13 / 31
第一章 青春
第十二話
しおりを挟む
三年生はあっという間に終わる、と噂に聞いている。
オレと颯太は、ぞろぞろと歩いている入学式終わりの新入生たちを教室の窓から眺めていた。
「早いな」
「ああ、早いな」
オレのつぶやきに答えた颯太が背中に張り付いてくる。
「制服にお前の脂を擦り付けるんじゃない」
「いいじゃないか、冬吾。もう制服は、とっくにお古だ」
「そのお古を卒業式までもたせるというミッションが、オレには課されているんだよっ」
顔の脂を制服に擦り付けている颯太の頭を、体をねじってオレはペチッと叩いた。
春の空気は新鮮だけど気だるい。
ふわふわしていて、眠たくて。
今年でこの学校の桜も見納めか、という気分をチラリと抱いたりもするけれど実感はない。
「またくっついてるー」
「いいじゃないかっ、ほっといてくれよ」
ケラケラ笑って突っ込む大東に、ぶすっとした表情になった颯太が言い返して。
そのついでのように颯太はオレから離れていった。
葵と秋月は相変わらず百合ップルとして名高いが、最近は颯太と大東のバカップルも有名になりつつある。
ギャーギャー言い合っている颯太と大東はお似合いに見えるが、付き合ってはいないらしい。
颯太いわく、大東はえっちすぎる、ということらしいが。
えっちすぎても問題なかろう? と思うオレにとっては理解不能だ。
オレから見ても、颯太と大東の相性は良さそうに見えるから、いずれはくっついてしまいそうだけど。
気付いてないのは本人だけだ。
成績はオレの方が上だけど、進学や就職だけでなく、異性関係すら問題なさそうな颯太のほうが順風満帆じゃない? と思わないでもない。
じゃ、オレは?
と考えて、ちょっぴりだけ不安になる。
オレはこの先、どうなるんだろう?
どうするんだろう?
大学に進学して、一番自分を高く買ってくれそうな会社に就職して、空いた時間にゲームして。
んー、そのくらいしか浮かばない。
それでも十分に幸せだと思うんだ。
思うんだけど……いいのか? それで?
と思ったりもするけど、それもほんの一瞬。
今が楽しいからいいや、で話は終わって日常に戻る。
バタバタと過ぎていく日々は、慌ただしくて賑やかで。
一生このまま、こんな感じで過ごしていそうな気がするけれど、多分それは勘違い。
颯太も、大東も、近々オレの人生から距離を置く。
流れていく時間がオレたちを大人にするから、勝手に状況は変わっていくんだろう。
でもオレは多分、そんなに困らないし、変わらない。
なんとなく、そう思う。
忙しく過ごしていた一学期の終わりに、気付いたら葵の横に秋月の姿が見えなくなっていた。
「秋月さん、病気らしいよ。入院してるんだって」
「そうなんだ。大切な時期だっていうのに、可哀そうだな」
大東の言葉に颯太が同情している。
病気なんだ、進路のことで大変な時期なのに可哀そう。
オレも颯太と同じで、秋月に同情した。
でもこの時、オレはさして深刻には考えてなくて。
葵が1人で寂しそうだな、と思いつつも、二学期が始まったらそこに秋月の姿は戻ってくるだろう、なんて思っていた。
けれどオレの予想に反し、ゲームやら進路の話やらでバタつく夏休みを終えて二学期が始まった教室に、秋月の姿はなかった。
オレと颯太は、ぞろぞろと歩いている入学式終わりの新入生たちを教室の窓から眺めていた。
「早いな」
「ああ、早いな」
オレのつぶやきに答えた颯太が背中に張り付いてくる。
「制服にお前の脂を擦り付けるんじゃない」
「いいじゃないか、冬吾。もう制服は、とっくにお古だ」
「そのお古を卒業式までもたせるというミッションが、オレには課されているんだよっ」
顔の脂を制服に擦り付けている颯太の頭を、体をねじってオレはペチッと叩いた。
春の空気は新鮮だけど気だるい。
ふわふわしていて、眠たくて。
今年でこの学校の桜も見納めか、という気分をチラリと抱いたりもするけれど実感はない。
「またくっついてるー」
「いいじゃないかっ、ほっといてくれよ」
ケラケラ笑って突っ込む大東に、ぶすっとした表情になった颯太が言い返して。
そのついでのように颯太はオレから離れていった。
葵と秋月は相変わらず百合ップルとして名高いが、最近は颯太と大東のバカップルも有名になりつつある。
ギャーギャー言い合っている颯太と大東はお似合いに見えるが、付き合ってはいないらしい。
颯太いわく、大東はえっちすぎる、ということらしいが。
えっちすぎても問題なかろう? と思うオレにとっては理解不能だ。
オレから見ても、颯太と大東の相性は良さそうに見えるから、いずれはくっついてしまいそうだけど。
気付いてないのは本人だけだ。
成績はオレの方が上だけど、進学や就職だけでなく、異性関係すら問題なさそうな颯太のほうが順風満帆じゃない? と思わないでもない。
じゃ、オレは?
と考えて、ちょっぴりだけ不安になる。
オレはこの先、どうなるんだろう?
どうするんだろう?
大学に進学して、一番自分を高く買ってくれそうな会社に就職して、空いた時間にゲームして。
んー、そのくらいしか浮かばない。
それでも十分に幸せだと思うんだ。
思うんだけど……いいのか? それで?
と思ったりもするけど、それもほんの一瞬。
今が楽しいからいいや、で話は終わって日常に戻る。
バタバタと過ぎていく日々は、慌ただしくて賑やかで。
一生このまま、こんな感じで過ごしていそうな気がするけれど、多分それは勘違い。
颯太も、大東も、近々オレの人生から距離を置く。
流れていく時間がオレたちを大人にするから、勝手に状況は変わっていくんだろう。
でもオレは多分、そんなに困らないし、変わらない。
なんとなく、そう思う。
忙しく過ごしていた一学期の終わりに、気付いたら葵の横に秋月の姿が見えなくなっていた。
「秋月さん、病気らしいよ。入院してるんだって」
「そうなんだ。大切な時期だっていうのに、可哀そうだな」
大東の言葉に颯太が同情している。
病気なんだ、進路のことで大変な時期なのに可哀そう。
オレも颯太と同じで、秋月に同情した。
でもこの時、オレはさして深刻には考えてなくて。
葵が1人で寂しそうだな、と思いつつも、二学期が始まったらそこに秋月の姿は戻ってくるだろう、なんて思っていた。
けれどオレの予想に反し、ゲームやら進路の話やらでバタつく夏休みを終えて二学期が始まった教室に、秋月の姿はなかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
水曜日は図書室で
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
青春
綾織 美久(あやおり みく)、高校二年生。
見た目も地味で引っ込み思案な性格の美久は目立つことが苦手でクラスでも静かに過ごしていた。好きなのは図書室で本を見たり読んだりすること、それともうひとつ。
あるとき美久は図書室で一人の男子・久保田 快(くぼた かい)に出会う。彼はカッコよかったがどこか不思議を秘めていた。偶然から美久は彼と仲良くなっていき『水曜日は図書室で会おう』と約束をすることに……。
第12回ドリーム小説大賞にて奨励賞をいただきました!
本当にありがとうございます!
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
姉らぶるっ!!
藍染惣右介兵衛
青春
俺には二人の容姿端麗な姉がいる。
自慢そうに聞こえただろうか?
それは少しばかり誤解だ。
この二人の姉、どちらも重大な欠陥があるのだ……
次女の青山花穂は高校二年で生徒会長。
外見上はすべて完璧に見える花穂姉ちゃん……
「花穂姉ちゃん! 下着でウロウロするのやめろよなっ!」
「んじゃ、裸ならいいってことねっ!」
▼物語概要
【恋愛感情欠落、解離性健忘というトラウマを抱えながら、姉やヒロインに囲まれて成長していく話です】
47万字以上の大長編になります。(2020年11月現在)
【※不健全ラブコメの注意事項】
この作品は通常のラブコメより下品下劣この上なく、ドン引き、ドシモ、変態、マニアック、陰謀と陰毛渦巻くご都合主義のオンパレードです。
それをウリにして、ギャグなどをミックスした作品です。一話(1部分)1800~3000字と短く、四コマ漫画感覚で手軽に読めます。
全編47万字前後となります。読みごたえも初期より増し、ガッツリ読みたい方にもお勧めです。
また、執筆・原作・草案者が男性と女性両方なので、主人公が男にもかかわらず、男性目線からややずれている部分があります。
【元々、小説家になろうで連載していたものを大幅改訂して連載します】
【なろう版から一部、ストーリー展開と主要キャラの名前が変更になりました】
【2017年4月、本幕が完結しました】
序幕・本幕であらかたの謎が解け、メインヒロインが確定します。
【2018年1月、真幕を開始しました】
ここから読み始めると盛大なネタバレになります(汗)
おっぱい揉む?と聞かれたので揉んでみたらよくわからない関係になりました
星宮 嶺
青春
週間、24hジャンル別ランキング最高1位!
ボカロカップ9位ありがとうございました!
高校2年生の太郎の青春が、突然加速する!
片想いの美咲、仲の良い女友達の花子、そして謎めいた生徒会長・東雲。
3人の魅力的な女の子たちに囲まれ、太郎の心は翻弄される!
「おっぱい揉む?」という衝撃的な誘いから始まる、
ドキドキの学園生活。
果たして太郎は、運命の相手を見つけ出せるのか?
笑いあり?涙あり?胸キュン必至?の青春ラブコメ、開幕!
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる