175 / 450
セリナと銀狼
175
しおりを挟む
とにかく、この寒空の下で野外は良くないだろう。店の中に入ってもらうにしても、目が見えない、耳が聞こえないなら仕方ない。誘導すべく、彼の手に触れると氷のように冷たかった。
「早く、身体を温めないと……! ちょっと腕を私の肩に回してくださいね」
青年の片腕を、自分の肩に回して強引に、引きずるように店の中に入れた。目のうつろな青年は私の行動に困惑している。
「店頭で死なれたら困るというわけか?」
「いいえ! あなたを死なせません!」
耳は聞こえないと言っていたが、思わず答えた。ひとまず、店内の壁際に寄りかかるように座ってもらう。それと同時に、ひそかに火魔法で調理場の窯に火を入れ、火力を高めながら室内の温度を上げる。
彼のくちびるは乾燥してヒビ割れているし、肌もカサカサという状態。衰弱している人間を回復魔法で何とかできないか考えたが回復魔法は基本的に、細胞の一つ一つを活性化させてケガを治癒させる物だ。
見るからに水分が不足して、脱水症状を起こしているであろう雰囲気の人間に治癒魔法をかけるのは危険だと判断し、まずは水分を取らせるべきだろうと調理場に行く。
「水……。いや、あんなに身体が冷えて弱ってるんだから、冷たい物や生水は良くないわよね」
一刻も早く、あの行き倒れ状態の人に水分を与えないといけない。そう思った私は氷魔法で大きめの氷塊を作って銅製ナベに入れ、それを火魔法で一気に熱する。高温の炎で熱された氷塊はすぐに溶けて水になり、あっという間に熱湯となって沸騰した。
「このままだと熱すぎるわね」
大きめの銅製ボウルに氷魔法で複数の氷を作り、そこに鍋ごと入れて熱湯の温度を下げる。風魔法も併用して沸騰したお湯をほどよい温度にする。できあがった白湯を手早く陶器のカップにそそぐ。
そして、壁にもたれながら床に座り込んでいる青年の元にかけより、念のためヤケドをしないようにカップの表面に息を吹きかけ冷ました後、白湯を彼の口元でカップをかたむけた。
「飲んでください!」
私の意を察したようで、彼は瞳をうっすらと開けながら少しずつ白湯を飲んでくれた。すると白湯を飲んでいる内に、生気が失われていた瞳はじょじょに鋭気の光が宿っていく。
不思議なことについ先ほどまで、おぼろげだった視線は瞳の中にあった、白いモヤが消え去ると同時に美しい色の虹彩が輝き、私をしっかりと見すえた。
「これは一体……」
「大丈夫ですか? 無理をしないで、ゆっくり飲んで下さい」
私がそう呼びかければ銀髪犬耳の青年は、これ以上ない程に碧眼を見開く。
「聞こえる!」
「え? 耳が聞こえるようになったんですか?」
「早く、身体を温めないと……! ちょっと腕を私の肩に回してくださいね」
青年の片腕を、自分の肩に回して強引に、引きずるように店の中に入れた。目のうつろな青年は私の行動に困惑している。
「店頭で死なれたら困るというわけか?」
「いいえ! あなたを死なせません!」
耳は聞こえないと言っていたが、思わず答えた。ひとまず、店内の壁際に寄りかかるように座ってもらう。それと同時に、ひそかに火魔法で調理場の窯に火を入れ、火力を高めながら室内の温度を上げる。
彼のくちびるは乾燥してヒビ割れているし、肌もカサカサという状態。衰弱している人間を回復魔法で何とかできないか考えたが回復魔法は基本的に、細胞の一つ一つを活性化させてケガを治癒させる物だ。
見るからに水分が不足して、脱水症状を起こしているであろう雰囲気の人間に治癒魔法をかけるのは危険だと判断し、まずは水分を取らせるべきだろうと調理場に行く。
「水……。いや、あんなに身体が冷えて弱ってるんだから、冷たい物や生水は良くないわよね」
一刻も早く、あの行き倒れ状態の人に水分を与えないといけない。そう思った私は氷魔法で大きめの氷塊を作って銅製ナベに入れ、それを火魔法で一気に熱する。高温の炎で熱された氷塊はすぐに溶けて水になり、あっという間に熱湯となって沸騰した。
「このままだと熱すぎるわね」
大きめの銅製ボウルに氷魔法で複数の氷を作り、そこに鍋ごと入れて熱湯の温度を下げる。風魔法も併用して沸騰したお湯をほどよい温度にする。できあがった白湯を手早く陶器のカップにそそぐ。
そして、壁にもたれながら床に座り込んでいる青年の元にかけより、念のためヤケドをしないようにカップの表面に息を吹きかけ冷ました後、白湯を彼の口元でカップをかたむけた。
「飲んでください!」
私の意を察したようで、彼は瞳をうっすらと開けながら少しずつ白湯を飲んでくれた。すると白湯を飲んでいる内に、生気が失われていた瞳はじょじょに鋭気の光が宿っていく。
不思議なことについ先ほどまで、おぼろげだった視線は瞳の中にあった、白いモヤが消え去ると同時に美しい色の虹彩が輝き、私をしっかりと見すえた。
「これは一体……」
「大丈夫ですか? 無理をしないで、ゆっくり飲んで下さい」
私がそう呼びかければ銀髪犬耳の青年は、これ以上ない程に碧眼を見開く。
「聞こえる!」
「え? 耳が聞こえるようになったんですか?」
1
お気に入りに追加
4,832
あなたにおすすめの小説
女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました
初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。
ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。
冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。
のんびり書いていきたいと思います。
よければ感想等お願いします。
せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした
鈴木竜一
ファンタジー
健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。
しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。
魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ!
【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】
※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~
ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」
聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。
その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。
ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。
王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。
「では、そう仰るならそう致しましょう」
だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。
言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、
森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。
これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる