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エミールは嫌々ながらもアデルを夜会会場にエスコートし、婚約者としての役割を果たした。
ドレスアップしてもアデルの地味さは変わらない。
会場内で注目を浴びることもない女と一緒にいることなどに、エミールは意味を感じなかった。
エミールは会場内を見回す。
目的の令嬢は簡単に見つかった。
今夜もイングリッドは美しい。
つやつやのピンク色の髪を綺麗にセットし、ピンク色の唇はとても艶やかだ。
髪の上で輝く金に青い石のはまった髪飾りも、大振りの金のイヤリングも、青い宝石のはまった太い金チェーンのネックレスも、彼女のために生まれたようにとても似合っていた。
ピンク地に白い砂糖菓子のコーティングを施したようなドレスも、素晴らしく彼女を引き立てている。
アクセサリーも、ドレスも、全てエミールがプレゼントしたものだ。
イングリッドの為であれば大金も惜しくはない。
婚約して良かったことと言えば、それなりの予算がついたことだ。
アデルのために使う予算ではあるが、あんな地味な女になど何を贈ったところで代わり映えしない。
適当なドレスをアデルに贈って誤魔化して、予算のほとんどをイングリッドに使った。
後悔はしていない。
予算をかけただけあって、今夜のイングリッドは素晴らしく美しいのだ。
満足しかない。
会場内の視線はチラチラと美しいイングリッドに集まっている。
この素晴らしい女性は私の恋人だ。
エミールは、そう叫びたい気分だった。
楽団の奏でる曲が変わって、国王陛下がお出ましになった。
王族のダンスが始まるのだ。
彼らは一曲だけ踊りって席に着く。
その後は、我ら貴族のお楽しみタイムが待っている。
エミールは顔がニヤついてしまうのを止められなかった。
「さぁ、イングリッド。一緒におどろう」
「はい、エミールさまぁ~」
エミール・カルローニ伯爵令息は、婚約者ではない男爵令嬢に向かって手を差し出した。
彼女はその手を取り、エミールに体を寄せた。
一曲目のダンスが始まると二人は、人々の踊りの輪の中へと優雅に滑り込んだ。
「エミールさまぁ~。アデルさまが、こちらを睨んでいますわぁ~」
「ふふ、可愛い君に嫉妬しているのさ」
「まぁ、エミールさまってばぁ~」
一曲目のダンスは特別だ。
本来であれば婚約者であるアデルと踊るべきなのだろう。
しかし、エミールはイングリッドと踊りたかった。
素直に自分の気持ちに従い、それにイングリッドは応えてくれた。
エミールは幸せだった。
一曲目のダンスが終わるまでは。
彼としては二曲目もイングリッドと踊りたかったのだが、彼女がそれを許さなかった。
「それはダメですわぁ~。二曲以上続けて踊ることができるのは、婚約者か配偶者の特権ですもの。私とエミールさまは婚約すらしていないのですから、一曲でお終いにしなければいけませんわぁ~」
イングリッドはそう言うと、いつもの華やかな笑みを浮かべてエミールの腕の中から離れていった。
彼の愛しい恋人は、見た目通りの人ではない。
引き際を心得ている賢い女性であることは、エミールも知っていた。
エミールの手を離れたイングリッドのもとには、様々な男たちの手が差し伸べられている。
イングリッドは彼の目の前で、そのうちの一人の手を取った。
大きな商談をまとめて金回りが良いと噂になっている令息だ。
イングリッドは人を見る目がある。
だからエミールを恋人として選んだのだし、差し伸べられた手から一番良さそうな令息を選んだ。
とても賢い女性だ。
しかし――――上から下まで全てエミールが用意した物を身に着けているというのに、なぜ自分以外の者と踊らなければいけないのか?
(それもこれも、アデルなんかと婚約しているせいだ!)
エミールは去っていく愛しい恋人の後ろ姿を見送りながら、ギリッと奥歯をかみしめた。
そして、このままではいけないと強く思った。
ドレスアップしてもアデルの地味さは変わらない。
会場内で注目を浴びることもない女と一緒にいることなどに、エミールは意味を感じなかった。
エミールは会場内を見回す。
目的の令嬢は簡単に見つかった。
今夜もイングリッドは美しい。
つやつやのピンク色の髪を綺麗にセットし、ピンク色の唇はとても艶やかだ。
髪の上で輝く金に青い石のはまった髪飾りも、大振りの金のイヤリングも、青い宝石のはまった太い金チェーンのネックレスも、彼女のために生まれたようにとても似合っていた。
ピンク地に白い砂糖菓子のコーティングを施したようなドレスも、素晴らしく彼女を引き立てている。
アクセサリーも、ドレスも、全てエミールがプレゼントしたものだ。
イングリッドの為であれば大金も惜しくはない。
婚約して良かったことと言えば、それなりの予算がついたことだ。
アデルのために使う予算ではあるが、あんな地味な女になど何を贈ったところで代わり映えしない。
適当なドレスをアデルに贈って誤魔化して、予算のほとんどをイングリッドに使った。
後悔はしていない。
予算をかけただけあって、今夜のイングリッドは素晴らしく美しいのだ。
満足しかない。
会場内の視線はチラチラと美しいイングリッドに集まっている。
この素晴らしい女性は私の恋人だ。
エミールは、そう叫びたい気分だった。
楽団の奏でる曲が変わって、国王陛下がお出ましになった。
王族のダンスが始まるのだ。
彼らは一曲だけ踊りって席に着く。
その後は、我ら貴族のお楽しみタイムが待っている。
エミールは顔がニヤついてしまうのを止められなかった。
「さぁ、イングリッド。一緒におどろう」
「はい、エミールさまぁ~」
エミール・カルローニ伯爵令息は、婚約者ではない男爵令嬢に向かって手を差し出した。
彼女はその手を取り、エミールに体を寄せた。
一曲目のダンスが始まると二人は、人々の踊りの輪の中へと優雅に滑り込んだ。
「エミールさまぁ~。アデルさまが、こちらを睨んでいますわぁ~」
「ふふ、可愛い君に嫉妬しているのさ」
「まぁ、エミールさまってばぁ~」
一曲目のダンスは特別だ。
本来であれば婚約者であるアデルと踊るべきなのだろう。
しかし、エミールはイングリッドと踊りたかった。
素直に自分の気持ちに従い、それにイングリッドは応えてくれた。
エミールは幸せだった。
一曲目のダンスが終わるまでは。
彼としては二曲目もイングリッドと踊りたかったのだが、彼女がそれを許さなかった。
「それはダメですわぁ~。二曲以上続けて踊ることができるのは、婚約者か配偶者の特権ですもの。私とエミールさまは婚約すらしていないのですから、一曲でお終いにしなければいけませんわぁ~」
イングリッドはそう言うと、いつもの華やかな笑みを浮かべてエミールの腕の中から離れていった。
彼の愛しい恋人は、見た目通りの人ではない。
引き際を心得ている賢い女性であることは、エミールも知っていた。
エミールの手を離れたイングリッドのもとには、様々な男たちの手が差し伸べられている。
イングリッドは彼の目の前で、そのうちの一人の手を取った。
大きな商談をまとめて金回りが良いと噂になっている令息だ。
イングリッドは人を見る目がある。
だからエミールを恋人として選んだのだし、差し伸べられた手から一番良さそうな令息を選んだ。
とても賢い女性だ。
しかし――――上から下まで全てエミールが用意した物を身に着けているというのに、なぜ自分以外の者と踊らなければいけないのか?
(それもこれも、アデルなんかと婚約しているせいだ!)
エミールは去っていく愛しい恋人の後ろ姿を見送りながら、ギリッと奥歯をかみしめた。
そして、このままではいけないと強く思った。
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