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結婚式

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 梅雨へ入る前に結婚のお披露目をしましょう、ということとなり、バタバタと準備は進んでいきます。

「当日は晴れるといいけど」

 母が、家の窓から外を見上げてつぶやきました。

 湿った曇りがちの日が増えていくなか、今日はウエディングドレスの試着です。

 私は、姉が使ったものを借りて結婚式に臨みます。

「どうかしら?」

 試しに着てみたドレスは、少しゆとりがあります。

「本当にアナタはガリガリだから」

 姉が苦笑交じりに言いました。

「ん、でもいいわね。少しお直しすればよさそう」

 母が私を上から下まで見て言いました。

 ときどき首を傾げてみたり、うなずいてみたりと忙しい。

「ちょっとこの辺をつまんで……」
「それいいわね、ロベリア。えっと……あと、そこにお花でも飾りましょうか」

 姉と母が私を囲んでいじくりまわしています。

 なんだか変な感じです。

 こんなにジロジロ見られたのは、いつぶりでしょうか。

 あちこち無遠慮に触られたり、穴が開くほど見られたりするのは、ちょっと恥ずかしくて、ちょっと疲れます。

 一通り弄り回したあと、私の姿をしげしげとながめていた母は、ため息交じりに言いました。

「結婚……しちゃうのね。アナタまで家から出ていってしまうなんて、寂しくなるわ」

「なに言ってるの、母さん。アマリリスは隣に引っ越すだけでしょ?」

 姉が呆れて突っ込みます。

 まぁ、実際そうです。

 イジュの家は、我が家の敷地を挟んだお隣です。

 小さな庭と道を隔てた向かいの家なので、たいして離れていません。

 貴族のお屋敷の別館の方が遠いくらいの距離しかないわけですから、毎日のように顔を合わせることでしょう。

「そうよ母さん。いつでも会えるわ。もちろん、結婚はしますけどね」

「まぁアマリリス。ごちそうさま」

 澄ました顔を作って私が言うと、姉がわざとらしく表情を大きく動かしてからかってきます。

「姉さんってば。惚気たわけじゃないわ」

「あら、違うの? 私にはそうは見えないわ」

 ジロジロこちらを見ながら全身を使ってからかってくる姉に、私は耐え切れずに吹き出しました。

「もうアナタたちってば、いつもそうなんだから」

 姉妹で笑い転げていると、母もつられて笑いだします。

 あまりの賑やかさに父が覗きに来て呆れるまで、私たちは笑い転げていました。

◇◇◇

 結婚式当日は晴天に恵まれました。

 よく晴れた空を背景に、私とイジュは結婚します。

「結婚式って緊張するな」

 イジュは白いタキシードに包んだ均整のとれた逞しい体をカチンコチンにしながら、何度もつぶやいています。

 礼装に身を包んだ私たちは、村のはずれにある神殿前へとやってきました。

 家族たちは先に神殿内で待っていて、そこに私たちが登場するという形になります。

 外で待っている私たちは、互いに何となく照れてしまって、目があう度にフフフとどちらともなく笑ってしまうのですが、これが普通なのでしょうか。良く分かりません。

 でも、これは断言できます。今日のイジュも素敵です。

 野良着すら似合うイジュが白いタキシードを着ているのですから、素敵でないわけがないです。

 横を見るだけで照れてしまいます。

 見上げると精悍で男らしい顔が目に入って、余計に照れてしまう私です。

 白いウエディングドレスに身を包んで白いブーケを持った私は、イジュの目にどう映っているのでしょうか。

 ちょっと気になります。

「アマリリスは緊張してないの?」

「それほどでもないかもね」

 緊張はしていないです。ドキドキはしていますが、それは結婚式に対してではないです。

「やっぱり聖女さまは違うな」

「だって結婚式といっても、村の神殿で神さまへ報告するだけよ?」

 私がフフフと笑うと、イジュはムッとしたような顔でこちらを睨んできました。

「見届け人が王子さまとか、緊張しない方がおかしいよ」

 どうやらイジュは結婚式そのものではなく、王族に緊張しているようです。

「確かに王子さまではあるけれど……エリックさまだもの」

「そりゃ、アマリリスは慣れてるかもしれないけどさぁー」

 確かに慣れています。なにせ長年の上司なので。

 でも緊張していない理由は、それだけではありません。

「心配いらないわ、イジュ。エリックさまは優しい方だから」

 気取りのないエリックさまなら、楽しく盛り上げてくれるでしょう。

 合図があったので私たちは入口で入場のタイミングを待った。

 そして、扉が開く。

 ああ、エリックさまの性格を分かっていたのに、なぜ油断した私。

 お祭り男の手によって神殿内は華やかに飾られ、盛装した家族や知り合いたちがひしめき合っている。

 素朴な神殿に持ち込まれた豪奢な飾りがキラキラと輝く。

 室内を囲みこむように何本も取り付けられた太いリボンに、会場内を埋め尽くすように飾られた何本もの白い花。

 そして、聖力石前で満面の笑みを浮かべるエリックさま。

 こそっと入り込んだリスが異様な空気を感じて、慌てて逃げていきます。

 ああ……やり過ぎです、エリックさま。

 そう思っても後の祭り。

 私はイジュに手を取られて背中に嫌な汗をかきながら、中央に敷かれた赤い絨毯の上を進んでいくしかありませんでした。
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