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31 到達

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 客室に戻った私は、調度品の引き出しから複数枚の布やタオルを取り出しローテーブルの上に置いた。

「すいません、アルベルトさん。ロゼッタをソファに移動させて下さい。それと頭の下にクッションを置いて、やや頭を上げた体勢にして下さい」

「ああ、分かった」

「アルベルト。ところで、あの黒髪の娘はいったい? 確か平民と聞いていたが……」

「あの者は……。マリナは医者です」

 そんな会話をしながら銀髪の騎士と第二王子はプラチナブロンドの侍女をソファに横たわらせた。その間、私は白色の塩化ビニール製の業務用、使い捨て手袋を両手に装着する。そして、ちょうど手袋を装着し終えた時、客室のドアが勢いよく開かれた。

「水とバケツ! 持って来たぜ! マリナちゃん!」

「ちょうど良いタイミングです。ヴィットリオさん! こっちに持って来て下さい。バケツは床に。水はローテーブルの上に置いて下さい」

「了解!」

 左手に金属製のバケツ、右手にガラス製の水差しを二つ持ってきた赤髪の騎士は、私の指示通りバケツをロゼッタが横たわるソファの横に置き、水差しを木製ローテーブルの上に置いた。

「ロゼッタ。今からゴムチューブをノドから胃に入れて、胃の内容物を強制的に出して胃洗浄するから、ロゼッタも苦しいだろうけど協力してね?」

「は、はい……」

「うん。頑張ろうね!」

 不安げに瞳が揺れるロゼッタを励ます為、明るく声をかけながら用意したタオルをロゼッタの顔周辺に置き、首元に布をかけていく。そして、新品のゴムチューブに黄金色のオリーブオイルを塗ってなじませる。

「じゃあ行くわよ。少し、苦しくなるけど我慢してね」

「はい……」

 ロゼッタが軽く頷いたのを確認して私はプラチナブロンドの侍女にぴったりと寄り添い、左手で彼女の頭を抱え込むような姿勢を取りながら右手でロゼッタの口からゴムチューブを挿入していく。

 人間相手の胃洗浄なら、鼻腔から挿入していく方法が一般的らしいが獣人の場合、身体の構造が違う可能性もある。一刻を争う事態でもあるし、私は確実に口からゴムチューブを挿入する方法を選択した。

 私が右手でスルスルとオレンジ色のゴムチューブをノドに挿入していくとロゼッタは苦しそうに眉根を寄せて、涙目で軽く咳き込んだ。

「苦しいわよね……。もう少し頑張って、ロゼッタ……! あと少しで胃に到達するから」

「ロゼッタ!」

 見守っている第二王子がたまらず声をかけた時、ゴムチューブが胃に到達する長さまで挿入されたのを確認できた。

「よく頑張ったわね、ロゼッタ……。ゴムチューブが胃に到達したわ。今から胃に水を入れるわ。苦しいと思うけど、胃に入ってるユリ毒を洗浄する為だから」
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