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躍り出たれり君のため

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 それはある日のこと。

 相も変わらず貧租の国はカラカラに乾いておりました。

 まだ日の高い暑い日。土埃舞う街のはずれの村で、午後の作業に出ようとしているほむらを呼び止める声が響きました。

「おい、ほむら

 振り返ると、ぜんがニヤニヤしながら立っていました。

「いい話があるんだけど、乗らねぇか」
「ん? なんだよ、突然」

 悪い予感しかしなくて、ほむらは顔をしかめました。

「なぁ、オマエ、金が欲しくないか?」
「いい儲け話があるんだよ」
「なんだよソレ。オレには仕事がある」
「仕事っていったって。ソレ、オジィの手伝いだろ?」
「そうだよ、そうだよ」
「ソレはいい仕事とは言えないよぉ、ほむらきゅ~ん」

 いつの間にかぜんの友人たちもいて。気付けば、ほむらは村の不良どもに囲まれていたのでございます。

「それにさぁ。愛しい姫さまのこともあるっしょ」
「いいのかよ。姫さま、取られちまうぞ」
「この国は貧乏だからな。どっかの国の王子に売られていくようなもんさ」

 ニヤニヤと下品な笑いを浮かべるぜんたちに、ほむらは顔をしかめました。

「仕方ないじゃないか。国のためなんだから」
「ホントに仕方ないことか?」

 ニヤニヤとしながらぜんほむらの顔を覗き込んできます。ほむらは眉根を寄せてさらに顔をしかめましたが、彼らが意に介することはありませんでした。

「そうだよ、貧乏だからって一生黙って貧乏している必要はないだろ」
「ある所にはあるんだ。そこから持ってくりゃいいのよ」

 ぜんの仲間たちもニヤニヤとしながらほむらを仲間に引き入れようとするのです。

 悪い誘いだ。

 ほむらにも、それは分かっておりました。

 ですが。

 若い恋人たちにとって、引き裂かれることは目に見えて分かっている残酷。

 もしも。
 もしも、万が一にも。
 彩姫と添い遂げることができるなら。

 引き裂かれて、どこの誰とも知れない他国の王子を王として、その妃たる女王となる彩姫を見ないで済むのなら。

 逃れる術があるのなら。

 貧しさから逃れて、さらに恋人との未来が見えてくるのなら。

 挑戦してみる価値はあるのではないか、と。

 ほむらの心は揺れるのでありました。

 

 それからほどなくの事でした。

「ちょっと野暮用で遠出してくる」

 そう彩姫に伝えてほむらが旅立ったのは。

 その後ろ姿に彩姫は。
 なんとなく。
 そこはかとなく。
 胸騒ぎを感じました。

 それでも、彩姫に彼を止める権利などありません。

 不安に胸を痛めながら、彩姫はほむらを見送ったのでありました。

 しかし。

 その悪い予感は、しっかりと当たってしまうのでございます。
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