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パティスリーにて

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「柑橘類の皮をむいたとき、独特の香りを感じるでしょう?」

「そういえば、マンダリンの皮をむいている間は香りを感じますね」

「オレンジやレモンを皮ごと包丁でカットした時もそうですね」

「うん。そういう柑橘類全般の香り成分が『リモネン』なんだけど……。実は『リモネン』って確か、猫にとっては良くない成分だったのよね……」

「えっ!」

「そうなんですか!?」

 猫耳の双子にとっては初耳の情報だったらしく、二人は耳をピンと立てて目を丸くしている。

「ルルとララは獣人だから、純粋な猫よりは大丈夫だと思うんだけど……」

 私も、今まではあんまり気にしてなかったし『リモネン』について思い出したのが今朝、夢を見たときだったので改めて考えるとちょっと怖くなる。

「二人は前にオレンジピールやレモンピールが入ったスコーンを食べた時とか、体調が悪くなったりしなかった?」

「特に具合が悪くなったりはしませんでした」

「大丈夫です」

「そう。良かった」

 私は安堵してホッと胸をなで下ろした。

「その『リモネン』で猫は体調が悪くなるんですか?」

「うん。猫の場合はアロマオイルや香料、芳香剤みたいに香り成分が凝縮されている物で『リモネン』を過剰摂取してしまうと中毒症状が出る場合があるのよ」

「中毒症状!?」

「具体的に言うと身体が震えたり、肌が荒れたり、胃の内容物を吐くケースがあるのよね」

「ええっ! なんでそんなことに?」

 唖然とした表情を浮かべる双子に尋ねられ、私は脳内でおぼろげな前世の記憶の糸をたぐり寄せながら思い出す。

「人間と違って猫は『リモネン』の成分を身体の中で分解できない関係でそうなるらしいわ。猫って、もともと肉を主食にして生きてきたから、身体の構造的に柑橘類の皮を栄養として摂取できないからでしょうね。中身の果肉は食べても問題ないんだけど……。ルルとララは柑橘類の香りとかで気分が悪くなったり、そういう異常が出たことある?」

「いえ、特には……」

「私も香りで、そこまで酷い症状が出たことはないです……」

「ふむ。じゃあ、食べ物に関しては人間寄りで大丈夫なのかしら? でも、ルルとララに万が一の事態があったらいけないから、マンダリンの皮を材料にした薬ができても二人は口にしないでね?」

「分かりました」

「了解です!」

 この世界で柑橘類の皮が猫獣人に害を与えるというなら、もっと広く周知されてそうなものだし、ルルとララは純粋な猫ではなく人間寄りの姿をした猫獣人なのだから、あまり心配しすぎる必要はないのかも知れないけれど、人間にとっては身体に良い物でも、犬猫や鳥などにとっては毒になる物というのは意外と多い。

 人間が何気なく使用したスプレーやアロマの加湿器でペットの犬猫や鳥が体調を崩したり最悪、死にいたる事故というのも起こっていた。

 オレンジやレモン、ライムの皮。そしてシトラスなど柑橘類系の香水や香料で猫獣人のルルとララが中毒症状を起こしてしまったら大変だ。

 もともと職業柄、身体にニオイのきつい香水をつけたりということはしていなかったけど、今後は柑橘類系の香水や香料、芳香剤の類は絶対に使わないようにしようと心に誓った。
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