神の王国

柳田ぺーすけ

文字の大きさ
上 下
2 / 4
第1章

しおりを挟む


 銃声が辺りに響く。それに伴って、爆発が各地で起きた。

「問題ないな、お疲れさん」

 砲弾を遮ったその壁の記録を記載した上官が、ひとりの兵士に満足そうに告げる。
 上官の視線にあった兵士が、嬉しそうに笑顔で大声に「ありがとうございます」と言い放った。
 それにまた、上官は満足したのか目を和らげた。

「おう。また頼んだぞ」

「はい! お任せください。失礼致します!」

 礼をし、姿勢を正したまま、彼はその場を離れる。その様子を見ていた他の兵士達は、ひそひそとその兵士の噂話を語り始めていた。

 彼の仕事は、妖術で新たな兵器を発明することだ。生まれ持った想像力と、それを実行する実力、そして信頼性に問われる職業である。その為か、枕営業だ、天才だから、生まれがいい等言う他人に対し、もう彼は戯言にしか聞こえなくなっていた。それもそのはずだ。元々は気の弱い男だったが、上官に認めてもらう度に自信をつけ、今では少佐までのし上がった努力家なのだ。

 努力すれば報われるのに。

 そんな思考の持ち主からか、噂話をする彼らに彼は悲しさを覚える程だった。

「アキラ」

 更なる国家のための兵器の発明に取り組もうと、過去の記録書に目を通していれば、久々に聞く声が自分の名前を呼んだ。はっとしてその声の場所へ顔を向ける。

「———……涼太」

「よっ」

 片手を上げ、そう言った涼太は、にこりと微笑みながら「まだ時間大丈夫か」とアキラに問う。それに、あきらが頷けば、彼はまた笑顔し、「あっち行こうぜ」と後ろを親指で指した。

「おう」

 書類を閉じた。そして、片手で持った後に、涼太の背中を見つめた。


 涼太は前戦で戦う事を命じられた、いわば人間兵器だ。涼太たちのいる人間兵器の部隊は「4087分隊」という。改造された体は、見た目は本当の人間のようだが、触れば一目瞭然。硬い肉体に、首から浮き出る機械。それを見るたびに、あきらは胸が苦しくなった。

 元々、涼太は孤児だった。霊力も常人と比べて少なく、うまく錬金術の融合体になれなかった彼は、あわよくばと政府の口車に乗せられ、器械の兵器と化した。彼自身もそれを望み、「元々必要のない人間だった」と逆に笑っている程。
 それを思い出す度に、アキラは何故止めれなかったのか、必要な人間だと言えなかったのかと罪の意識を高めている。

「仕事はうまくいってるか?」

「え、あ、うん」

 その問いに、どう答えればいいか、アキラは一瞬迷ってしまった。それに気づかれただろうかと不安になったが、ヘラヘラと笑う様子からして、そこまで気にしてはいないようだった。
 それにほっと肩を撫で下ろし、会話を続けるための問いを涼太に尋ねた。

「涼太は?」

 実験体だとも言える涼太の職種でも、自分の兵器は使っているのだろうか。その疑問は、前々からアキラの中に存在していた。しかし、涼太には兵器を発明する仕事をしていることを隠していた為、そう容易には聞けなかった。

「俺のとこは、最近は新型兵器使って実戦ばっかしてるな」

 そう言って、涼太はヘラリと笑う。

 “実戦”という言葉に、アキラの心臓は心拍数を上げた。ヘラヘラと笑いながら「結構使いやすい」と言う彼に、アキラはますます不安を覚える。

 アキラが創造する新型兵器は、当たれば一瞬で人を殺傷するだけでなく、生気を奪う。それなりに扱うにも集中しなければならないし、爆発力もある。一歩使い方を誤れば数百人を死に陥りさせる代物なのだ。
 実際にアキラは涼太の実戦姿を見たわけではなかったが、それを聞いた途端の不安はなかなか消えるものではなかった。

「実戦て……」

 そう言葉にしたアキラに涼太は「嗚呼」と言葉をもらす。

「実弾とかは使わねえよ。妖術の兵器は結構キツイけど、壊れたら壊れたでも一日で元どおりだからな。それに、痛みもねえから心配すんな」

 故障。その言語の意味はひとつだ。涼太のような機械の生身になった者は内臓やなにならは人間そのものの機能をしているが、脳以外のそれらは機械となんら変わらない。腕がもげたとしてもすぐに直せるし、その為、彼らは人間ならば死んでいるその「死」そのものを自身で「故障」と称している。それを知っているアキラは、それはつまり、彼は何度も死んだという事ではないだろうかと考えた。アキラは、またドン底に突き落とされたような不安感に襲われた。

 アキラの親友は涼太だけだった。友人も最初は涼太だ。元気で活発なムードメーカーだった彼と仲良くなるのにはそう時間はかからなかった。幼稚園から一緒だったことから、「幼馴染み」という関係も続いている。そんな彼が今、殺人兵器となり、自分の発明した新型兵器で実戦を重ねていると聞けば、不安になるのも当然のことだと言える。

 大丈夫なのか。

 そんな粋な言葉はアキラには使えず、「そうか、頑張れよ」と笑うことが精一杯だった。

 その後、少しばかりの懐かし話をしていると、部下が「少佐!」と呼ぶ声が聞こえた。

「デルグレム大佐がお呼びです」

「分かった」

 失礼します、そう告げた部下は足早にこの場を去った。

「じゃあ、またな」

 立ち上がり、伸びをする。アキラが発したその言葉を聞いた涼太は若干の不満の顔をしたが、「嗚呼、またな」と続けた。

「また会えたら、な」

 その場に背を向けて去って行くアキラに、涼太は悲しそうな顔をして呟いていた。



 大佐からの呼び出しは珍しかった。しかも、あまり人と関わりを持たないデルグレムからと言われれば、更にアキラは疑問を浮かび上げる。
 兵器の調子が悪かったか、発明に何か問題があったのか、そんなことばかり頭に浮かんでは消えていく。こんなことを想像していても仕方がないということは分かっているものの、想像せずにはいられなかった。
 ついた扉に、軽くノックする。そうすれば、久々に聞く上官の声が鳴り響いた。

「瀬戸アキラ少佐であります!」

「入れ」

「失礼致します!」

 深い礼をし、机に肘を付けてこちらを睨むように見つめるデルグレム大佐に肩を鳴らした。

「瀬戸少佐」

「はい!」

「ここに呼び出した要件を、心して聞いて頂きたい」

「承知致しました」

 そう頷いた彼に、デルグレム大佐は、目を伏せて言葉を続ける。

「少佐はかなり成績が良い。信頼性にも長け、我々の中でも有名だ」

「ありがとうございます」

「だから、これを少佐が受け入れてくれることを願う」

 そう言ったデルグレム大佐は、一息つき、そしてアキラに言い放った。

「王国封印監察部幹部へ、異動になった」

 切って貼ったような配属先に、アキラは唖然と立ち尽くした。

 王国封印監察部幹部というのは、その名の通り、罪の王国で名を知られる「神の王国」の監察部のことである。監察部というのは、年中王国を監視し、どんなに小さく細かい事でも報告し最善を尽くす職種だ。言えば前戦よりもいいと思う印象だが、裏を返せば王国に何かあった場合、一番最初に死ぬ職、ということになる。つまり、死と隣り合わせの仕事なのだ。

 勿論、そのことは配属になる前の授業等で散々と習ったところ。最も人力不足である監察部に希望するものは数少なく、その多くは自殺希望のものばかりなイカれたところだ。
 希望制なその仕事先に配属となったアキラは、その結果に満足出来ずに、弱に不満を募らせた。

「なぜ、私なのですか……?」

 その質問は、最もなことだった。

 監察部と発明部は接点など全くと言っていいほどなく、無関係な位置にあるものだ。
 デルグレム大佐は、その言葉に目を伏せた。そして、震えた声でこう言った。

「決定事項だ」

「ですが、私は……!」

「決定事項なのだ!」

 額に汗が滲んでいた。目元を隠す様子から、何か緊急があったのだと伺えた。


 威厳に蹴落とされ、アキラはただ「承知」という快諾の言葉と礼しか出ずにいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

もう、いいのです。

千 遊雲
恋愛
婚約者の王子殿下に、好かれていないと分かっていました。 けれど、嫌われていても構わない。そう思い、放置していた私が悪かったのでしょうか?

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【1/23取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

処理中です...