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24 バラ園
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「聖女は、その名の通り聖なる力を持った女性です。魔や邪悪を祓う存在、あるいは重要な使命を帯びている存在と言われており、主に白魔法に特化した魔法使いであることが多いようです。この国では王の承認を得られた場合、儀式を行い聖女召還が行われるのです。もっとも、今回の聖女召還は国王陛下が病気で伏せっているというのもあってイレギュラーでしたが……。あと『初代聖女』に関しては、はっきりとした事は分からないんですよ」
「え?」
「初代国王の伴侶が『聖女』で邪神や悪神から国を救ったという伝承があるのですが、具体的にどのように救ったのかは文献に記されていないのです……。ただ初代聖女がいなければ、この世界は恐ろしい邪悪によって支配されていただろうと、国が滅んでいた可能性もあるという言い伝えがあります」
「その伝承を信じて私が呼ばれたんですよね? でも、私にそんな力は……。だいたい、私の前にいた聖女とかはどうだったんですか? その人も重要な使命を帯びていたんですか?」
「前の聖女は治癒魔法に特化していたので終生、神殿で過ごしていました。そして毎日、運んで来られる怪我人に対して回復魔法をかけて過ごしていたそうです」
「終生……。死ぬまでずっとですか?」
「はい。一度、聖女に認定されてずっと神殿で怪我人を癒し続けていたそうです」
「私も魔法が使えるようになったら、そうなるんでしょうか?」
ずっと閉じ込められて元の世界に帰ることができずに一生、聖女としての仕事だけを求められる可能性を考えると目の前が暗くなる思いだ。そんな私の様子を見た長髪の魔術師は、やや肩をすくめた。
「どうでしょうか……。マリナさんの場合は治癒魔法に特化してるかも、まだ分かりませんし。マリナさん御本人の意思にもよるかと思うのですが……。それにディルク殿下の意向もありますし」
「第一王子ってが私を『妃に』って言ってたの本気なんでしょうか? あれから一度も顔を見ませんけど……」
「ディルク殿下がマリナさんを妃に迎えると話していたのは、私も驚いたんですよねぇ。もしかしたら、第一王子は……」
そこまで言うと黒縁眼鏡の魔術師は自身の手をアゴに当てて考え込み、口をつぐんでしまった。
「もしかしたら、第一王子がなんだというんですか?」
「いえ。これ以上は、私の個人的な推測になりますから……。確定していないことを話すのは控えておきましょう」
「そうですか……」
なんだかノドに魚の骨が引っかかるような物言いで気になるが、第一王子に対する推測を臣下であるグラウクスさんに無理やり言わせるというのは難しいだろうと考え、それ以上の追及はできなかった。そんな私の胸中を知ってか、知らずか長髪の魔術師は黒縁眼鏡をクイと上げると申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「マリナさんが文字を覚えたなら早速、初心者向けの魔法を指導と行きたいところですが。あいにく今日は用事がありまして、今から出かけないといけないのです」
「そうでしたか。こちらこそ、急にお伺いしてすいません。また出直します」
長髪の魔術師グラウクスさんは忙しそうなのに長居しては申し訳ない。私とロゼッタは魔術師の部屋を退出した。
「それでは私、女官長の所へ行って参ります」
「うん。じゃあ、私はちょっと庭園を散歩するわ」
「マリナ様。庭園の花は見る分には問題ありませんが、許可なく勝手に摘むと咎められます。特にユリの花は公爵令嬢リリアンヌ様とレナード殿下の婚約を祝って植えられた物ですので……」
「分かったわ。勝手に花を摘んだりしないから安心して」
ロゼッタと別れた私は一人、バラ園へと向かった。実際に行ってみると淡いピンク色のつるバラが巻き付いた見事なアーチがいくつもあったり、赤色や白色、オレンジ色の美しいバラが咲き誇っていた。
「本当に今が見頃なのね。とっても綺麗……。来て良かった」
感心しながら色とりどりのバラに目移りしているとバラ園の片隅にある、白石造りの東屋に誰かが座っているのが見えた。どこかで見たことがある金髪の男性だと思いながら、よくよく見てようやく気付いた。
「まさか、レナード王子?」
「誰だ? 見ぬ顔だな」
東屋の椅子に座っていた金髪碧眼の美青年は第二王子、レナード殿下だった。
「え?」
「初代国王の伴侶が『聖女』で邪神や悪神から国を救ったという伝承があるのですが、具体的にどのように救ったのかは文献に記されていないのです……。ただ初代聖女がいなければ、この世界は恐ろしい邪悪によって支配されていただろうと、国が滅んでいた可能性もあるという言い伝えがあります」
「その伝承を信じて私が呼ばれたんですよね? でも、私にそんな力は……。だいたい、私の前にいた聖女とかはどうだったんですか? その人も重要な使命を帯びていたんですか?」
「前の聖女は治癒魔法に特化していたので終生、神殿で過ごしていました。そして毎日、運んで来られる怪我人に対して回復魔法をかけて過ごしていたそうです」
「終生……。死ぬまでずっとですか?」
「はい。一度、聖女に認定されてずっと神殿で怪我人を癒し続けていたそうです」
「私も魔法が使えるようになったら、そうなるんでしょうか?」
ずっと閉じ込められて元の世界に帰ることができずに一生、聖女としての仕事だけを求められる可能性を考えると目の前が暗くなる思いだ。そんな私の様子を見た長髪の魔術師は、やや肩をすくめた。
「どうでしょうか……。マリナさんの場合は治癒魔法に特化してるかも、まだ分かりませんし。マリナさん御本人の意思にもよるかと思うのですが……。それにディルク殿下の意向もありますし」
「第一王子ってが私を『妃に』って言ってたの本気なんでしょうか? あれから一度も顔を見ませんけど……」
「ディルク殿下がマリナさんを妃に迎えると話していたのは、私も驚いたんですよねぇ。もしかしたら、第一王子は……」
そこまで言うと黒縁眼鏡の魔術師は自身の手をアゴに当てて考え込み、口をつぐんでしまった。
「もしかしたら、第一王子がなんだというんですか?」
「いえ。これ以上は、私の個人的な推測になりますから……。確定していないことを話すのは控えておきましょう」
「そうですか……」
なんだかノドに魚の骨が引っかかるような物言いで気になるが、第一王子に対する推測を臣下であるグラウクスさんに無理やり言わせるというのは難しいだろうと考え、それ以上の追及はできなかった。そんな私の胸中を知ってか、知らずか長髪の魔術師は黒縁眼鏡をクイと上げると申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「マリナさんが文字を覚えたなら早速、初心者向けの魔法を指導と行きたいところですが。あいにく今日は用事がありまして、今から出かけないといけないのです」
「そうでしたか。こちらこそ、急にお伺いしてすいません。また出直します」
長髪の魔術師グラウクスさんは忙しそうなのに長居しては申し訳ない。私とロゼッタは魔術師の部屋を退出した。
「それでは私、女官長の所へ行って参ります」
「うん。じゃあ、私はちょっと庭園を散歩するわ」
「マリナ様。庭園の花は見る分には問題ありませんが、許可なく勝手に摘むと咎められます。特にユリの花は公爵令嬢リリアンヌ様とレナード殿下の婚約を祝って植えられた物ですので……」
「分かったわ。勝手に花を摘んだりしないから安心して」
ロゼッタと別れた私は一人、バラ園へと向かった。実際に行ってみると淡いピンク色のつるバラが巻き付いた見事なアーチがいくつもあったり、赤色や白色、オレンジ色の美しいバラが咲き誇っていた。
「本当に今が見頃なのね。とっても綺麗……。来て良かった」
感心しながら色とりどりのバラに目移りしているとバラ園の片隅にある、白石造りの東屋に誰かが座っているのが見えた。どこかで見たことがある金髪の男性だと思いながら、よくよく見てようやく気付いた。
「まさか、レナード王子?」
「誰だ? 見ぬ顔だな」
東屋の椅子に座っていた金髪碧眼の美青年は第二王子、レナード殿下だった。
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