19 / 21
魔女は戸惑う
しおりを挟む
ボニータは、すぐに森へ帰ることはできなかった。
薬が効いて目覚めたからといって、すぐにベッドから起き上がれるわけでもなかったからだ。
(そりゃ、十日も寝込めばすぐに動けるわけないよね)
体力も落ち、若干の後遺症も見られたボニータは王城の客室で、お世話を受ける日々が続いた。
とはいえ、今日で目覚めて三日。
自分で食事も摂れるようになり、少しずつ動けるようになってきた。
大きく開け放たれた窓からは気持ちの良い朝の風が入ってくる。
ボニータはベッドで朝食を摂っていた。
「王太子さまに食べさせてもらわなくても大丈夫だから」
「そう? 私は食事の介護が出来て嬉しい」
ボニータが身構える横で、いそいそと一国の王太子が魔女のお世話をしている。
居心地が悪いのに、居心地が良い。
矛盾した感覚にボニータは戸惑う。
「はい、あーん」
そう言いながらアーサーが口元にスープをすくったスプーンを持ってくれば、ついつい口を開けてしまうボニータだった。
目覚めた後のアーサーは始終、こんな感じだ。
メイドたちもいるのだから任せればいいのに、アーサーが出来る範囲のことはしたがる。
さすがに着替えの介助などは断っているが、やたらとボニータの世話を焼きたがって困るのだ。
「起きられるようになったら森へ帰る」
「ん、そうか」
ボニータの言葉をニコニコしながら聞くアーサーの真意がイマイチ分からない。
餌付けのような朝食が終わると、メイドが後片付けにやってきた。
(やたらと構ってくるから、このまま監禁する勢いで来るかと思ったのに……)
色々と世話をしてくれるアーサーだが距離は適度に保っていて、ボニータの反応次第でスッと距離をとってくれる。
それに構われるのが嫌じゃない自分にも戸惑っている。
結界が目的のくせに、と思いつつも好意が膨らんでいく自分にも戸惑うボニータだった。
「公務へ行かなくていいの?」
「ん、こっちでも出来ることはあるからね」
アーサーはボニータが寝ている客室に執務机を持ち込んでいた。
書類仕事の類は、そこでやっている。
すぐ横、といっても広い客室なので距離はあるが、ボニータから見える所で仕事をしていた。
ボニータのお世話が終わればすぐに自分の仕事にとりかかるアーサーは、とても忙しいのだろう。
「自分の執務室でやったほうが効率いいでしょ?」
「私はここがいい」
笑いながら立ち上がったアーサーは、ふっと動きを止めてボニータを振り返って聞いた。
「邪魔かな?」
「ん、邪魔」
アーサーはボニータからはっきり言われて情けない感じに眉をヘニョリと下げた。
それでも部屋から去る様子はなく、執務机へと向かった。
そして黙々と作業を続けている。
時折、ボニータのお世話で使用人たちが出入りする音と、アーサーがペンを走らせる音。
書類をめくる音が聞こえるくらい部屋の中は静かだ。
だから、うるさいというのは厳密には違うだろう。
でも、気になるのは気になる。
(居るだけといえば居るだけなんだけど……)
ボニータはベッドの上から、そっとアーサーの様子をうかがう。
キラキラ輝く金髪に真剣な青い瞳。
書類仕事をやっつけている出来る男モードのアーサーは、はっきり言って素敵だ。
胸がドキドキする。
(病床にいる私には、あまりよくない気がする)
そう思いつつチラチラとアーサーの姿を目で追ってしまう。
早く森に帰りたい気持ちと、この時間が長く続けばいいのにという思いが、ボニータの中で複雑に絡み合っていた。
薬が効いて目覚めたからといって、すぐにベッドから起き上がれるわけでもなかったからだ。
(そりゃ、十日も寝込めばすぐに動けるわけないよね)
体力も落ち、若干の後遺症も見られたボニータは王城の客室で、お世話を受ける日々が続いた。
とはいえ、今日で目覚めて三日。
自分で食事も摂れるようになり、少しずつ動けるようになってきた。
大きく開け放たれた窓からは気持ちの良い朝の風が入ってくる。
ボニータはベッドで朝食を摂っていた。
「王太子さまに食べさせてもらわなくても大丈夫だから」
「そう? 私は食事の介護が出来て嬉しい」
ボニータが身構える横で、いそいそと一国の王太子が魔女のお世話をしている。
居心地が悪いのに、居心地が良い。
矛盾した感覚にボニータは戸惑う。
「はい、あーん」
そう言いながらアーサーが口元にスープをすくったスプーンを持ってくれば、ついつい口を開けてしまうボニータだった。
目覚めた後のアーサーは始終、こんな感じだ。
メイドたちもいるのだから任せればいいのに、アーサーが出来る範囲のことはしたがる。
さすがに着替えの介助などは断っているが、やたらとボニータの世話を焼きたがって困るのだ。
「起きられるようになったら森へ帰る」
「ん、そうか」
ボニータの言葉をニコニコしながら聞くアーサーの真意がイマイチ分からない。
餌付けのような朝食が終わると、メイドが後片付けにやってきた。
(やたらと構ってくるから、このまま監禁する勢いで来るかと思ったのに……)
色々と世話をしてくれるアーサーだが距離は適度に保っていて、ボニータの反応次第でスッと距離をとってくれる。
それに構われるのが嫌じゃない自分にも戸惑っている。
結界が目的のくせに、と思いつつも好意が膨らんでいく自分にも戸惑うボニータだった。
「公務へ行かなくていいの?」
「ん、こっちでも出来ることはあるからね」
アーサーはボニータが寝ている客室に執務机を持ち込んでいた。
書類仕事の類は、そこでやっている。
すぐ横、といっても広い客室なので距離はあるが、ボニータから見える所で仕事をしていた。
ボニータのお世話が終わればすぐに自分の仕事にとりかかるアーサーは、とても忙しいのだろう。
「自分の執務室でやったほうが効率いいでしょ?」
「私はここがいい」
笑いながら立ち上がったアーサーは、ふっと動きを止めてボニータを振り返って聞いた。
「邪魔かな?」
「ん、邪魔」
アーサーはボニータからはっきり言われて情けない感じに眉をヘニョリと下げた。
それでも部屋から去る様子はなく、執務机へと向かった。
そして黙々と作業を続けている。
時折、ボニータのお世話で使用人たちが出入りする音と、アーサーがペンを走らせる音。
書類をめくる音が聞こえるくらい部屋の中は静かだ。
だから、うるさいというのは厳密には違うだろう。
でも、気になるのは気になる。
(居るだけといえば居るだけなんだけど……)
ボニータはベッドの上から、そっとアーサーの様子をうかがう。
キラキラ輝く金髪に真剣な青い瞳。
書類仕事をやっつけている出来る男モードのアーサーは、はっきり言って素敵だ。
胸がドキドキする。
(病床にいる私には、あまりよくない気がする)
そう思いつつチラチラとアーサーの姿を目で追ってしまう。
早く森に帰りたい気持ちと、この時間が長く続けばいいのにという思いが、ボニータの中で複雑に絡み合っていた。
126
お気に入りに追加
513
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
美人の偽聖女に真実の愛を見た王太子は、超デブス聖女と婚約破棄、今さら戻ってこいと言えずに国は滅ぶ
青の雀
恋愛
メープル国には二人の聖女候補がいるが、一人は超デブスな醜女、もう一人は見た目だけの超絶美人
世界旅行を続けていく中で、痩せて見違えるほどの美女に変身します。
デブスは本当の聖女で、美人は偽聖女
小国は栄え、大国は滅びる。
父が転勤中に突如現れた継母子に婚約者も家も王家!?も乗っ取られそうになったので、屋敷ごとさよならすることにしました。どうぞご勝手に。
青の雀
恋愛
何でも欲しがり屋の自称病弱な義妹は、公爵家当主の座も王子様の婚約者も狙う。と似たような話になる予定。ちょっと、違うけど、発想は同じ。
公爵令嬢のジュリアスティは、幼い時から精霊の申し子で、聖女様ではないか?と噂があった令嬢。
父が長期出張中に、なぜか新しい後妻と連れ子の娘が転がり込んできたのだ。
そして、継母と義姉妹はやりたい放題をして、王子様からも婚約破棄されてしまいます。
3人がお出かけした隙に、屋根裏部屋に閉じ込められたジュリアスティは、精霊の手を借り、使用人と屋敷ごと家出を試みます。
長期出張中の父の赴任先に、無事着くと聖女覚醒して、他国の王子様と幸せになるという話ができれば、イイなぁと思って書き始めます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~
アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
お姫様は死に、魔女様は目覚めた
悠十
恋愛
とある大国に、小さいけれど豊かな国の姫君が側妃として嫁いだ。
しかし、離宮に案内されるも、離宮には侍女も衛兵も居ない。ベルを鳴らしても、人を呼んでも誰も来ず、姫君は長旅の疲れから眠り込んでしまう。
そして、深夜、姫君は目覚め、体の不調を感じた。そのまま気を失い、三度目覚め、三度気を失い、そして……
「あ、あれ? えっ、なんで私、前の体に戻ってるわけ?」
姫君だった少女は、前世の魔女の体に魂が戻ってきていた。
「えっ、まさか、あのまま死んだ⁉」
魔女は慌てて遠見の水晶を覗き込む。自分の――姫君の体は、嫁いだ大国はいったいどうなっているのか知るために……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる