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第一章 青春

第十二話

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 三年生はあっという間に終わる、と噂に聞いている。
 オレと颯太は、ぞろぞろと歩いている入学式終わりの新入生たちを教室の窓から眺めていた。

「早いな」
「ああ、早いな」

 オレのつぶやきに答えた颯太が背中に張り付いてくる。

「制服にお前の脂を擦り付けるんじゃない」
「いいじゃないか、冬吾。もう制服は、とっくにお古だ」
「そのお古を卒業式までもたせるというミッションが、オレには課されているんだよっ」

 顔の脂を制服に擦り付けている颯太の頭を、体をねじってオレはペチッと叩いた。
 春の空気は新鮮だけど気だるい。
 ふわふわしていて、眠たくて。
 今年でこの学校の桜も見納めか、という気分をチラリと抱いたりもするけれど実感はない。

「またくっついてるー」
「いいじゃないかっ、ほっといてくれよ」

 ケラケラ笑って突っ込む大東に、ぶすっとした表情になった颯太が言い返して。
 そのついでのように颯太はオレから離れていった。

 葵と秋月は相変わらず百合ップルとして名高いが、最近は颯太と大東のバカップルも有名になりつつある。

 ギャーギャー言い合っている颯太と大東はお似合いに見えるが、付き合ってはいないらしい。
 颯太いわく、大東はえっちすぎる、ということらしいが。
 えっちすぎても問題なかろう? と思うオレにとっては理解不能だ。
 オレから見ても、颯太と大東の相性は良さそうに見えるから、いずれはくっついてしまいそうだけど。
 気付いてないのは本人だけだ。

 成績はオレの方が上だけど、進学や就職だけでなく、異性関係すら問題なさそうな颯太のほうが順風満帆じゃない? と思わないでもない。
 
 じゃ、オレは?

 と考えて、ちょっぴりだけ不安になる。
 
 オレはこの先、どうなるんだろう?
 どうするんだろう?
 
 大学に進学して、一番自分を高く買ってくれそうな会社に就職して、空いた時間にゲームして。
 んー、そのくらいしか浮かばない。

 それでも十分に幸せだと思うんだ。
 思うんだけど……いいのか? それで?

 と思ったりもするけど、それもほんの一瞬。
 今が楽しいからいいや、で話は終わって日常に戻る。

 バタバタと過ぎていく日々は、慌ただしくて賑やかで。
 一生このまま、こんな感じで過ごしていそうな気がするけれど、多分それは勘違い。
 颯太も、大東も、近々オレの人生から距離を置く。

 流れていく時間がオレたちを大人にするから、勝手に状況は変わっていくんだろう。
 でもオレは多分、そんなに困らないし、変わらない。
 なんとなく、そう思う。

 忙しく過ごしていた一学期の終わりに、気付いたら葵の横に秋月の姿が見えなくなっていた。

「秋月さん、病気らしいよ。入院してるんだって」
「そうなんだ。大切な時期だっていうのに、可哀そうだな」

 大東の言葉に颯太が同情している。

 病気なんだ、進路のことで大変な時期なのに可哀そう。

 オレも颯太と同じで、秋月に同情した。
 でもこの時、オレはさして深刻には考えてなくて。
 葵が1人で寂しそうだな、と思いつつも、二学期が始まったらそこに秋月の姿は戻ってくるだろう、なんて思っていた。
 けれどオレの予想に反し、ゲームやら進路の話やらでバタつく夏休みを終えて二学期が始まった教室に、秋月の姿はなかった。
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