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契約に縛られた魔女!

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 森の魔女は、がめつかった。

 瘴気溢れる北の大地に隣接する王国は、古来からその対策に頭を悩ませていた。
 その解決策を提示したのが、森の魔女だ。
 彼女は瘴気から王国を守るための防護壁を、魔法の力で作り出してみせた。

 王国は喜んだが、防護壁はタダではなかった。
 森の魔女は対価を王国に要求したのだ。
 その対価は莫大で国家予算を圧迫した。
 王国の様々な予算は極限まで削られ、国王をはじめとする王族ですら清貧を強いられることとなった。

 お金は払いたくない。だからといって魔法を解かれて防護壁をなくされても困る。
 他に手立てのない王国は森の魔女へ言われるままの対価を払い、貧乏に耐えた。
 当然のように森の魔女への不満は募っていった。

 だから森の魔女が思いのほか早い死を迎え、養い子にして森の魔女の後継者であるボニータが独り残された時、王国の者たちは素早く動いたのだ。
 ボニータを森から連れ出し、言葉巧みに魔法契約を結んで支配下に置いたのである。

 対価は王子との婚約。

 それによって王国は森の魔女を手に入れ、ボニータは自由を失った。
 ボニータの魔法は王国の管理下におかれ、彼女自身ですら勝手に使えなくなったのだ。
 既に一端の魔法使いであったボニータにとって、それは耐え難い苦痛であった。

 ボニータは王宮という豪華な檻に囚われたことも、王子の妃となるに相応しい淑女となるべく教育を受けさせられたことも、 森の中で自由に生きていた彼女にとっては耐え難いことだった。

 今日は、そんなボニータが王立学園を卒業する日だ。

 うららかな春の日の午後。

 王宮並みの豪華さを誇る学園大広間に集まった令嬢や令息たちは、競い合うように煌びやかな衣装に身を包んで晴れの日の浮き立つ気分を味わっていた。
 卒業後には新たなるステージに立つ予定の身分やお金に恵まれた彼らは、未来への希望に輝いている。

(でも、私の人生は変わらない)

 ボニータはそんな風に思いながら、学園の大広間に立っていた。
 今日は彼女も華やかに着飾っている。
 フワフワの紫色の髪を高く結い上げられ、黒とパープルの生地をたっぷりと使ったドレスには金の刺繍も施されていた。
 ボニータは痩せっぽちで背が低い。
 華やかすぎるドレスのせいで、着ているというよりは着られているように見えた。

 結い上げた紫色の髪には、大振りの髪飾りがつけられていた。
 髪飾りは金色で、婚約者の瞳の色である青い宝石が輝いている。
 イヤリングやネックレスも、基本は同じだ。
 たっぷりの金を使って青い宝石をあしらった豪華なアクセサリーは、見た者のため息を誘った。

(本当に窮屈で退屈)

 だがそれらを身に着けた当の本人は、退屈のあまり出そうな欠伸をかみ殺すのに忙しい。

 だまし討ちのような魔法契約は、ボニータの生活を一転させてしまった。
 王宮での暮らしは贅沢なものであったが、森で自由に生きていた少女にとっては窮屈でしかない。
 ボニータは森での生活が楽しかったし、森の家へと帰りたかった。

 しかし王宮の人々の見方は違っていたのだ。
 彼らはボニータから何かを奪ったという自覚などない。
 むしろ与えているという意識が強かった。
 しまいには、森での暮らしよりも豊かである今の生活に感謝しろ、と迫る始末だ。
 王宮の者たちは、ボニータに対して後ろめたい気持ちなど一切持ってはいなかった。

(ご飯は王宮の方が美味しいけど、私は森の方が好き)

 ボニータは心の中でつぶやく。

 そもそもボニータが一緒にいたいと願った王子は、婚約者とは別の王子だ。
 ボニータに優しくしてくれた素敵な王子さまであるアーサーが、次の国王になる人物であると知ったのはずいぶんと後のことである。
 王太子の婚約者になれば、未来の王妃だ。
 未来の王妃が魔女では外聞が悪いと考えた王国は、彼女の婚約者として高慢で使い道のない第三王子をあてがった。

 ボニータからしたら、とんだ茶番である。
 だからといって、魔法という身を守る術を失った八歳の身寄りのない少女が、国を相手に抵抗できるはずもない。
 訳も分からず魔法契約によって王国に縛られた八歳の少女は、あっという間に十八歳になった。

(だからって賢くもなければ後ろ盾もない私に、出来ることなんて何もない。魔法が使えなきゃ、私は何も出来ない小娘なんだ。助けにきてくれる王子さまもいないんだし……)

 子どもから大人になったといっても、魔法の使えないボニータには対抗手段がない。
 彼女は十八歳にして自分の人生を半ばあきらめていた。

 卒業式典の後には舞踏会が行われてることになっていた。
 そこで婚約者をお披露目する者もいれば、婚約者を見つける者もいる。
 毎年恒例の行事に卒業生たちはウキウキソワソワと気もそぞろだ。
 しかしボニータにとっては、どうでも良いことだ。
 
(こんな行事、早く終わればいいのに)

 面倒で堅苦しい式典に飽きて立ったまま半分眠っていたボニータだったが、転機は突然訪れたのである。
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