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とって付けたようなTS
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キャメロンの母の手によって全ての魔法が取り払われたコンサバティ侯爵家では、色々なことが変わっていた。
メイド長の声まで変えられていたのには、笑ってしまったメリーである。
確かにメイド長は強面であるから、低くてドスの効いた声のほうが似合う。
だからといって、魔法で変えてはいけない。
魔法が解けた今、一オクターブ上がって澄んだ少女のような声になったメイド長の話を聞いていると、笑いをこらえるのが大変なのだ。
似合わないからといって無理に変えると、その後に慣れるまでが大変になる。
メリーは1つ学んだ。
元トレンドア伯爵への恋慕は全くのでたらめだったようで、離婚についてメリーは一片の悔いもない。
しかし結婚していた事実については後悔が残っている。
好きでもなく、政略的にも意味のない結婚ほど腹の立つものはない。
しかも元婚約者であるキャメロンが、女性化したままなのだ。
紅茶の味が、アッサムの茶葉で淹れてダージリンの味がしたってどうってことはない。
紅茶は紅茶だ。
ナイフとフォークを言い間違えたって食事はできる。
しかし、男性が女性化したままでは色々と不都合があるのだ。
メリーは仕方なく、キャメロンの母に相談した。
「キャメロンを……その……男性に戻すには、どうしたら良いのですか?」
「んー……そうだねぇ」
魔女はキャメロンとよく似た緑色の瞳をグルリと一周回した。
「この屋敷の魔法は全て解いたのに、あの子は戻らなかったからねぇ……アレは呪いかもしれない」
「呪い、ですか?」
メリーの真剣な表情を見たキャメロンの母は豪快に笑った。
「はっはっは。アンタ、本当にうちの馬鹿息子が好きなのかい?」
「えっ……ええ」
メリーは真っ赤になりながらも肯定の返事をした。
好きな相手の母親に、こんな相談をするなんて。
改めて好きかと問われてしまうと恥ずかしい。
だからって否定することでもないし、なによりメリーは答えが欲しかった。
「呪いを解く鍵は、いつだって愛。そう相場は決まってる。アンタがうちの馬鹿息子を愛しているというのなら、キスのひとつもしてやったら呪いも解けるんじゃないかい?」
「キス?」
キャメロンの母はメリーの目を見て、ニヤリと笑った。
「あぁ。キスだよ。ドラマチックに呪いを解くなら、いつだってキスが有効さ」
「キス……」
そういえば記憶を探っても、メリーにはキスをした経験がない。
元トレンドア伯爵との結婚は腹が立つものだったが、実質的には何もなく白い結婚だったのが幸いした。
「キスといっても子どもがするようなヤツじゃないよ。恋人同士のお熱いヤツでないとね」
キャメロンの母はカッカッカッと笑いながら、揶揄うようにメリーの背中を何度もドンドンと叩いた。
メリーは、揶揄うにしては背中を叩く力が強すぎると感じた。
だが(キスかぁ~キスなのかぁ~)と得た答えのハードルの高さにメリーは真っ赤に茹で上がるのに忙しく、キャメロンの母へ抗議するには至らなかったのだった。
***
さてキスである。
「お嬢さま、どうかなさいましたか?」
キャメロンが気遣わしげに聞いてくるが、素直に答えるのはメリーにとって恥ずかしすぎた。
だからといって、いきなりキスするのもどうだろうか?
メリーは自室で、メイド服姿のキャメロンを眺めながら悶々と悩んでいた。
女性化しているキャメロンは可愛い。
記憶がちょっぴり遠いのでよく思い出せないが、男性化したキャメロンはカッコよかったように思う。
メリーは悩んだ。
どちらも魅力的で選び難い。
キスをしてしまって、呪いが解けて、女性化した姿を二度と見られないのも惜しい。
しかし、だからといって女性化したまま結婚しようとするのは無理がある。
メリーはコンサバティ侯爵家を継ぐ。
配偶者は是非とも手に入れたい。
そして可能であれば、それはキャメロンであって欲しい。
メリーは悶々と悩んでいた。
「お嬢さま?」
ソファーに座っていたメリーの前にキャメロンが跪き、覗き込んできた。
ダメである。
こんな丁度良い位置関係に入り込まれては、ダメである。
「どうなさいました? お嬢……」
キャメロンの、その言葉の先はメリーの唇に呑み込まれ。
緑の瞳は目いっぱい大きく広げられて、焦点も合わないままメリーを凝視していた。
メリーはギュッと目をつぶると、キャメロンの頭を抱え込むようにしてその唇を奪った。
いまとなってはキャメロンと恋人同士かどうか、メリーには分からない。
だがこれはキャメロンの母が言っていた、お熱いヤツ、というものであろう。
実際メリーの体は熱い。
グラグラと煮えたぎった湯に放り込まれたタコのようになっていることだろう。
キャメロンにとってはどうだろうか?
メリーはギュッと閉じていた目を薄っすら開けてキャメロンを見た。
キャメロンは目を大きく広げたまま固まっている。
何も変化はない、と思われたが――――
「あっ⁉」
何かが盛大に破れるような音がして、メリーは驚きキャメロンから体を離した。
目の前でキャメロンの体がみるみるうちにデカくなっていく。
キャメロンが男性化している!
こんなに唐突に変わるとは思っていなかったメリーは驚きに目を見開いた。
「えっ⁉ あっ!」
キャメロン自身も驚きに声を上げている。
その声は発している途中から、男性のそれになっていく。
男性化したキャメロンの体は締まってはいるが、そこはやはり男性。
痩せてはいても筋肉量が違う。
あっという間にメイド服は上半身が裂けてボロボロになった。
「似合っていたのに、勿体ない」
メリーはキャメロンをガン見しながらポツリとつぶやいた。
キャメロンは服がズタズタになって半裸になった上半身を恥ずかしそうに両腕で隠し、メリーからそっと視線を外した。
メイド長の声まで変えられていたのには、笑ってしまったメリーである。
確かにメイド長は強面であるから、低くてドスの効いた声のほうが似合う。
だからといって、魔法で変えてはいけない。
魔法が解けた今、一オクターブ上がって澄んだ少女のような声になったメイド長の話を聞いていると、笑いをこらえるのが大変なのだ。
似合わないからといって無理に変えると、その後に慣れるまでが大変になる。
メリーは1つ学んだ。
元トレンドア伯爵への恋慕は全くのでたらめだったようで、離婚についてメリーは一片の悔いもない。
しかし結婚していた事実については後悔が残っている。
好きでもなく、政略的にも意味のない結婚ほど腹の立つものはない。
しかも元婚約者であるキャメロンが、女性化したままなのだ。
紅茶の味が、アッサムの茶葉で淹れてダージリンの味がしたってどうってことはない。
紅茶は紅茶だ。
ナイフとフォークを言い間違えたって食事はできる。
しかし、男性が女性化したままでは色々と不都合があるのだ。
メリーは仕方なく、キャメロンの母に相談した。
「キャメロンを……その……男性に戻すには、どうしたら良いのですか?」
「んー……そうだねぇ」
魔女はキャメロンとよく似た緑色の瞳をグルリと一周回した。
「この屋敷の魔法は全て解いたのに、あの子は戻らなかったからねぇ……アレは呪いかもしれない」
「呪い、ですか?」
メリーの真剣な表情を見たキャメロンの母は豪快に笑った。
「はっはっは。アンタ、本当にうちの馬鹿息子が好きなのかい?」
「えっ……ええ」
メリーは真っ赤になりながらも肯定の返事をした。
好きな相手の母親に、こんな相談をするなんて。
改めて好きかと問われてしまうと恥ずかしい。
だからって否定することでもないし、なによりメリーは答えが欲しかった。
「呪いを解く鍵は、いつだって愛。そう相場は決まってる。アンタがうちの馬鹿息子を愛しているというのなら、キスのひとつもしてやったら呪いも解けるんじゃないかい?」
「キス?」
キャメロンの母はメリーの目を見て、ニヤリと笑った。
「あぁ。キスだよ。ドラマチックに呪いを解くなら、いつだってキスが有効さ」
「キス……」
そういえば記憶を探っても、メリーにはキスをした経験がない。
元トレンドア伯爵との結婚は腹が立つものだったが、実質的には何もなく白い結婚だったのが幸いした。
「キスといっても子どもがするようなヤツじゃないよ。恋人同士のお熱いヤツでないとね」
キャメロンの母はカッカッカッと笑いながら、揶揄うようにメリーの背中を何度もドンドンと叩いた。
メリーは、揶揄うにしては背中を叩く力が強すぎると感じた。
だが(キスかぁ~キスなのかぁ~)と得た答えのハードルの高さにメリーは真っ赤に茹で上がるのに忙しく、キャメロンの母へ抗議するには至らなかったのだった。
***
さてキスである。
「お嬢さま、どうかなさいましたか?」
キャメロンが気遣わしげに聞いてくるが、素直に答えるのはメリーにとって恥ずかしすぎた。
だからといって、いきなりキスするのもどうだろうか?
メリーは自室で、メイド服姿のキャメロンを眺めながら悶々と悩んでいた。
女性化しているキャメロンは可愛い。
記憶がちょっぴり遠いのでよく思い出せないが、男性化したキャメロンはカッコよかったように思う。
メリーは悩んだ。
どちらも魅力的で選び難い。
キスをしてしまって、呪いが解けて、女性化した姿を二度と見られないのも惜しい。
しかし、だからといって女性化したまま結婚しようとするのは無理がある。
メリーはコンサバティ侯爵家を継ぐ。
配偶者は是非とも手に入れたい。
そして可能であれば、それはキャメロンであって欲しい。
メリーは悶々と悩んでいた。
「お嬢さま?」
ソファーに座っていたメリーの前にキャメロンが跪き、覗き込んできた。
ダメである。
こんな丁度良い位置関係に入り込まれては、ダメである。
「どうなさいました? お嬢……」
キャメロンの、その言葉の先はメリーの唇に呑み込まれ。
緑の瞳は目いっぱい大きく広げられて、焦点も合わないままメリーを凝視していた。
メリーはギュッと目をつぶると、キャメロンの頭を抱え込むようにしてその唇を奪った。
いまとなってはキャメロンと恋人同士かどうか、メリーには分からない。
だがこれはキャメロンの母が言っていた、お熱いヤツ、というものであろう。
実際メリーの体は熱い。
グラグラと煮えたぎった湯に放り込まれたタコのようになっていることだろう。
キャメロンにとってはどうだろうか?
メリーはギュッと閉じていた目を薄っすら開けてキャメロンを見た。
キャメロンは目を大きく広げたまま固まっている。
何も変化はない、と思われたが――――
「あっ⁉」
何かが盛大に破れるような音がして、メリーは驚きキャメロンから体を離した。
目の前でキャメロンの体がみるみるうちにデカくなっていく。
キャメロンが男性化している!
こんなに唐突に変わるとは思っていなかったメリーは驚きに目を見開いた。
「えっ⁉ あっ!」
キャメロン自身も驚きに声を上げている。
その声は発している途中から、男性のそれになっていく。
男性化したキャメロンの体は締まってはいるが、そこはやはり男性。
痩せてはいても筋肉量が違う。
あっという間にメイド服は上半身が裂けてボロボロになった。
「似合っていたのに、勿体ない」
メリーはキャメロンをガン見しながらポツリとつぶやいた。
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