【完結】婚約解消で魔法契約から解放された魔女は自由に生きるつもりだったのに王太子の溺愛から逃れられない

天田れおぽん

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魔女は戸惑う

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 ボニータは、すぐに森へ帰ることはできなかった。
 薬が効いて目覚めたからといって、すぐにベッドから起き上がれるわけでもなかったからだ。
 
(そりゃ、十日も寝込めばすぐに動けるわけないよね)

 体力も落ち、若干の後遺症も見られたボニータは王城の客室で、お世話を受ける日々が続いた。
 とはいえ、今日で目覚めて三日。
 自分で食事も摂れるようになり、少しずつ動けるようになってきた。

 大きく開け放たれた窓からは気持ちの良い朝の風が入ってくる。
 ボニータはベッドで朝食を摂っていた。

「王太子さまに食べさせてもらわなくても大丈夫だから」
「そう? 私は食事の介護が出来て嬉しい」

 ボニータが身構える横で、いそいそと一国の王太子が魔女のお世話をしている。
 居心地が悪いのに、居心地が良い。
 矛盾した感覚にボニータは戸惑う。

「はい、あーん」

 そう言いながらアーサーが口元にスープをすくったスプーンを持ってくれば、ついつい口を開けてしまうボニータだった。

 目覚めた後のアーサーは始終、こんな感じだ。
 メイドたちもいるのだから任せればいいのに、アーサーが出来る範囲のことはしたがる。
 さすがに着替えの介助などは断っているが、やたらとボニータの世話を焼きたがって困るのだ。

「起きられるようになったら森へ帰る」
「ん、そうか」

 ボニータの言葉をニコニコしながら聞くアーサーの真意がイマイチ分からない。
 餌付けのような朝食が終わると、メイドが後片付けにやってきた。

(やたらと構ってくるから、このまま監禁する勢いで来るかと思ったのに……)

 色々と世話をしてくれるアーサーだが距離は適度に保っていて、ボニータの反応次第でスッと距離をとってくれる。
 それに構われるのが嫌じゃない自分にも戸惑っている。
 結界が目的のくせに、と思いつつも好意が膨らんでいく自分にも戸惑うボニータだった。

「公務へ行かなくていいの?」
「ん、こっちでも出来ることはあるからね」

 アーサーはボニータが寝ている客室に執務机を持ち込んでいた。
 書類仕事の類は、そこでやっている。
 すぐ横、といっても広い客室なので距離はあるが、ボニータから見える所で仕事をしていた。
 ボニータのお世話が終わればすぐに自分の仕事にとりかかるアーサーは、とても忙しいのだろう。

「自分の執務室でやったほうが効率いいでしょ?」
「私はここがいい」

 笑いながら立ち上がったアーサーは、ふっと動きを止めてボニータを振り返って聞いた。

「邪魔かな?」
「ん、邪魔」

 アーサーはボニータからはっきり言われて情けない感じに眉をヘニョリと下げた。
 それでも部屋から去る様子はなく、執務机へと向かった。
 そして黙々と作業を続けている。
 時折、ボニータのお世話で使用人たちが出入りする音と、アーサーがペンを走らせる音。
 書類をめくる音が聞こえるくらい部屋の中は静かだ。
 だから、うるさいというのは厳密には違うだろう。
 でも、気になるのは気になる。

(居るだけといえば居るだけなんだけど……)

 ボニータはベッドの上から、そっとアーサーの様子をうかがう。
 キラキラ輝く金髪に真剣な青い瞳。
 書類仕事をやっつけている出来る男モードのアーサーは、はっきり言って素敵だ。
 胸がドキドキする。

(病床にいる私には、あまりよくない気がする)

 そう思いつつチラチラとアーサーの姿を目で追ってしまう。
 早く森に帰りたい気持ちと、この時間が長く続けばいいのにという思いが、ボニータの中で複雑に絡み合っていた。
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