138 / 450
赤い色のケーキ
138
しおりを挟む
「でもなぁ。自分が正体を知った時に噴いた物を、自分の店舗の商品に入れて、何も知らないお客さんに食べさせるっていうのはなぁ」
私の店にケーキを買いに来てくれるお客さんたちは、私の作った物を信用してお金を出して、食べてくれてるわけで、簡単に美味しそうな赤色のジャムが作れるからといって、その信用を密かに裏切るようなマネはできないなぁとため息をつく。
赤色の着色料なんて無味無臭なんだから、黙っていれば分からないことではあるのだが、やはりどうにも良心がとがめて着色料の使用には、ちゅうちょしてしまう。
そうこう思案ている間に市場に到着した。声を出して客の呼び込みをする露店の販売人や、できたての串焼肉を販売する店、野菜を販売する店の前を通り過ぎて、果物屋にたどりつく。
「おっ! いらっしゃい! 今日は何にするんだい!」
「そうねぇ」
果物屋の店主に顔を覚えられたらしいと思いながら、今日も色とりどりの果物に、どれを買うべきかと熟考する。定番の赤いリンゴに黄色や緑色のナシ、紫色のブドウ、緑色に光る小さなナツメ。黄色い柑橘類。そして、購入するか迷っていたイチジクの値札を見て目を見張る。
「…………よく見ると高い」
「おお、イチジクかい? 今年は不作なんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。収穫量が少なくてね。どうしても値段が高くなっちまうんだ」
「収穫量が……」
「まぁ、実の所、今年のイチジクは味も微妙でね。ジャムにするなら問題ないけど」
「そうですか」
値段が高く、味も微妙。そこまで聞いたら、とてもイチジクを購入する気にはなれない。私はイチジクで赤いケーキを作るのを断念することにして、ガックリと肩を落とす。その瞬間、ふと床に視線を落とすと、そこには編みカゴに入った真っ赤な粒が見えた。
「えっ、これは!?」
「ああ。さっき入荷したばっかりのクランベリーだよ」
「クランベリー」
「一つ、食べてみるかい?」
「良いんですか!? ぜひ、味見させて下さい!」
「どうぞ」
口元に笑みを浮かべる果物屋の店主にすすめられるまま、クランベリーを一粒かじれば口の中に強い酸味が広がる。そして、そのあと舌にエグみのような味が残り、私は顔をしかめた。
「うっ!」
「ははは。ナマのままだとキツイだろう?」
「ええ、とても……」
「でも砂糖で煮詰めてジャムにすると甘酸っぱいクランベリージャムになるんだよ」
「……このクランベリーください!」
クランベリーを利用すれば、念願だった真っ赤な色を持つケーキが作れるはずだ。私は迷わず、大量のクランベリーを購入した。
私の店にケーキを買いに来てくれるお客さんたちは、私の作った物を信用してお金を出して、食べてくれてるわけで、簡単に美味しそうな赤色のジャムが作れるからといって、その信用を密かに裏切るようなマネはできないなぁとため息をつく。
赤色の着色料なんて無味無臭なんだから、黙っていれば分からないことではあるのだが、やはりどうにも良心がとがめて着色料の使用には、ちゅうちょしてしまう。
そうこう思案ている間に市場に到着した。声を出して客の呼び込みをする露店の販売人や、できたての串焼肉を販売する店、野菜を販売する店の前を通り過ぎて、果物屋にたどりつく。
「おっ! いらっしゃい! 今日は何にするんだい!」
「そうねぇ」
果物屋の店主に顔を覚えられたらしいと思いながら、今日も色とりどりの果物に、どれを買うべきかと熟考する。定番の赤いリンゴに黄色や緑色のナシ、紫色のブドウ、緑色に光る小さなナツメ。黄色い柑橘類。そして、購入するか迷っていたイチジクの値札を見て目を見張る。
「…………よく見ると高い」
「おお、イチジクかい? 今年は不作なんだよ」
「そうなんですか?」
「ああ。収穫量が少なくてね。どうしても値段が高くなっちまうんだ」
「収穫量が……」
「まぁ、実の所、今年のイチジクは味も微妙でね。ジャムにするなら問題ないけど」
「そうですか」
値段が高く、味も微妙。そこまで聞いたら、とてもイチジクを購入する気にはなれない。私はイチジクで赤いケーキを作るのを断念することにして、ガックリと肩を落とす。その瞬間、ふと床に視線を落とすと、そこには編みカゴに入った真っ赤な粒が見えた。
「えっ、これは!?」
「ああ。さっき入荷したばっかりのクランベリーだよ」
「クランベリー」
「一つ、食べてみるかい?」
「良いんですか!? ぜひ、味見させて下さい!」
「どうぞ」
口元に笑みを浮かべる果物屋の店主にすすめられるまま、クランベリーを一粒かじれば口の中に強い酸味が広がる。そして、そのあと舌にエグみのような味が残り、私は顔をしかめた。
「うっ!」
「ははは。ナマのままだとキツイだろう?」
「ええ、とても……」
「でも砂糖で煮詰めてジャムにすると甘酸っぱいクランベリージャムになるんだよ」
「……このクランベリーください!」
クランベリーを利用すれば、念願だった真っ赤な色を持つケーキが作れるはずだ。私は迷わず、大量のクランベリーを購入した。
0
お気に入りに追加
4,832
あなたにおすすめの小説
【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい
梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。
殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話
ルジェ*
ファンタジー
婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが───
「は?ふざけんなよ。」
これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。
********
「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください!
*2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!
異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした
鈴木竜一
ファンタジー
健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。
しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。
魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ!
【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】
※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
今さら帰ってこいなんて言われても。~森に移住した追放聖女は快適で優雅に暮らす~
ケンノジ
ファンタジー
「もうお前は要らない女だ!」
聖女として国に奉仕し続けてきたシルヴィは、第一王子ヴィンセントに婚約破棄と国外追放を言い渡される。
その理由は、シルヴィより強い力を持つ公爵家のご令嬢が現れたからだという。
ヴィンセントは態度を一変させシルヴィを蔑んだ。
王子で婚約者だから、と態度も物言いも目に余るすべてに耐えてきたが、シルヴィは我慢の限界に達した。
「では、そう仰るならそう致しましょう」
だが、真の聖女不在の国に一大事が起きるとは誰も知るよしもなかった……。
言われた通り国外に追放されたシルヴィは、聖女の力を駆使し、
森の奥で出会った魔物や動物たちと静かで快適な移住生活を送りはじめる。
これは虐げられた聖女が移住先の森の奥で楽しく幸せな生活を送る物語。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる