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9 ドレス
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「マリナ様。朝から騒がしくしてしまって、申し訳ございません」
「い、いいのよ……。ロゼッタが悪い訳じゃあないんだから謝らないで」
申し訳なさそうに謝罪して頭を下げるプラチナブロンドの侍女に、頭を上げるよう告げればロゼッタは安堵した様子で顔を上げた。
「ありがとうございます、マリナ様……。それでは早速ですが、お手伝いさせて頂きますので着替えをいたしましょう」
「え、わざわざ服を着るのをロゼッタに手伝ってもらうなんて……。衣服を用意して貰えるなら一人で着るわよ?」
「いえ。お一人で着用するのは難しいと思われますし、朝のドレス着用をお手伝いするのも侍女の仕事ですから」
「へ? ドレス?」
「はい! マリナ様に合いそうなドレスをいくつか見繕っておきましたので、お好きなドレスをお選び下さい」
ロゼッタは隣室へ入ると、色とりどりのドレスを両手に持って戻ってきた。
「こ、これは……」
目が覚めるような真っ赤な布地のドレスから、可愛らしフリルがたっぷりあしらわれたピンク色のドレス。シックな緋色のドレスに、紫色と黒色の大人びたドレス、白いレースが施された緑色のドレスなどを見せられ、私は仰天した。
「サイズはおそらく大丈夫だと思うのですが……。マリナ様のお好みが分かりませんでしたので、色々なデザインのドレスをお持ちしました。どれがよろしいですか?」
「あの……。もっとシンプルなのはないかしら? フリルとか付いてないのが良いんだけど……?」
「フリルがついてないシンプルなドレスがお好みなのですね……。この中でしたら、こちらにあるコバルトグリーンのドレスは如何でしょう?」
ロゼッタにすすめられたのは淡い緑色に白いレースの意匠が施されたドレスでこの中では比較的、落ち着いたデザインのドレスだった。
私としては、わざわざドレスを着るということに若干の抵抗を感じているのだけど、よく考えたら目の前のロゼッタだってシンプルながら紺色のドレス的なデザインの服装だし、ここで私が「ああでもない」「こうでもない」と言えばロゼッタに余計な仕事を増やしてしまうだろう。
「あ、じゃあその緑色のドレスで結構です……」
「かしこまりました。それではまず、こちらのペチコートから着用いたしましょう」
ロゼッタが手にした白いスカート状の薄布ペチコートを促されるまま身につけると、ロゼッタは私の背後に回り腰部分に合わせてしっかりと着用させた。
「これでいいかしら?」
「はい。ではコルセットを着けましょう」
「コルセット?」
「ええ。こちらです」
革製の丈夫なコルセットを提示されロゼッタにされるまま身につける。背後に回ったロゼッタがコルセットに通した革紐をきつく結んでいく為、肺が圧迫され息が詰まる。
「く、苦し……」
「マリナ様。もうすぐ終わりますから少々、お待ち下さいませ……。はい、出来ました!」
「はぁ……。これでやっと終わり?」
「下着の着用が終わりましたので、次はパニエをつけましょう」
「まだあるの? もう、苦しいのはちょっと……」
「大丈夫です。パニエはスカートを美しく見せるためのヒップパッドですから、苦しくないですよ?」
笑顔のロゼッタが電車移動の睡眠時などによく首につけて利用されてる、携帯U字ネック枕のような形状のパニエとやらを腰に巻けられて紐を結ばれた。
確かにコルセットを身につけたときに比べれば苦しくないが、なんで携帯U字ネック枕を腰につけるのか意味が分からない。私は困惑したが雰囲気的に、これで終わりでないことだけは分かる。
「今度は何をつけるのかしら?」
「次はペチコートです」
「え、またペチコート?」
「はい。今度はこちらの長丈ペチコートを……」
ロゼッタに提示された一番最初のひざ丈ペチコートよりは、厚手の布で作られている白色のペチコートをスカートを着用するように身につけた。
「これで良いのかしら?」
「大丈夫です。ではドレスを着用いたしましょう」
ようやく私が最初に選んだ、淡い緑色に白いレースの意匠が施されたドレスを差し出されて身に纏い袖を通す。姿見鏡を見ると着用意義が理解できないまま腰につけた、携帯U字ネック枕のようなパニエのおかげでコルセットで締め付けた腰の細さとスカートの美しいヒップラインが強調されていた。
「なるほど……。確かにパニエをつけると、こういうデザインのドレスだとスカートが美しく見えるわね」
「はい。マリナ様、とってもお似合いですよ」
にこやかに褒め称えてくれるロゼッタの言葉は嬉しかったが胸から腰を圧迫するコルセットと、やたら手間のかかるドレスの着付けに正月の晴れ着を身に纏った時、以来の疲労と衣服の重みを感じる。朝っぱらから早くも心が折れそうだ。
「今日は、これを着て過ごすのね?」
「マリナ様がお望みでしたら昼食前と夕食前あたりに、もっと豪華なドレスをご用意して着替えますか?」
「このままで良いです……」
震える声でやんわりと豪華なドレスをお断りした時、客室のドアが控えめにノックされた。ロゼッタが開ければ先ほど、この部屋を追い出された二人の騎士が所在なさげに立っていた。
「い、いいのよ……。ロゼッタが悪い訳じゃあないんだから謝らないで」
申し訳なさそうに謝罪して頭を下げるプラチナブロンドの侍女に、頭を上げるよう告げればロゼッタは安堵した様子で顔を上げた。
「ありがとうございます、マリナ様……。それでは早速ですが、お手伝いさせて頂きますので着替えをいたしましょう」
「え、わざわざ服を着るのをロゼッタに手伝ってもらうなんて……。衣服を用意して貰えるなら一人で着るわよ?」
「いえ。お一人で着用するのは難しいと思われますし、朝のドレス着用をお手伝いするのも侍女の仕事ですから」
「へ? ドレス?」
「はい! マリナ様に合いそうなドレスをいくつか見繕っておきましたので、お好きなドレスをお選び下さい」
ロゼッタは隣室へ入ると、色とりどりのドレスを両手に持って戻ってきた。
「こ、これは……」
目が覚めるような真っ赤な布地のドレスから、可愛らしフリルがたっぷりあしらわれたピンク色のドレス。シックな緋色のドレスに、紫色と黒色の大人びたドレス、白いレースが施された緑色のドレスなどを見せられ、私は仰天した。
「サイズはおそらく大丈夫だと思うのですが……。マリナ様のお好みが分かりませんでしたので、色々なデザインのドレスをお持ちしました。どれがよろしいですか?」
「あの……。もっとシンプルなのはないかしら? フリルとか付いてないのが良いんだけど……?」
「フリルがついてないシンプルなドレスがお好みなのですね……。この中でしたら、こちらにあるコバルトグリーンのドレスは如何でしょう?」
ロゼッタにすすめられたのは淡い緑色に白いレースの意匠が施されたドレスでこの中では比較的、落ち着いたデザインのドレスだった。
私としては、わざわざドレスを着るということに若干の抵抗を感じているのだけど、よく考えたら目の前のロゼッタだってシンプルながら紺色のドレス的なデザインの服装だし、ここで私が「ああでもない」「こうでもない」と言えばロゼッタに余計な仕事を増やしてしまうだろう。
「あ、じゃあその緑色のドレスで結構です……」
「かしこまりました。それではまず、こちらのペチコートから着用いたしましょう」
ロゼッタが手にした白いスカート状の薄布ペチコートを促されるまま身につけると、ロゼッタは私の背後に回り腰部分に合わせてしっかりと着用させた。
「これでいいかしら?」
「はい。ではコルセットを着けましょう」
「コルセット?」
「ええ。こちらです」
革製の丈夫なコルセットを提示されロゼッタにされるまま身につける。背後に回ったロゼッタがコルセットに通した革紐をきつく結んでいく為、肺が圧迫され息が詰まる。
「く、苦し……」
「マリナ様。もうすぐ終わりますから少々、お待ち下さいませ……。はい、出来ました!」
「はぁ……。これでやっと終わり?」
「下着の着用が終わりましたので、次はパニエをつけましょう」
「まだあるの? もう、苦しいのはちょっと……」
「大丈夫です。パニエはスカートを美しく見せるためのヒップパッドですから、苦しくないですよ?」
笑顔のロゼッタが電車移動の睡眠時などによく首につけて利用されてる、携帯U字ネック枕のような形状のパニエとやらを腰に巻けられて紐を結ばれた。
確かにコルセットを身につけたときに比べれば苦しくないが、なんで携帯U字ネック枕を腰につけるのか意味が分からない。私は困惑したが雰囲気的に、これで終わりでないことだけは分かる。
「今度は何をつけるのかしら?」
「次はペチコートです」
「え、またペチコート?」
「はい。今度はこちらの長丈ペチコートを……」
ロゼッタに提示された一番最初のひざ丈ペチコートよりは、厚手の布で作られている白色のペチコートをスカートを着用するように身につけた。
「これで良いのかしら?」
「大丈夫です。ではドレスを着用いたしましょう」
ようやく私が最初に選んだ、淡い緑色に白いレースの意匠が施されたドレスを差し出されて身に纏い袖を通す。姿見鏡を見ると着用意義が理解できないまま腰につけた、携帯U字ネック枕のようなパニエのおかげでコルセットで締め付けた腰の細さとスカートの美しいヒップラインが強調されていた。
「なるほど……。確かにパニエをつけると、こういうデザインのドレスだとスカートが美しく見えるわね」
「はい。マリナ様、とってもお似合いですよ」
にこやかに褒め称えてくれるロゼッタの言葉は嬉しかったが胸から腰を圧迫するコルセットと、やたら手間のかかるドレスの着付けに正月の晴れ着を身に纏った時、以来の疲労と衣服の重みを感じる。朝っぱらから早くも心が折れそうだ。
「今日は、これを着て過ごすのね?」
「マリナ様がお望みでしたら昼食前と夕食前あたりに、もっと豪華なドレスをご用意して着替えますか?」
「このままで良いです……」
震える声でやんわりと豪華なドレスをお断りした時、客室のドアが控えめにノックされた。ロゼッタが開ければ先ほど、この部屋を追い出された二人の騎士が所在なさげに立っていた。
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