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銀狼ヴォルフ
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小屋の中にあったヒビの入ったランプに火をつけ、灯りを頼りに急な石階段を降りながら考える。
「この階段の荒い削り出しを見るに、恐らく盗掘者が掘った物のはず。しかも、この町は盗掘者が掘った通路などを住居と一体化して活用する風潮がある」
にも関わらず、この階段は現在まったく活用されている様子が無い。そして、小屋の真下は大規模な王墓。しかし、これだけ急な階段と言うことは、その大規模な王墓と交錯する形で、違う小さな王墓があるのでは?
そう思いながら、黄色がかった砂岩を荒く削り出して、人間一人がやっと通れる通路を歩いていると、突如、乳白色のなめらかな壁面が現れ、さらにランプの光で通路を照らせば、その乳白色の壁面には鮮やかな色彩の壁画が通路一面に描かれていた。
よくよく、見れば多数の人物画の背景には古代の神聖文字や美しいレリーフも掘られている。視線を上に向ければ驚いたことに天井にまで美しい色彩の植物文様が一面に描かれている。
壁画が積年のホコリで、くすんで見えるのでそっと撫でれば、人物絵の肌に塗られた赤銅色の彩色。孔雀石やアズライトなどの貴石を砕いて作ったのであろう、目の覚めるような青色顔料による色彩が浮かび上がった。
「これは……。色鮮やかで美しい」
今朝見た発掘済みの王墓は程度の差はあるが、どれも色あせていたし、壁画にヒビが入っていたり、酷い物になると壁面が剥がれ落ちている物もあった。だが、ここにある壁画は長年、外の空気に触れていなかった為だろう。とても状態が良い。
「壁画の状態が今朝見た、どの王墓よりも良いな」
通路に描かれている壁画を眺めながら期待を込めて、さらに奥へと進めば、行き止まりとなっており部屋らしき場所にたどり着いた。室内は古代の神話について描かれているようで、遺体埋葬の様子や死後の世界、冥府の神が描かれていた。
「行き止まりか? いや……」
壁面や部屋の隅を調べるとやはり隙間から、わずかに空気が流れているのが感じられる。つまり、この先にまだ空間があるということだ。
わずかな隙間に剣の切っ先を突き入れ、てこの原理の要領で力を加えてみると驚いたことに、ただの壁だと思っていた石壁が僅かに横へ動いた。
「横滑りする扉なのか!?」
そうと分かれば話は早い。壁に偽装していた重い石扉を横滑りさせて開けると、中には鮮やかな古代の壁画が描かれた部屋があり、中央にまばゆい黄金のひつぎ。部屋の四隅には古代の神と思われる純金製の守護像。
エメラルドやアメジストなどの宝石で彩られた宝箱、黄金のイスやテーブルなど豪華な家具。雪花石膏の美しい花瓶など、副葬品であろう宝物が山のように積まれていた。
「すごいな……」
思わず息をのみながら、ランプをかざして部屋の中を見ていると、どうやらこの王墓は副葬品が完全な状態なのではなく、一部の宝物はすでに盗掘された状態であることに気付いた。
一度はここに辿り着いた盗掘者が途中で病死か、事故死。もしくは仲間割れして、死んでしまったため、全ての宝物を売り払われること無く、この場所は長い間、忘れ去られてしまったのだろう。
「第一発見者が全ての宝物を売りさばく前に死んだから、ほぼ現状が保たれたままだったんだろうな……」
一体何があったのか最早、知る術は無いが宿屋が満室だったおかげで、古びた小屋に泊まることになり、独特のニオイと冷たい空気が地下の隙間から流れていることに気付けた。
独特の匂いは部屋の中央。つまり黄金の棺から感じる。中には王のミイラが横たわっているのだろうが、そのミイラには古代のスパイスや香油などが惜しげもなく大量に使われている。狼の獣人と人間のハーフである俺は嗅覚が鋭い。僅かに空気に乗って漂ってきた『ミイラの香り』を無意識に嗅ぎ取っていたのだ。
「それにしても、ここは空気が悪くて何だか息苦しいな。一度、地上に出るか」
横滑りの扉を再び封印して、来た通路を戻りながら考える。新たな王墓と財宝の発見を公言すれば、この町の住人はあの王墓に殺到するだろう。そうなると、副葬品の財宝を盗まれる可能性がある。
なにぶん、墓の盗掘がルーツで出来た町だ。モラルを期待するのは厳しいだろうし、王墓の一部を物置、住居、家畜部屋にして古代の壁画を劣化させても平気な者達が知って、あの美しい保存状態の壁画をどうするのか。少なくとも、現状保存を選ぶ可能性は低い気がする。
最悪、壁画をはぎ取られ、土産用に売り飛ばされる可能性だってあるだろう。何千年もの間、良好な保存状態で現在まで残った壁画がそのようなことになるのは、あまりにも忍びない。
そうなると、あの王墓は極力、秘密にした方が良いのでは無かろうか。少なくとも、信用できる権力者があれらの現状保存に協力すると確約してくれるまでは、この発見を伏せた方が良いだろう。
砂岩の階段を上り、地上に出ると新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込み、古い木扉を閉じてその上にしっかりと砂をかぶせた。
「この階段の荒い削り出しを見るに、恐らく盗掘者が掘った物のはず。しかも、この町は盗掘者が掘った通路などを住居と一体化して活用する風潮がある」
にも関わらず、この階段は現在まったく活用されている様子が無い。そして、小屋の真下は大規模な王墓。しかし、これだけ急な階段と言うことは、その大規模な王墓と交錯する形で、違う小さな王墓があるのでは?
そう思いながら、黄色がかった砂岩を荒く削り出して、人間一人がやっと通れる通路を歩いていると、突如、乳白色のなめらかな壁面が現れ、さらにランプの光で通路を照らせば、その乳白色の壁面には鮮やかな色彩の壁画が通路一面に描かれていた。
よくよく、見れば多数の人物画の背景には古代の神聖文字や美しいレリーフも掘られている。視線を上に向ければ驚いたことに天井にまで美しい色彩の植物文様が一面に描かれている。
壁画が積年のホコリで、くすんで見えるのでそっと撫でれば、人物絵の肌に塗られた赤銅色の彩色。孔雀石やアズライトなどの貴石を砕いて作ったのであろう、目の覚めるような青色顔料による色彩が浮かび上がった。
「これは……。色鮮やかで美しい」
今朝見た発掘済みの王墓は程度の差はあるが、どれも色あせていたし、壁画にヒビが入っていたり、酷い物になると壁面が剥がれ落ちている物もあった。だが、ここにある壁画は長年、外の空気に触れていなかった為だろう。とても状態が良い。
「壁画の状態が今朝見た、どの王墓よりも良いな」
通路に描かれている壁画を眺めながら期待を込めて、さらに奥へと進めば、行き止まりとなっており部屋らしき場所にたどり着いた。室内は古代の神話について描かれているようで、遺体埋葬の様子や死後の世界、冥府の神が描かれていた。
「行き止まりか? いや……」
壁面や部屋の隅を調べるとやはり隙間から、わずかに空気が流れているのが感じられる。つまり、この先にまだ空間があるということだ。
わずかな隙間に剣の切っ先を突き入れ、てこの原理の要領で力を加えてみると驚いたことに、ただの壁だと思っていた石壁が僅かに横へ動いた。
「横滑りする扉なのか!?」
そうと分かれば話は早い。壁に偽装していた重い石扉を横滑りさせて開けると、中には鮮やかな古代の壁画が描かれた部屋があり、中央にまばゆい黄金のひつぎ。部屋の四隅には古代の神と思われる純金製の守護像。
エメラルドやアメジストなどの宝石で彩られた宝箱、黄金のイスやテーブルなど豪華な家具。雪花石膏の美しい花瓶など、副葬品であろう宝物が山のように積まれていた。
「すごいな……」
思わず息をのみながら、ランプをかざして部屋の中を見ていると、どうやらこの王墓は副葬品が完全な状態なのではなく、一部の宝物はすでに盗掘された状態であることに気付いた。
一度はここに辿り着いた盗掘者が途中で病死か、事故死。もしくは仲間割れして、死んでしまったため、全ての宝物を売り払われること無く、この場所は長い間、忘れ去られてしまったのだろう。
「第一発見者が全ての宝物を売りさばく前に死んだから、ほぼ現状が保たれたままだったんだろうな……」
一体何があったのか最早、知る術は無いが宿屋が満室だったおかげで、古びた小屋に泊まることになり、独特のニオイと冷たい空気が地下の隙間から流れていることに気付けた。
独特の匂いは部屋の中央。つまり黄金の棺から感じる。中には王のミイラが横たわっているのだろうが、そのミイラには古代のスパイスや香油などが惜しげもなく大量に使われている。狼の獣人と人間のハーフである俺は嗅覚が鋭い。僅かに空気に乗って漂ってきた『ミイラの香り』を無意識に嗅ぎ取っていたのだ。
「それにしても、ここは空気が悪くて何だか息苦しいな。一度、地上に出るか」
横滑りの扉を再び封印して、来た通路を戻りながら考える。新たな王墓と財宝の発見を公言すれば、この町の住人はあの王墓に殺到するだろう。そうなると、副葬品の財宝を盗まれる可能性がある。
なにぶん、墓の盗掘がルーツで出来た町だ。モラルを期待するのは厳しいだろうし、王墓の一部を物置、住居、家畜部屋にして古代の壁画を劣化させても平気な者達が知って、あの美しい保存状態の壁画をどうするのか。少なくとも、現状保存を選ぶ可能性は低い気がする。
最悪、壁画をはぎ取られ、土産用に売り飛ばされる可能性だってあるだろう。何千年もの間、良好な保存状態で現在まで残った壁画がそのようなことになるのは、あまりにも忍びない。
そうなると、あの王墓は極力、秘密にした方が良いのでは無かろうか。少なくとも、信用できる権力者があれらの現状保存に協力すると確約してくれるまでは、この発見を伏せた方が良いだろう。
砂岩の階段を上り、地上に出ると新鮮な空気を肺いっぱいに吸い込み、古い木扉を閉じてその上にしっかりと砂をかぶせた。
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