になる事を恐れていた。
いつでもロイスの事をスカーレットは想っているんだなと思った。
そのためには絶対に皆無事に帰らないとな。
魔物山の入り口に続く階段前までやってきた。
ここまで魔物に襲われる事はなかった、スカーレットの言った通り無害の魔物が多いのかもしれない。
「無事に魔物山まで来たね」
「…無事、ではなさそうだけどね」
「えっ?」
スカーレットの顔が引き攣っていて、イノリも後ろになにかがいる気配がした。
ガサガサと、草原の草を掻き分けてこちらに向かってきている。
ギュッと、銃を握る手に力を込める。
人でも魔物でも命を奪うのは怖い、だから…追ってこれないくらいに足止めが出来れば…
スカーレットが隣にいるイノリに、目線だけを向けた。
イノリは頷き、スカーレットが合図するのを待った。
草を掻き分ける音が大きくなっていく。
スカーレットの手がイノリの手に軽く触れて、それを合図にいっせいに振り返った。
そこに居たのは成人男性サイズの大きな芋虫だった。
「ひぎゃあぁぁっっ!!!!」
スカーレットの大きな声に驚いて、スカーレットを見ると地面に座り込んでいた。
尻餅を付いたのだろうか、イノリと違い戦い経験が豊富だと思っていたからこんな大きさでも大丈夫だと思っていたが、スカーレットは武器を手に取る気配はない。
ただ、芋虫の魔物を見つめているだけだった。
今ここで動けるのはイノリしかいない。
緊張で、喉が渇く…芋虫は尻餅を付いているスカーレットに向かって身体を伸ばしていた。
イノリは考えるより身体が動き、スカーレットの身体を抱きしめて、足に力を入れて軽くバネのように飛んだ。
するとスカーレットがいた場所に変な液体を吐いて、そこにあった草が腐って土が変色していた。
あれに触れたら無事では済まない事は誰にだって分かる。
イノリは銃を構えて、芋虫の動きをよく見る。
右、左と身体を揺らして移動している。
右……次は左…動くタイミングが分かってきた。
生き物は不意打ちに弱い動いた瞬間に狙うしかない。
心臓の音が緊張でうるさく響いていた。
イノリは芋虫に向けていた銃を少しだけ下に向けた。
そして、一気に引き金を引くと…なにかが弾けたような感触が手に残る。
芋虫の尻尾は移動する時、全く動いていなかった。
一番狙いやすく、致命傷にはならないが足止めは出来る。
芋虫が再びスカーレットを襲おうとしていていたが、見事に銃弾は芋虫に命中して尻尾が引きちぎれた。
思ったより血が出て驚いたがら芋虫は痛くて苦しんでいた。
スカーレットの腕を掴んで、走り出した。
魔物山の入り口は確か二人でしか開かない…だとしたら芋虫が魔物山の中まで来る事はないだろう。
走って、走って…息を切らして階段の真ん中までやってきた時芋虫の叫び声なのだろうか怒った芋虫が追いかけてくる。
イノリとスカーレットも無我夢中で走り、魔物山の入り口が近付いてくる。
「スカーレットくん!どうやったら開くの!?」
「扉の端に四角い石の窪みがあるからそこに同時に立てば開く」
窪み…窪みは…あった!
慌てて、窪みの中に立ち扉が開く音が聞こえる。
早く行かないと芋虫に追いつかれてしまう。
芋虫は目前まで迫っていて、イノリはスカーレットを先に扉に入るように言った。
スカーレットが入ったのを確認して、イノリは芋虫に足蹴りした。
少し後ろに下がった芋虫の隙をつき、扉に入った。
ギリギリ閉まるところだった扉に身体を滑り込ませる事が出来て、芋虫が来る前に扉は閉まった。
凄い緊張した…ため息を吐いて一先ず安堵した。
「お兄さん、ごめん…足は引っ張ってたね」
「そんな事ないよ、役立てたなら良かった」
「魔物山の入り口までだったのに、中まで連れてきて…お兄さんは入り口で待ってて……すぐロイスを連れて帰ってくるから」
「俺も行くよ」
スカーレットはイノリの言葉に驚いていた。
戦える自信なんてない、一度芋虫に攻撃したがまだ撃った感触が残って手が震える。
でも、スカーレットを放っておく事も出来なかった。
スカーレットは遠慮しているのか「これ以上迷惑掛けられません」と言っていた。
スカーレットはもしかして、イノリが気付いていないと思ってるのだろうか。
イノリはスカーレットの肩に手を置いた。
「スカーレットくんも、虫…嫌いなんだね」
「!?」
きっとロイスとスカーレットが魔物山に来る前に立てていた作戦は、虫をどうやったら見ないで倒せるかとかそういうのだと思っていた。
じゃないと、元々強いと言っている二人があまり強くない魔物山の魔物を倒すのに作戦はいらないだろう。
図星を言われて、スカーレットは気まずそうにイノリを見ていた。
スカーレットと共にロイスを探す事になり、周りを見渡す。
足元がでこぼこしていて、不安定で気を付けながら歩かないと転けてしまう。
ガサガサと音が聞こえるだけで、スカーレットが過剰に反応する。
イノリも虫を退治するのは得意ではないが、そこまで苦手意識はない。
巨大な蜂が目の前に飛んできて、スカーレットの叫び声が聞こえた。
イノリは銃を構える。
蜂の針に向かって銃の引き金を引いた。
針がなくなれば、しばらくは襲っては来ないだろう。
針だからすぐに復活すると思い、スカーレットと一緒にその場を離れた。
息が出来なくなり、噎せた。
「げほっ、げほっ」
「大丈夫ですよお兄さん!イズレイン帝国の近くにいる魔物はそんな強くありませんから」
「そ、そうなの?」
「人間だけじゃなくて、魔物にもハイド様の強さが分かるんでしょうかね」
スカーレットはそう言って、自分の事のように嬉しそうだった。
魔物が怖くて不安だったわけではないが、全く不安ではないと言ったら嘘になる。
でも、強くなるって決めたなら逃げていたら何も始まらない。
この身体ではあまり鍛えていないが、生前の知識で身体能力は悪くない。
それを活かした自分の戦い方が出来れば…と考えている。
イノリはスカーレットに銃の扱い方を聞いた。
「その銃は俺が練習用に使っていた武器です、練習とはいえ実弾が入ってますから気をつけて扱って下さい」
「…うん」
「当てたいものに狙いを定めるだけじゃダメです、それがもし動くものだとしたら動きも予測しなくてはいけない」
スカーレットは銃を扱うのが、剣よりも上手くて歩きながら教えてくれた。
ロイスが心配だから練習している暇はない、イノリは頭の中でイメージトレーニングをする。
魔物に会わなければそれでいいが、万が一があるから警戒心を持つ。
歩いているが、急いでいるから自然と歩みも早くなる。
そして、草原を歩いていたらスライムみたいな魔物が飛んでいるのが見えた。
スカーレットは「あれは無害だから気にしなくていい」と言っていた。
確かにスライムみたいなのは襲ってこなくて、飛んでいるだけだ。
精霊の森に近付いて、今日は中に入らないから横を通り過ぎる。
街を出て、歩いて20分くらいの距離に魔物山はある。
乗り物は試験では禁止で、歩きで向かう。
スカーレットはロイスが心配でも、自分が乗り物で駆けつけても試験が失格になりロイスの試験も一緒に組んでいるから失格になる事を恐れていた。
いつでもロイスの事をスカーレットは想っているんだなと思った。
そのためには絶対に皆無事に帰らないとな。
魔物山の入り口に続く階段前までやってきた。
ここまで魔物に襲われる事はなかった、スカーレットの言った通り無害の魔物が多いのかもしれない。
「無事に魔物山まで来たね」
「…無事、ではなさそうだけどね」
「えっ?」
スカーレットの顔が引き攣っていて、イノリも後ろになにかがいる気配がした。
ガサガサと、草原の草を掻き分けてこちらに向かってきている。
ギュッと、銃を握る手に力を込める。
人でも魔物でも命を奪うのは怖い、だから…追ってこれないくらいに足止めが出来れば…
スカーレットが隣にいるイノリに、目線だけを向けた。
イノリは頷き、スカーレットが合図するのを待った。
草を掻き分ける音が大きくなっていく。
スカーレットの手がイノリの手に軽く触れて、それを合図にいっせいに振り返った。
そこに居たのは成人男性サイズの大きな芋虫だった。
「ひぎゃあぁぁっっ!!!!」
スカーレットの大きな声に驚いて、スカーレットを見ると地面に座り込んでいた。
尻餅を付いたのだろうか、イノリと違い戦い経験が豊富だと思っていたからこんな大きさでも大丈夫だと思っていたが、スカーレットは武器を手に取る気配はない。
ただ、芋虫の魔物を見つめているだけだった。
今ここで動けるのはイノリしかいない。
緊張で、喉が渇く…芋虫は尻餅を付いているスカーレットに向かって身体を伸ばしていた。
イノリは考えるより身体が動き、スカーレットの身体を抱きしめて、足に力を入れて軽くバネのように飛んだ。
するとスカーレットがいた場所に変な液体を吐いて、そこにあった草が腐って土が変色していた。
あれに触れたら無事では済まない事は誰にだって分かる。
イノリは銃を構えて、芋虫の動きをよく見る。
右、左と身体を揺らして移動している。
右……次は左…動くタイミングが分かってきた。
生き物は不意打ちに弱い動いた瞬間に狙うしかない。
心臓の音が緊張でうるさく響いていた。
イノリは芋虫に向けていた銃を少しだけ下に向けた。
そして、一気に引き金を引くと…なにかが弾けたような感触が手に残る。
芋虫の尻尾は移動する時、全く動いていなかった。
一番狙いやすく、致命傷にはならないが足止めは出来る。
芋虫が再びスカーレットを襲おうとしていていたが、見事に銃弾は芋虫に命中して尻尾が引きちぎれた。
思ったより血が出て驚いたがら芋虫は痛くて苦しんでいた。
スカーレットの腕を掴んで、走り出した。
魔物山の入り口は確か二人でしか開かない…だとしたら芋虫が魔物山の中まで来る事はないだろう。
走って、走って…息を切らして階段の真ん中までやってきた時芋虫の叫び声なのだろうか怒った芋虫が追いかけてくる。
イノリとスカーレットも無我夢中で走り、魔物山の入り口が近付いてくる。
「スカーレットくん!どうやったら開くの!?」
「扉の端に四角い石の窪みがあるからそこに同時に立てば開く」
窪み…窪みは…あった!
慌てて、窪みの中に立ち扉が開く音が聞こえる。
早く行かないと芋虫に追いつかれてしまう。
芋虫は目前まで迫っていて、イノリはスカーレットを先に扉に入るように言った。
スカーレットが入ったのを確認して、イノリは芋虫に足蹴りした。
少し後ろに下がった芋虫の隙をつき、扉に入った。
ギリギリ閉まるところだった扉に身体を滑り込ませる事が出来て、芋虫が来る前に扉は閉まった。
凄い緊張した…ため息を吐いて一先ず安堵した。
「お兄さん、ごめん…足は引っ張ってたね」
「そんな事ないよ、役立てたなら良かった」
「魔物山の入り口までだったのに、中まで連れてきて…お兄さんは入り口で待ってて……すぐロイスを連れて帰ってくるから」
「俺も行くよ」
スカーレットはイノリの言葉に驚いていた。
戦える自信なんてない、一度芋虫に攻撃したがまだ撃った感触が残って手が震える。
でも、スカーレットを放っておく事も出来なかった。
スカーレットは遠慮しているのか「これ以上迷惑掛けられません」と言っていた。
スカーレットはもしかして、イノリが気付いていないと思ってるのだろうか。
イノリはスカーレットの肩に手を置いた。
「スカーレットくんも、虫…嫌いなんだね」
「!?」
きっとロイスとスカーレットが魔物山に来る前に立てていた作戦は、虫をどうやったら見ないで倒せるかとかそういうのだと思っていた。
じゃないと、元々強いと言っている二人があまり強くない魔物山の魔物を倒すのに作戦はいらないだろう。
図星を言われて、スカーレットは気まずそうにイノリを見ていた。
スカーレットと共にロイスを探す事になり、周りを見渡す。
足元がでこぼこしていて、不安定で気を付けながら歩かないと転けてしまう。
ガサガサと音が聞こえるだけで、スカーレットが過剰に反応する。
イノリも虫を退治するのは得意ではないが、そこまで苦手意識はない。
巨大な蜂が目の前に飛んできて、スカーレットの叫び声が聞こえた。
イノリは銃を構える。
蜂の針に向かって銃の引き金を引いた。
針がなくなれば、しばらくは襲っては来ないだろう。
針だからすぐに復活すると思い、スカーレットと一緒にその場を離れた。
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