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覚醒
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「メリー、迎えに来たよ!」
真っ赤な薔薇の花束を抱えて、トレンドア伯爵が屋敷の入り口にバーンと登場した。
ちょうど入り口付近の窓を掃除していたメリーは、そのままトレンドア伯爵の金髪にもパタパタとはたきをかけたくなった。
しかし来客に向かっていきなりはたきをかけるのは無礼である。
その程度の良識を持ち合わせているメリーはグッと耐えた。
メリーはトレンドア伯爵の顔をジッと見てみたが、なぜ夢中になったのか分からない。
女性化しているせいかもしれないが、キャメロンのほうが圧倒的に美形である。
やはり魔法、などと考えていたメリーの前に、トレンドア伯爵は片膝ついて跪いた。
そして、彼女の目の前に薔薇の花束を差し出しす。
「愛するメリー」
初手から嘘か?
メリーはすかさず心の中で突っ込みを入れる程度には、トレンドア伯爵の愛の言葉には信頼がなかった。
「どうか我が家に戻ってきておくれ」
跪いたまま、メリーを見上げるトレンドア伯爵。
はたきを手に持ったまま、トレンドア伯爵を見下ろすメリー。
それを見守るキャメロン。
周囲にいる使用人たちも固唾を呑んで見守った。
「いらっしゃいませ、トレンドア伯爵さま」
そこへコレットがティーセットの載ったワゴンのキィキィという音と共に現れた。
「まずは、お茶を一杯いかが?」
いくら何でも玄関先にティーワゴンを押しながら現れるのは普通でない。
そのくらいのことはメリーにも分かっていたが、彼女を含めて誰も突っ込む者はいなかった。
「ありがとう、いただくよ」
トレンドア伯爵はスッと立ち上がると、薔薇の花束を邪魔な荷物のようにメリーへ押し付けた。
そしてコレットから紅茶のカップを受け取りながら、入れ替えるようにピンクの小瓶を渡す。
まるで見せつけるかのような動きなのに、誰も突っ込まない。誰も止めない。
コレットが小瓶の中身を垂らしたカップをメリーに差し出したことにも、誰も突っ込まないし、誰も止めなかった。
突っ込めないし、止められない。
そちらの方が正しい。
白昼夢のように繰り広げられる行動に従うしかないような、不思議な時間が流れていた。
これは飲んではいけないもの。
メリーはそう思ったが、口元にカップを運ぶ手を止められない。
これを飲んでしまったらどうなるのか。
恐ろしく思いながらも、メリーは自分の行動が止められなかった。
「全く、この屋敷ときたらっ! どこもかしこも魔法がかかっているじゃないっ!」
突然の大声に皆が驚き、振り返る。
開け離れた扉の向こうには、絵に描いた魔女のような女性の姿があった。
三角形のとがった黒い帽子に黒いマント、肩に落ちる白髪交じりの長い黒髪、節くれだったゴツイけれど細い指が、曲がりくねった木の棒に飾りの絡みついた杖を握っている。
「これじゃ、まともな話1つできやしない。まず魔法を解かなきゃ」
魔女のような人物は、何か呪文のようなものをつぶやいて地面についた杖の先を大きく回した。
そこから渦巻くように光がこぼれて膨らんで、やがて眩しいきらめきが家全体を覆っていく。
思い切り膨らんだ煌めきがバーンと音を立てて散ると、皆が目を瞬かせた。
「えっ? なに? えっ、誰?」
メリーはパチパチと目を瞬かせて辺りを見回し、初めて気付いたかのように魔女のような人物を見た。
「えっ、お父さまにお母さま?」
魔女のような人物の後ろには、メリーの両親であるコンサバティ侯爵とその夫人がいた。
一体何が起きたのか?
メリーは戸惑ったように、両親と魔女のような人物を交互に見た。
そして呆然とするキャメロンが「お母さま」とつぶやくのを聞いた。
真っ赤な薔薇の花束を抱えて、トレンドア伯爵が屋敷の入り口にバーンと登場した。
ちょうど入り口付近の窓を掃除していたメリーは、そのままトレンドア伯爵の金髪にもパタパタとはたきをかけたくなった。
しかし来客に向かっていきなりはたきをかけるのは無礼である。
その程度の良識を持ち合わせているメリーはグッと耐えた。
メリーはトレンドア伯爵の顔をジッと見てみたが、なぜ夢中になったのか分からない。
女性化しているせいかもしれないが、キャメロンのほうが圧倒的に美形である。
やはり魔法、などと考えていたメリーの前に、トレンドア伯爵は片膝ついて跪いた。
そして、彼女の目の前に薔薇の花束を差し出しす。
「愛するメリー」
初手から嘘か?
メリーはすかさず心の中で突っ込みを入れる程度には、トレンドア伯爵の愛の言葉には信頼がなかった。
「どうか我が家に戻ってきておくれ」
跪いたまま、メリーを見上げるトレンドア伯爵。
はたきを手に持ったまま、トレンドア伯爵を見下ろすメリー。
それを見守るキャメロン。
周囲にいる使用人たちも固唾を呑んで見守った。
「いらっしゃいませ、トレンドア伯爵さま」
そこへコレットがティーセットの載ったワゴンのキィキィという音と共に現れた。
「まずは、お茶を一杯いかが?」
いくら何でも玄関先にティーワゴンを押しながら現れるのは普通でない。
そのくらいのことはメリーにも分かっていたが、彼女を含めて誰も突っ込む者はいなかった。
「ありがとう、いただくよ」
トレンドア伯爵はスッと立ち上がると、薔薇の花束を邪魔な荷物のようにメリーへ押し付けた。
そしてコレットから紅茶のカップを受け取りながら、入れ替えるようにピンクの小瓶を渡す。
まるで見せつけるかのような動きなのに、誰も突っ込まない。誰も止めない。
コレットが小瓶の中身を垂らしたカップをメリーに差し出したことにも、誰も突っ込まないし、誰も止めなかった。
突っ込めないし、止められない。
そちらの方が正しい。
白昼夢のように繰り広げられる行動に従うしかないような、不思議な時間が流れていた。
これは飲んではいけないもの。
メリーはそう思ったが、口元にカップを運ぶ手を止められない。
これを飲んでしまったらどうなるのか。
恐ろしく思いながらも、メリーは自分の行動が止められなかった。
「全く、この屋敷ときたらっ! どこもかしこも魔法がかかっているじゃないっ!」
突然の大声に皆が驚き、振り返る。
開け離れた扉の向こうには、絵に描いた魔女のような女性の姿があった。
三角形のとがった黒い帽子に黒いマント、肩に落ちる白髪交じりの長い黒髪、節くれだったゴツイけれど細い指が、曲がりくねった木の棒に飾りの絡みついた杖を握っている。
「これじゃ、まともな話1つできやしない。まず魔法を解かなきゃ」
魔女のような人物は、何か呪文のようなものをつぶやいて地面についた杖の先を大きく回した。
そこから渦巻くように光がこぼれて膨らんで、やがて眩しいきらめきが家全体を覆っていく。
思い切り膨らんだ煌めきがバーンと音を立てて散ると、皆が目を瞬かせた。
「えっ? なに? えっ、誰?」
メリーはパチパチと目を瞬かせて辺りを見回し、初めて気付いたかのように魔女のような人物を見た。
「えっ、お父さまにお母さま?」
魔女のような人物の後ろには、メリーの両親であるコンサバティ侯爵とその夫人がいた。
一体何が起きたのか?
メリーは戸惑ったように、両親と魔女のような人物を交互に見た。
そして呆然とするキャメロンが「お母さま」とつぶやくのを聞いた。
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…ºo。✵…𖧷''☛Thank you ☚″𖧷…✵。oº…
☻2021.04.23 183,747pt/24h☻
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