花言葉を俺は知らない

李林檎

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体調不良

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ーハイドsideー

カーニバルが賑わう城下町を見つめる。
目で彼を探してしまう、こんなに人がいたら見つかるわけないのに…

今日はうるさいリチャードもいない、どうせまたナンパだろう…でも今は好都合だ。
リチャードがいると自由に動けない。
やっと見つけた手がかりだ、失うわけにはいかない。

でも情報が少なすぎて見つけるのは簡単じゃない。

「…君は何故、あの時俺を置いていったんだ?」

誰にも聞かれない言葉を呟く。
彼はもし瞬だというなら、俺だって気付いていた筈なのに洞窟に置いていかれた。
何故、会いに来てくれないのか…ハイドは不思議だった。

揺すり起こしてくれたら良かったのに、自分が瞬だと訴えてくれたら…もう逃げないように抱きしめるのに…

そうしなかったのはきっと彼は自分に会いたくないからだ。
瞬が死んだあの日も、ハイドに会いに来てくれなかった。
リチャードに聞いても心当たりがないと言っていた。

「…とりあえず、会って話がしたい」

会ったのが森だったからこの城下町の人間か分からないが、手掛かりがほしい。
彼は今どこで何してるのか分かれば早いのだが…

彼を探しながら見回りをしている時だった。
目の前がぐにゃり…と歪んだ。

頭がボーッとする、頭を押さえて膝を付く。
ヴァイデル王国の帰りに少し休んだとはいえすぐにミゼラの霊媒をして、ゆっくり休む時間がなく…疲れが溜まったのかもしれない。

こんなところで休んで居られない、足に力を入れて立ち上がろうとしたが身体が揺れた。
地面に倒れる事なく、身体を誰かに支えられた。

「おいっ、大丈夫か!?」

「……リチャード」

「全く、無茶しすぎなんだよ…医務室行くぞ」

「連れはいいのか?」

リチャードの後ろには、一緒にいたのだろう女性が立っていた。
リチャードは女性に「ごめんね、また今度この埋め合わせをするから」と謝って、ハイドの腕を肩に回して支えられる。

医務室くらい一人で行けると言ったが、リチャードに怒られた。
自分では自分の顔は分からないがそんなに酷いのか?

城にある、医務室に行くとハイドは寝不足と栄養失調だった。
リチャードに栄養になるものを食堂で作ってもらうとハイドを部屋の中に押し込んだ。
休んでいるわけにはいかない、あの子を探すまでは…

「ハイド様、ダメですよ!」

「………」

リチャードに言われたのか、部屋の前に騎士が居て出る事が出来なかった。

ベッドで横になる、何もする事がなくて退屈だ。

確か、前にも無理をして体調が悪くなった事があった。
その時、瞬がずっと付き添ってくれた。

いつも使っている枕より、瞬の膝の方が安心出来る。
瞬にだけ、騎士団長だとか英雄だとか全て忘れていられる。
瞬に頭を撫でられると、疲れが一気に治る…瞬は不思議だ。

ハイドしか知らないその魅力、ずっとハイドしか知らなければいいのに…

リチャードが栄養のある食事を持ってきたが、胃が受け付けなった。
原因は分からないが、吐きそうになり一口で限界だった。

「…ハイド、大丈夫か!?」

「……うっ…あ、あぁ…」

「飲み物ならいけるかもしれないな、確か屋台で飲み物売ってるところがあったから買ってくる!」

「…別に、そこまでしなくていい」

「馬鹿野郎!栄養失調なのに何もしなくていいわけねぇだろ!」

リチャードは「俺に甘えろよ」と言っていた。
幼馴染みとはいえ、リチャードには甘えたくない。
リチャードに感謝する事はあるが、大体はリチャードの不真面目さに頭を悩ませているからハイドは絶対に弱みを見せないと心に誓った。

それに、やっぱり自分の全てを預けられる相手じゃないと弱みを見せられない。
リチャードは、背中を預けられる存在だが背中以外は預けたくない。

部屋を出る前に、リチャードはハイドに振り返った。

「確かまだミゼラ様がいたな、誰かがいた方がハイドも退屈しなくて済むんじゃないか?」

「……は?」

リチャードはそう言ってハイドの返事を聞かずに部屋を出ていった。

ミゼラがいたら余計に疲れが溜まるのをリチャードは分かっていない。
客人が来たら呑気に寝ているわけにもいかないだろう。

それにミゼラはもう城にはいない、今朝早くにミゼラを迎えに来た母と共に戻っていったと聞いた。

結構婚約破棄の話をしようとミゼラが泊まっていた部屋に訪れた時に聞いた。
このままだといろいろと中途半端な状態で瞬に会う事になる。

ちゃんと全て終わらせてから会いに行きたいのに…

窓を見つめると、もう夕暮れなのにまだカーニバルを楽しんでいる人達が見える。

もうニオイがしない上着を握りしめた。
会いたい、会いたい、心が張り裂けそうなほど苦しい。
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