上 下
69 / 450
ケーキ作りとペンダント

69

しおりを挟む
「こっちの階段から上に上がれるぞ。二階は物置に使っていたんじゃ」

「二階も見て良いですか?」

「もちろんじゃよ」

 厨房を出ると狭い廊下の奥に階段があり、そこから二階に上がれば広いスペースがあった。そして天井にハシゴがかかっている。

「あのハシゴは?」

「あれは屋根裏部屋じゃよ」

「屋根裏部屋……」

「さすがに屋根裏部屋は、ほとんど利用しておらんかったが」

 屋根裏部屋も見学したいと思ったが、さすがにスカートでハシゴを上るのは止めておいた。

「なるほど……。良い物件ですね」

「おお、そうか! では!?」

「こちらをお借りするとしたら賃貸料は、おいくらになるんでしょうか?」

「……お嬢ちゃんはやっぱり、賃貸が希望か?」

「ええ。賃貸じゃないんですか?」

「できれば、買い取ってほしいんじゃ」

「店舗を買い取りですか?」

 人通りが多い場所の店舗を買い取りとなれば、金額が一気に跳ね上がる。賃貸のつもりで見学していたので突然の申し出に戸惑う。そんな私の表情を見てラッセル老は白いまゆを下げて、やや肩を落とした。

「ワシも、この通りの年齢じゃろう? 子供達への遺産を公平に、生前贈与したいと考えておるんじゃ」

「はぁ……」

「賃貸物件を残して後々、もめるより売却してキッチリ財産分与したいんじゃよ」

「そうなんですか……。でも買い取りとなると、お高いんでしょう?」

「もし、一括で買い取りしてくれるなら相場より、ぐっと安くしておくぞい?」

「お値段はいかほどでしょう?」

 私が尋ねれば、ラッセル老は満面の笑みを見せた。




 双子が待つ邸宅に帰り、居室のソファに腰かけながら用意されたティーカップの取っ手をつまみ、お茶を飲みながら考える。

 あれから、何件か不動産屋を回ったが、店舗物件としては噴水広場前の空き店舗が最も条件が良く、オーナーであるラッセル老が「一括で買い取ってくれるなら、相場より安くしておく」という言葉は事実で、確かに老人が提示した金額は相場より安かった。


「長期的な視点で見れば、月々の賃貸料を払うより店舗を買い取った方が、お得なのは間違いないのよね……」

「その店舗を買い取るわけには行かないんですか?」

「せめて、もう少し資金に余裕があれば、店舗を買い取る余裕があるんだけど……」

 お茶を出してくれたルルの質問に答えながら私は肩を落とす。この屋敷が思ったより高値で売れそうに無いことや、あの店舗で商売を始めた後、運営資金に余裕を持たせたいこと。万が一、商売が軌道に乗らず頓挫した時のことを考えれば、一括で店舗買い取りに踏み切る勇気は持てなかった。
しおりを挟む
感想 445

あなたにおすすめの小説

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす

こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!

前世の記憶さん。こんにちは。

満月
ファンタジー
断罪中に前世の記憶を思い出し主人公が、ハチャメチャな魔法とスキルを活かして、人生を全力で楽しむ話。 周りはそんな主人公をあたたかく見守り、時には被害を被り···それでも皆主人公が大好きです。 主に前半は冒険をしたり、料理を作ったりと楽しく過ごしています。時折シリアスになりますが、基本的に笑える内容になっています。 恋愛は当分先に入れる予定です。 主人公は今までの時間を取り戻すかのように人生を楽しみます!もちろんこの話はハッピーエンドです! 小説になろう様にも掲載しています。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

善人ぶった姉に奪われ続けてきましたが、逃げた先で溺愛されて私のスキルで領地は豊作です

しろこねこ
ファンタジー
「あなたのためを思って」という一見優しい伯爵家の姉ジュリナに虐げられている妹セリナ。醜いセリナの言うことを家族は誰も聞いてくれない。そんな中、唯一差別しない家庭教師に貴族子女にははしたないとされる魔法を教わるが、親切ぶってセリナを孤立させる姉。植物魔法に目覚めたセリナはペット?のヴィリオをともに家を出て南の辺境を目指す。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

処理中です...