花言葉を俺は知らない

李林檎

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導かれた先に….

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18ーハイドsideー

イズレイン帝国に帰るために砂漠を歩いていた。
有力な亡霊の話は正直聞く事が出来なかった。
でも、目撃証言は多く聞く事が出来た。
これなら噂で片付けるわけにもいかないだろう。

まだまだ先は長く、熱気で視界が揺れて見えた。
暑さで頬に汗が伝いローブで拭う、もう少ししたら愛馬がいる街が見えるだろう。

ボーッとした意識の中、俺の頭の中には瞬でいっぱいになる。

早く会いたい、この腕で抱きしめてもう離したくない…瞬…

叶わぬ夢を願ってしまうのは暑さで頭がやられたせいだろうか。

街に着くと愛馬を預けている馬小屋に出向いて、連れて街を出た。
まだまだ道は遠いが、休んでいる暇はなく歩き続ける。
宿に泊まった時もゆっくり休む事が出来なくて疲れが思ったより溜まっていた。

暑さもあり、ハイドの体力がだんだんと奪われていく。
それでも足に力を入れて歩き続けて、イズレイン帝国に向かう。
視界がぼやけて、膝を付くと愛馬が心配そうにハイドの顔を覗き込んだ。

心配かけまいと、立ち上がろうとした。

すると蜃気楼なのかハイドの視界に小さな光が見えた。
不思議に思い、触れようと手を伸ばすと光がより強さを増した。
目も開けられないほどの眩しい光で瞳を閉じた。

迎えに来たのか?瞬に会えるのかと期待しながら心地よい体温に包まれた。






光が弱まり、目を開けるとそこは森の中だった。
優しい風でクラクラするような暑さで身体が熱くなっていたのが冷えてきた。
視界がだんだんクリアになり、体力も戻ってきた。

死んだのかと一瞬思ったが自分の周りに小さな光がぐるぐる回ってるのが見えた。
近くで見ると子供の姿をした光で、精霊は子供の姿をしていると何処かの本で見たのを思い出す。
初めて見た……精霊ってこういう姿なのか。

そしてやっとこの場所は精霊の森なのだと分かった。
ハイドも精霊に選ばれたと喜ぶべきなのかもしれないが、疑問の方が強かった。
…何故、今呼ばれたのだろうか…あの砂漠からかなりの距離があるというのに…
愛馬も一緒にやって来たみたいで、背中を撫でる。

森は霧で覆われてほとんど何も見えない。
来慣れた人間でも遭難する危険性があるだろう最悪な状況にハイドは精霊を見た。
精霊は焦ったように俺を何処かに連れて行こうとしている。

ポツポツと雨が降り始めてしまい、地面が柔らかくなり一瞬気が緩んだだけで危ない感じがした。
愛馬と一緒に歩き出した。
とりあえず精霊に誘導されるまま何処かに向かって歩いていた。
すると耳元近くで大きな音が響いていて、驚いたが頭で考える余裕はなかった。

すぐ側で聞こえたと思った時には足が先に動き走り出していた。
…なにか嫌な予感がする、当たらなければいいが…

音のした場所に行くと一人の青年が倒れていた。
上を見上げると崖がある、この場所から落ちたのかもしれない。
そして改めて青年を助け起こそうと仰向けにすると、見えなかった素顔が見えて目を見開いた。

「…瞬!?」

よく見たら違うと分かるのに、一瞬面影が瞬と被り動揺する。
今までいろんな人と会ったがこんな事始めてで、とうとう自分は頭が可笑しくなったかと苦笑いする。
崖から落ちたのに傷はなく、精霊が青年の周りを回っているから精霊が治したのだろうと思い青年を横抱きする。

このままほっといたら風邪を引くと思うし、瞬に似ている彼をほっとく事は出来なかった。
精霊は霧は慣れているのかハイドを導き雨宿りが出来る洞窟に導いた。
精霊が持ってきた毛布を受け取り自分の身体は拭かず地面に敷き青年を寝かす。

精霊の力により洞窟の中にあった木の枝で焚き火が出来て一先ず凍える心配はなくなり安堵する。
青年の服はかなり水分を吸収しているから脱がして、ローブのおかげで濡れてない自分の上着を掛ける。
雨は本降りになり、しばらく帰れそうにないなと思いながら壁に寄りかかり座り瞳を閉じる。

俺は他人の目の前で寝ない、無防備な姿を晒したくはないからだ…勿論家族の前でもリチャードの前でも…
唯一安らかに眠れたのが瞬の前でだけだった。
…瞬にだったらどんな自分も見せたいと感じていた。

何故だろう、この青年は瞬ではないのに安心する。
彼は、何者なのだろうか…起きたら聞いてみよう。
そう思っていたらいつの間にか眠りに落ちていた。






『ハイドさん…』

瞬にそう呼ばれたような気がして手を伸ばすが、掴めない。
頭を撫でられてとても心地良かったが、同時に切なくなる。

ふと意識が覚醒して、久々に熟睡したからかまだ眠たい目蓋を開ける。
目の前が暗い、洞窟の中だとすぐに思い出した。
唯一焚き火だけが明るく照らし、周りを照らす。

そこにはいる筈の人物はいなくてハイドだけだった。

ハイドに掛けられた上着を見て瞬がいた気がしたが夢を見ていたのかと落ち込むが上着を抱き静かに涙した。

彼に掛けた上着から、何故か瞬のニオイがした。
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