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針子の少女レイチェル
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そうこう言っている内に、目的地である市場に到着した。果物屋をやっている露店の軒先には、みずみずしい旬のブドウ、摘み立てのイチジク、青々とした梨、真っ赤な宝石のように輝くリンゴなどが網カゴいっぱいに盛られている。
レイチェルは早速、目的だった染料を扱う店を見つけていた。染料屋では鮮やかな赤、青、黄色、緑色などの染料が粉末状で店頭に並べられている。
「すいません。コチニールを下さい」
「はい。コチニールね。毎度!」
ガラスビンに入った赤黒い粉末の染料。コチニールを購入したレイチェルは、これから作るグラデーションの布について考えているのだろう。笑みをこぼしながら染料をカゴに入れた。
そんな光景を横目に、野菜を販売している露店に視線を向ければ、定番のジャガイモ、にんじん、玉ねぎの他に店頭で存在感を示す大きなオレンジ色のカボチャ。ホワイトマッシュルームなどのキノコ類、特に黄金色のアンズ茸は大量に収穫されたらしく山積みになっている。
「紫キャベツは無いわねぇ……」
「セリナさん、紫キャベツが欲しかったの? 時期的に、もう少し先だと思うけど」
「そっか……。無いなら仕方ないわね」
実は今回、アイシングクッキーを作りながら着色料が無いことに気付いてしまったのだ。紫キャベツをしぼれば着色料として使えるんじゃないかと思ったのだが時季的に無いなら、あきらめるしかない。
しかし、野菜や果物から色のついた汁をしぼり出せたとしても、クリーム等とまぜれば薄い色になって、あまり色が目立たないだろう。かと言って汁の量を多くし過ぎると、クリームが水っぽくなってしまう。
なんとか着色料として使える良い野菜や果物はない物かと思いながら、肩を落としていると一つの露店にかかげられてる『いちごミルク』という看板の文字が目についた。小さなタルに入れて周囲を氷で冷やしながら、いちごミルクのジュースを販売しているらしい。
「へぇ。いちごミルクなんて売ってるんだ」
「けっこう、売れてるみたいね」
「飲んでみようかしら。レイチェルも飲む?」
「私はいいわ……」
レイチェルが表情を曇らせたのが、少し気になったが宣伝広告を貼るため、そういえば歩きっぱなしでノドが渇いていたのだと、今さらながら気付いてしまった。
「おばさん。いちごミルクを一つ、下さい」
「あいよ! ありがとうね!」
私がお金を支払えば、にこやかなオバさんが、いちごミルクのジュースをそそいだカップを渡してくれた。美味しそうなピンク色の『いちごミルク』ジュースに思わず、ほおがゆるむ。
期待に胸をふくらませながら、いちごミルクを飲めば。砂糖の甘さと、牛乳の味わいが口の中に広がる。しかし、私は妙な違和感をかんじた。
「これ……。イチゴ、入ってない!?」
「ああ。それは『いちごミルク』っていう名前の飲み物で『イチゴが入ってる』って明言して売ってるわけじゃあないからね!」
「そんな…………」
レイチェルは早速、目的だった染料を扱う店を見つけていた。染料屋では鮮やかな赤、青、黄色、緑色などの染料が粉末状で店頭に並べられている。
「すいません。コチニールを下さい」
「はい。コチニールね。毎度!」
ガラスビンに入った赤黒い粉末の染料。コチニールを購入したレイチェルは、これから作るグラデーションの布について考えているのだろう。笑みをこぼしながら染料をカゴに入れた。
そんな光景を横目に、野菜を販売している露店に視線を向ければ、定番のジャガイモ、にんじん、玉ねぎの他に店頭で存在感を示す大きなオレンジ色のカボチャ。ホワイトマッシュルームなどのキノコ類、特に黄金色のアンズ茸は大量に収穫されたらしく山積みになっている。
「紫キャベツは無いわねぇ……」
「セリナさん、紫キャベツが欲しかったの? 時期的に、もう少し先だと思うけど」
「そっか……。無いなら仕方ないわね」
実は今回、アイシングクッキーを作りながら着色料が無いことに気付いてしまったのだ。紫キャベツをしぼれば着色料として使えるんじゃないかと思ったのだが時季的に無いなら、あきらめるしかない。
しかし、野菜や果物から色のついた汁をしぼり出せたとしても、クリーム等とまぜれば薄い色になって、あまり色が目立たないだろう。かと言って汁の量を多くし過ぎると、クリームが水っぽくなってしまう。
なんとか着色料として使える良い野菜や果物はない物かと思いながら、肩を落としていると一つの露店にかかげられてる『いちごミルク』という看板の文字が目についた。小さなタルに入れて周囲を氷で冷やしながら、いちごミルクのジュースを販売しているらしい。
「へぇ。いちごミルクなんて売ってるんだ」
「けっこう、売れてるみたいね」
「飲んでみようかしら。レイチェルも飲む?」
「私はいいわ……」
レイチェルが表情を曇らせたのが、少し気になったが宣伝広告を貼るため、そういえば歩きっぱなしでノドが渇いていたのだと、今さらながら気付いてしまった。
「おばさん。いちごミルクを一つ、下さい」
「あいよ! ありがとうね!」
私がお金を支払えば、にこやかなオバさんが、いちごミルクのジュースをそそいだカップを渡してくれた。美味しそうなピンク色の『いちごミルク』ジュースに思わず、ほおがゆるむ。
期待に胸をふくらませながら、いちごミルクを飲めば。砂糖の甘さと、牛乳の味わいが口の中に広がる。しかし、私は妙な違和感をかんじた。
「これ……。イチゴ、入ってない!?」
「ああ。それは『いちごミルク』っていう名前の飲み物で『イチゴが入ってる』って明言して売ってるわけじゃあないからね!」
「そんな…………」
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