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40 百合

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 窓から差し込む朝日のまぶしさと、遠くから聞こえる生活音で私はゆっくりと覚醒した。重いまぶたを開いた時、見慣れぬ天井を見て自分がどこにいるのか一瞬、分からなかった。

 この世界に来てからは客室に置かれている天蓋つきのベッドで眠っていたからだ。しかし、今朝は天蓋つきのベッドではなく、ごくシンプルなタイプのベッドに寝ていた。

「そうだ……。昨日はロゼッタがユリ毒を摂取したから胃洗浄をした後、診療室に来たんだったわ」

 私は顔を横に向け、プラチナブロンドの侍女が眠っているはずのベッドに視線を向けたが、そこはもぬけのカラだった。

「いない?」

「おはようございます。マリナ様」

「ロゼッタ……?」

「はい」

 背後から声をかけられ振り向けば、そこには朝日に照らされて穏やかに微笑むプラチナブロンドの侍女がたたずんでいた。

「もう大丈夫なの?」

「マリナ様のおかげで、この通り回復いたしました」

「そう、よかった……。でも念の為、今日は安静にしておいた方がいいわ。ロゼッタ、あまり無理をしないで休んでいて」

 私がベッドから出て、立ち上がりながらそう言った時、診療室の外からドアがノックされた。そして、私たちの様子を遠くから見ていた白髪の医女がドアを開ければ、そこには銀髪の騎士がいた。

「ロゼッタ。目が覚めたのか」

「ええ。おはようございます。お兄様」

「ああ、具合はどうだ?」

「もうすっかり大丈夫です」

「そうか……」

 ロゼッタの実兄である銀髪の騎士は安堵した表情だったが、目の下にはクマが出来ていて疲労の色が濃いように見受けられた。

「アルベルトさん。もしかして眠っていないんですか?」

「ああ、何しろ公爵令嬢リリアンヌの侍女が行方不明だったからな……」

「けっきょく一晩中、見つからなかったんですね」

 私が呟けば銀髪の騎士は、窓の外に見える景色に視線を向けながら眉根を寄せた。

「……侍女フィオーレは早朝、庭園で見つかった」

「庭園で!? 昨晩は雨が降っていましたけど。まさか一晩中、庭園にいたんですか?」

「おそらくな……」

「おそらくって。フィオーレ本人から、どこに隠れていたのかまだ聞いてないんですか?」

「残念ながら、見つかった侍女からは何も聞くことは出来ない……。庭園で発見された時、侍女フィオーレはすでに事切れていた」

 苦々しい表情でうつむいた銀髪の騎士が発した言葉に私とロゼッタは呆然とした。

「えっ」

「死んでいたってことですか?」

「ああ」

「何故? お兄様、フィオーレの死因はなんですか?」

「……侍女フィオーレは庭園のユリ花壇の中で、口の中にユリの花を詰めて死亡していた」
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