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第1章
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しおりを挟むそこにあったのは、青色のガラスのようなものに囲まれ、札が何万枚と貼られた場所にあった。ところどころに人が居て、手をそこにかざしながら、何かを記録する姿が見える。
すぐそばにある、岩に埋まったような状態でそれは基地として設けられて居た。
「セト中佐でありますか?」
呆然と、その景色を見て居たアキラに、近くにいた兵士が言葉をかけた。
「あ、はい、そうです」
中佐、という言葉に未だ慣れず、アキラは挙動不審になりながらも、こちらですと案内をする兵士について行った。
王国封印監察部の幹部に就任したアキラは、政府からの詫びなのか名誉なのか、昇格を貰い受けた。アキラにとって、それは最も喜ばしいことだろうが、今となってはそれはただの痛手にしか過ぎない。
少ない荷物と上着を片手に、エレベーターから幹部室へと案内された。
そこはとても静かで、とても王国が近くにあるとは思えない。
荷物を兵士に渡し、「幹部長」と書かれた扉の前に立った。
王国封印監察部幹部長というからにはさぞかし威圧のあるガタイのいい男なのだろうなと、呑気なことを考えてアキラは扉を軽くノックし、名乗った。
「瀬戸アキラ中佐であります」
「入れ」
短い言葉だったが、かなりの威圧を感じ取れた。
第三者によって開かれた扉を抜け、部屋に一歩踏み入れた。そして、相手の顔をよく見ずに深々と礼をする。
「顔を上げてくれ」
そう言われて三秒。折っていた腰を伸ばし、後ろで手を組む。その姿になってから、アキラは真っ直ぐに幹部長を見つめた。
「ようこそ王国封印監察部へ。死に近い仕事だが、お互い頑張ろうではないか。我々は君を歓迎しよう」
そして、固まる。
そこに居たのは、重い威圧を持つガタイのいい男ではなかった。幹部長は、十代前半と見られる可愛らしい男の子だったのだ。
「ありがとうございます」
戸惑った。こんな子供に敬礼をし、忠誠を誓っていいものかと。しかし、この腐った世の中だ。こんなことをしても、政府は気にも留めないのだろう。力があれば、知識があれば、それでいいという頭なのだ。子供でも、容赦無く兵器とする。彼はそれを理解してここにいるだろう。
————腐ってる。
思ったのは、そんな嫌悪だった。しかし、この男がこれを知ってこその歓迎ならば……忠誠を誓ってみようか。
そんな思考の中で、アキラはまた腰を折ってお礼を言った。
彼は、「アルジャーノ・クリスティル」と名乗った。
「君は本部でも話題となるほどの発明家だといい評判を聞く。幹部といっても、主に王国の封印強度の場合に合わせた対策を考えるだけでな、いい腕を持ち合わせる中佐ならば、是非ともその強度にまつわる調査機を発明……手直しという職に就いてもらいたいのだが、いいか?」
手元にある書類を見ながら、アルジャーノは言う。その書類は、アキラの役職や、霊力共に錬金術の融合体である妖術の大きさ等を詳細に載せたものであった。
「有難きお言葉、感謝致します。承知致しました。心して、業務に専念しようと思います」
再び深々と頭を下げたアキラは、「うむ、下がっていいぞ」というアルジャーノの仕草から、部屋を出た。そして、渡した荷物を手渡しされ、案内された部屋に入る。
そこは、机とベッド、そして畳を置ける約十畳ほどの部屋だった。窓辺は大きな窓の他、花瓶が飾られている。花瓶もそれ程美しい訳でもなく、置けるスペースがあるから置いている、という感じだった。
机に荷物を置き、意味もなく窓を覗く。
「うぉっ……」
見えたのは、窓一面に広がる神の王国。青く染まったそこは、もう太陽が沈もうとしているのにも関わらず光り続けている。
この青い光は凍結を当時のまま残すことが出来る物質で出来ているという。それを妖術で強固し、割れないように毎日見回る。
その指揮をするのが、明日からアキラが補佐をする相手である。
不安だ。
アキラの視線の先には、キビキビと仕事をこなしていく兵士が居て、誰しも無情で働いているように見える。殆どの兵士は帽子をかぶり、表情が伺えないが、先程案内をしてくれた兵士は目が死んでいるように感じた。やはり、こんな死と隣り合わせの職は、そんな感情を失ったようになっているのだろうか。もしそうだとしたら、そこまで兵士を育てた長官やらは尋常ではないほどの精神の持ち主なのだろう。……これから、同僚になろう人も、自分の部下も。
深い溜息を吐いて、案内された部屋にあるベッドに寝転んだ。
————やっていけるのか、こんな地獄で……。
果たして、自分がまた再び涼太の隣で笑顔でいれるのか、疑問しかなかった。
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