私、幸せじゃないから離婚しまーす。…え? 本当の娘だと思っているから我慢して? お義母さま、ボケたのですか? 私たち元から他人です!

天田れおぽん

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元侍女との結婚

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 キラキラ光る金髪に緑の瞳。

 キャメロンは男性化しても美しい。

 女性化している時よりも体は二回りほど大きくなった。

 メリーよりも小柄だった侍女は今、メリーよりも大きくたくましい。

 男性化してもキャメロンは、侍従としてメリーの側にいる。

 でもメリーとしては、もっと近い距離にいて欲しい。

 だからメリーはキャメロンの目を見て言った。

「結婚してください」

 魔法のせいとはいえ他の男と一回結婚してしまった身としては、メリーの方からプロポーズすべきだと思ったのだ。

 場所が執務室で、メリーが事務机の前に座り、キャメロンに渡したのが処理済みの書類だったとしても、プロポーズはプロポーズである。

 窓から差し込む午前の日差しがキャメロンの金髪を煌めかせるのを見ていたら、メリーはなんとなく突然に、プロポーズがしたくてたまらなくなったのだから仕方ない。

 穏やかに効率よく執務の進む空間の心地よさに任せて、メリーは本音を告げたのだ。

 キャメロンは、いつかのように驚きで目を見開いたけれど、それは一瞬。

 彫刻のように美しく整った顔に嬉しそうな笑みを浮かべると。

「はい」

 と答えた。

***

 結婚が決まると、鉱石の採掘場がある領地送りになったアレクから手紙が届いた。

 コレットと共に結婚式に出たいから許可をください、という内容だ。

 採掘場からとれる鉱石には高値がつくが、運搬のための道は落石事故によりちょこちょこ使えなくなる。

 領地内での収穫は少なく、採れたものは農民優先だ。

 農民には別途、採掘場からの収益が分配されている。

 だから厳しい環境にある領地でも農民には人気があるのだ。

 足りない分は採掘場からの収益を使って購入し、鉱石運搬のための道を使って送られる。

 こちらは衛兵たちが優先される。

 厳しい環境ではあるが報酬は良いし、食事も優先されているから衛兵たちからも評判がよい職場である。

 だから領地の守りも完璧だ。

 道はちょくちょく使えなくなるが、鉱石は高値がつくのでお金には困らない。

 逆に送られる物資は食料をはじめとしてかさばるものが多いので、常に足りない状態が続いている。

 だが採掘場で働く者たちは殆どが懲罰対象者なので、特に問題視はされてはいない。

 アレクとコレットは厳しい環境に、早くも音を上げている状態のようだ。

 メリーは、二度目の結婚なので気遣い無用につき仕事にお励みください、と書いた手紙を出した。 

***

 その結婚式は、侯爵家にしては地味なものだった。

 メリーは二度目の結婚であるし、お相手には爵位がない。

 新婦であるメリーと、新郎であるキャメロン。

 正式な列席者はキャメロンの母とメリーの両親だけという実に地味なものであったが、財力も地位も既にあり、貴族たちを威嚇するような派手な式も必要のないコンサバティ侯爵家らしい結婚式となった。

 ただし正式に呼ばれていない列席者は数多くいて、そのほとんどが新郎側のものだった。

 メリーの感想としては、精霊とか聖獣とか妖精って本当にいるんだ、である。

 とはいえ、新婦にはひとつ大きな心配事があった。

「ねぇ、キャメロン。愛しい旦那さま。貴方がまた女性化したら、私はどうしたらいいのかしら?」

「そのときはね、メリー。可愛い貴女が、キスをしてくれたらいいんじゃないかな?」

 キャメロンはメリーを横向きに抱き上げた。

 俗にお姫さま抱っこと呼ばれるものである。

「キャッ」

 メリーは小さく歓喜の悲鳴を上げて、両腕をキャメロンの首に回した。

 そうなると、どうなるか?

 丁度良い場所にキャメロンの唇がくるのだ。

 メリーはお返しとばかりにキャメロンの唇に自分のそれを重ねた。

 彼の体が硬くなり、熱く熱く茹で上がる。

「おお」とか「あら」とか「まぁ」とか聞こえたが、今日は結婚式。

 新婚カップルがお熱いのはお約束である。

 自分をしっかりと抱えるキャメロンの熱を感じながら、精霊とか聖獣とか妖精なんかも囃し立てるのね、とメリーは思った。

 メリーは今、とても幸せだ。

~おわり~
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