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シヴァの気持ち
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ーイノリsideー
翌日の朝、イノリはクリームを泡立てながらうわの空だった。
ハイドは大丈夫だっただろうか、様子を見に行きたいがイノリは部外者だから許されないだろう。
贈り物は、城に行こうかどうしようか悩んでいた時に門前で騎士が立っていろんな人が贈り物を渡しているのを見てイノリも一緒に渡してきた。
イブと会ったら聞いてみようと思った。
クリームの入った容器を置いて、冷蔵庫に入れた。
気を引き締めて、今日も営業スマイルで頑張ろうと笑った。
店の看板を外に出して、開店すると馴染みの人達がやって来た。
「おや、これは新作かい?」
「はい!お一つどうですか?」
「それじゃあ貰おうかね」
ケーキと焼き菓子を箱に入れて、お客さんに渡す。
喜んでくれて、心が暖かくなり嬉しかった。
ふと、お菓子だけじゃなくて他の料理も作ってみようかな…と考えていた。
お菓子作りはこの世界に来る前から馴染みがあった。
でも、普通の料理はあまり作った事がなかった。
今は一人暮らしだし自炊はするが、茹でたり炒めたりする事しか出来ない。
もっといろいろ出来たらいいなと考えていた。
お店が終わって、イノリは店の掃除をしていた。
コンコンと店の扉が叩かれて、顔を上げるとイノリに向かって手を振っていた。
「シヴァくん!」
「こんばんは、イノリさん」
扉を開けて、シヴァを店の中に入れた。
慌てて掃除道具を片しているとシヴァは「慌てなくても大丈夫だよ、急に来ちゃったんだし」と言っていた。
最近来てくれないからどうしたんだろうと心配していた。
シヴァも最近は忙しくて時間が出来なかったらしい。
お茶を出してテーブルに置くと、シヴァは椅子に座った。
今日はどうかしたのかと、イノリもシヴァの向かいの椅子に座った。
「シヴァくん、なにか食べる?」
「いや、もう閉店だし…気を使わなくていいよ」
「…そう?」
「今日はその…イノリさんの顔が見たくて」
シヴァは照れくさそうに笑っていて、イノリもつられて照れてしまう。
喉が乾いているのか、一気にお茶を飲み干した。
そういえば昨日、カーニバルだったけどシヴァは行ったのだろうか。
シヴァの色恋の話をいっさい聞いた事がなくて気になった。
イノリの店にはシヴァは来ていなかった…というか、シヴァを何処にも見なかった。
カーニバルだからって、外で過ごす恋人ばかりではないんだろうけど…
「そういえばシヴァくん、昨日はカーニバル楽しんだ?」
「えっ、あ…いえ…ほとんど寝てたみたいで」
「そうなんだ」
「…一緒に行く恋人も居ませんし」
シヴァは寂しそうにそんな事を言っていた。
すぐに話を切り替えて、イノリの話になった。
イノリは昨日の事を話した。
出店は成功で終わったと言うと、シヴァも自分の事のように嬉しそうだった。
ゆっくりと時間は過ぎていき、シヴァはふと話してくれた。
シヴァにはずっと探している人がいると…
「顔とか全く思い出せないけど、誰かを探しているんです」
「顔が分かれば俺もお客さんにいないか探せるんだけどね」
「そうですね、なんで大切な人だった筈なのに忘れてるんだろう…まるで俺じゃないみたいで」
シヴァは思い出そう思い出そうとして、頭を抱えていた。
シヴァの大切な人、その人の事きっと好きなのかもしれない。
好きじゃなかったら、シヴァがこんなに苦しく思わないだろう。
シヴァの探している人、いったいどんな人なんだろうな。
シヴァの手に手を重ねると、驚いた顔をしてイノリの方を見つめた。
つい、ハイドにするような事してしまって慌てて謝った。
「ご、ごめんね!つい癖で」
「癖?…イノリさん、他の人にもこういう事してたの?」
「……誰でもじゃないよ」
思い出してしまい、胸の奥がギュッと苦しくなった。
イノリがこうして触れるのは、ハイドに対してだけだ。
シヴァに触れたのは、何故かハイドと面影が重なってしまい触ってしまった。
シヴァに気持ち悪いと思われたかもしれない。
好きでもない相手に触られるのは嫌だろう…イノリだって嫌だ。
イノリは必死に謝り、シヴァは「違います」と言っていた。
「…イノリさんが、その…他の人に触られるのは嫌です」
「……えっ、どうして…」
「分かりませんか?」
シヴァがイノリを真剣に見つめる。
イノリはシヴァに対して密かに惹かれているのは認める。
でも、それは…シヴァを通してハイドを見ているからだ。
シヴァが時々ハイドと重なる…その度に罪悪感でいっぱいになる。
無意識にハイドの代わりをしているのではないか……そんなの、シヴァに失礼だ。
ハイドと結ばれない運命でも、イノリはシヴァの想いを受け入れるわけにはいかない。
イノリ………瞬にとって、ハイドが最初で最後の恋だから…
たとえ、この先どんなにいい人が来ようともそれは変わらない。
「なんて…ごめんなさい…冗談です」
「……シヴァくん」
「それじゃ、お時間いただけてありがとうございます!」
シヴァはさっきの雰囲気を消すように明るく笑って椅子から立ち上がった。
そのままイノリに頭を下げて、店を出ていった。
引き止めても、シヴァにとって良くない事を言おうとした。
きっとシヴァもそれを分かっていて、帰ったのかもしれない。
シヴァはイノリが好き……直接聞いたわけではないが、そうなのかなと考えていた。
でも、シヴァが探している人の事も大切だって言ってたし…好きなのかもしれない。
ハイドしか恋人がいなかったイノリには難しかった。
「…ハイドさん、会いたいよ」
誰にも聞かれない言葉だから、許して下さい。
今、この時だけ…イノリではなく…瞬に戻った気持ちだった。
料理を作ろうかと考えていたのも、ハイドに食べてもらいたいと思ったからだ。
実際は食べさせられないが、妄想くらい自由にさせてほしい。
ハイドはどんな料理が好きだろうか、確か意外と辛いのが好きだったな。
ハイドと一緒に食事をした時間を思い出して、小さく笑う。
そういえば、死んでしばらくしてから転生したみたいだけどハイドの結婚式の話を全く聞かない。
お客さんに噂好きのおばさんがいるけど、ハイドの話は一切聞かなかった。
国民の英雄だし、皆に慕われているから隠れて結婚式をするわけでもないだろうし…なんでだろう。
それもイブに会ったら聞いてみようと思いながら、窓から見える夜空を眺めた。
今日はキラキラと沢山の星が輝いていて綺麗だった。
翌日の朝、イノリはクリームを泡立てながらうわの空だった。
ハイドは大丈夫だっただろうか、様子を見に行きたいがイノリは部外者だから許されないだろう。
贈り物は、城に行こうかどうしようか悩んでいた時に門前で騎士が立っていろんな人が贈り物を渡しているのを見てイノリも一緒に渡してきた。
イブと会ったら聞いてみようと思った。
クリームの入った容器を置いて、冷蔵庫に入れた。
気を引き締めて、今日も営業スマイルで頑張ろうと笑った。
店の看板を外に出して、開店すると馴染みの人達がやって来た。
「おや、これは新作かい?」
「はい!お一つどうですか?」
「それじゃあ貰おうかね」
ケーキと焼き菓子を箱に入れて、お客さんに渡す。
喜んでくれて、心が暖かくなり嬉しかった。
ふと、お菓子だけじゃなくて他の料理も作ってみようかな…と考えていた。
お菓子作りはこの世界に来る前から馴染みがあった。
でも、普通の料理はあまり作った事がなかった。
今は一人暮らしだし自炊はするが、茹でたり炒めたりする事しか出来ない。
もっといろいろ出来たらいいなと考えていた。
お店が終わって、イノリは店の掃除をしていた。
コンコンと店の扉が叩かれて、顔を上げるとイノリに向かって手を振っていた。
「シヴァくん!」
「こんばんは、イノリさん」
扉を開けて、シヴァを店の中に入れた。
慌てて掃除道具を片しているとシヴァは「慌てなくても大丈夫だよ、急に来ちゃったんだし」と言っていた。
最近来てくれないからどうしたんだろうと心配していた。
シヴァも最近は忙しくて時間が出来なかったらしい。
お茶を出してテーブルに置くと、シヴァは椅子に座った。
今日はどうかしたのかと、イノリもシヴァの向かいの椅子に座った。
「シヴァくん、なにか食べる?」
「いや、もう閉店だし…気を使わなくていいよ」
「…そう?」
「今日はその…イノリさんの顔が見たくて」
シヴァは照れくさそうに笑っていて、イノリもつられて照れてしまう。
喉が乾いているのか、一気にお茶を飲み干した。
そういえば昨日、カーニバルだったけどシヴァは行ったのだろうか。
シヴァの色恋の話をいっさい聞いた事がなくて気になった。
イノリの店にはシヴァは来ていなかった…というか、シヴァを何処にも見なかった。
カーニバルだからって、外で過ごす恋人ばかりではないんだろうけど…
「そういえばシヴァくん、昨日はカーニバル楽しんだ?」
「えっ、あ…いえ…ほとんど寝てたみたいで」
「そうなんだ」
「…一緒に行く恋人も居ませんし」
シヴァは寂しそうにそんな事を言っていた。
すぐに話を切り替えて、イノリの話になった。
イノリは昨日の事を話した。
出店は成功で終わったと言うと、シヴァも自分の事のように嬉しそうだった。
ゆっくりと時間は過ぎていき、シヴァはふと話してくれた。
シヴァにはずっと探している人がいると…
「顔とか全く思い出せないけど、誰かを探しているんです」
「顔が分かれば俺もお客さんにいないか探せるんだけどね」
「そうですね、なんで大切な人だった筈なのに忘れてるんだろう…まるで俺じゃないみたいで」
シヴァは思い出そう思い出そうとして、頭を抱えていた。
シヴァの大切な人、その人の事きっと好きなのかもしれない。
好きじゃなかったら、シヴァがこんなに苦しく思わないだろう。
シヴァの探している人、いったいどんな人なんだろうな。
シヴァの手に手を重ねると、驚いた顔をしてイノリの方を見つめた。
つい、ハイドにするような事してしまって慌てて謝った。
「ご、ごめんね!つい癖で」
「癖?…イノリさん、他の人にもこういう事してたの?」
「……誰でもじゃないよ」
思い出してしまい、胸の奥がギュッと苦しくなった。
イノリがこうして触れるのは、ハイドに対してだけだ。
シヴァに触れたのは、何故かハイドと面影が重なってしまい触ってしまった。
シヴァに気持ち悪いと思われたかもしれない。
好きでもない相手に触られるのは嫌だろう…イノリだって嫌だ。
イノリは必死に謝り、シヴァは「違います」と言っていた。
「…イノリさんが、その…他の人に触られるのは嫌です」
「……えっ、どうして…」
「分かりませんか?」
シヴァがイノリを真剣に見つめる。
イノリはシヴァに対して密かに惹かれているのは認める。
でも、それは…シヴァを通してハイドを見ているからだ。
シヴァが時々ハイドと重なる…その度に罪悪感でいっぱいになる。
無意識にハイドの代わりをしているのではないか……そんなの、シヴァに失礼だ。
ハイドと結ばれない運命でも、イノリはシヴァの想いを受け入れるわけにはいかない。
イノリ………瞬にとって、ハイドが最初で最後の恋だから…
たとえ、この先どんなにいい人が来ようともそれは変わらない。
「なんて…ごめんなさい…冗談です」
「……シヴァくん」
「それじゃ、お時間いただけてありがとうございます!」
シヴァはさっきの雰囲気を消すように明るく笑って椅子から立ち上がった。
そのままイノリに頭を下げて、店を出ていった。
引き止めても、シヴァにとって良くない事を言おうとした。
きっとシヴァもそれを分かっていて、帰ったのかもしれない。
シヴァはイノリが好き……直接聞いたわけではないが、そうなのかなと考えていた。
でも、シヴァが探している人の事も大切だって言ってたし…好きなのかもしれない。
ハイドしか恋人がいなかったイノリには難しかった。
「…ハイドさん、会いたいよ」
誰にも聞かれない言葉だから、許して下さい。
今、この時だけ…イノリではなく…瞬に戻った気持ちだった。
料理を作ろうかと考えていたのも、ハイドに食べてもらいたいと思ったからだ。
実際は食べさせられないが、妄想くらい自由にさせてほしい。
ハイドはどんな料理が好きだろうか、確か意外と辛いのが好きだったな。
ハイドと一緒に食事をした時間を思い出して、小さく笑う。
そういえば、死んでしばらくしてから転生したみたいだけどハイドの結婚式の話を全く聞かない。
お客さんに噂好きのおばさんがいるけど、ハイドの話は一切聞かなかった。
国民の英雄だし、皆に慕われているから隠れて結婚式をするわけでもないだろうし…なんでだろう。
それもイブに会ったら聞いてみようと思いながら、窓から見える夜空を眺めた。
今日はキラキラと沢山の星が輝いていて綺麗だった。
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